引き継ぎ? そんなものはない。
昇格クエスト達成により、青宮は正式に“スマイル・アドベンチャー”のギルドマスターとなった。
ケガを負った乾、白井、青宮だが後遺症もなく、無事に即日復帰だ。
関 京也はギルドメンバーへ降格となったのだが……引き継ぎなどを一切しないまま、姿をくらました。
携帯へ鬼電したところへ、事務所へ電話がかかる。
ギルドマスターの席に座りながら、その電話をとった。
「おはようございます。株式会社モーダメです。関 京也さんの退職の旨を伝えるため、お電話させていただきました」
(逃げやがったな、あいつ)
最後の最後で、嫌がらせをしてやろうと思い、逃げたのだろう。
樹達はダンジョンへ出てしまったので、事務所には青宮1人。
上座の黒い革の椅子座りながら、はあ、とため息をついた。
そもそも彼は、青宮達を殺そうとした男だ。
樹達はクエスト達成の証拠確保のため、ドローンを飛ばしていた。
その映像に関の殺人未遂行為がバッチリ映っている。
(まあ、正式に刑罰を受けてもらうとするか)
関の件の対応は、警察と協会に委任するべきだろう。
「それにしても。ムダな書類と業務が多すぎる。誰も見直してないのか?」
クエストの内容確認。今後のスケジュール。予算。手続き。報告書……などなど。
会長“四之宮 京子”の広報活動についての確認サイン・感想の記入という書類を見た時には、破いて捨ててやろうかと思った。
「こういうことやっているから、仕事が終わらないんだろ……」
典型的なブラック企業体質で、初日から嫌気がさした。
引き継ぎがナシなのも悪質で、放っておいている締め切りの書類などの対応も迫られている。
そして忙しくなった青宮は、現場へ出られないというわけだ。
しかも落ち着く見込みが立たない。
「これは、人を雇ったほうが良さそうだな」
求人の段取りをとるため、青宮は協会の支部へと向かった。
☆
受付にて、事務員のほんわかお姉さんに、求人についての相談をした。
するとお姉さんは少し考えこんだ様子で黙り込む。
「どうしたんですか?」
「え? あ、い、いえ。あの。これって、書類や事務作業の代行をする人材がほしい、ということですよね?」
「そうですね。ムダなことばっかり、協会は要求してくるので」
はっきりとした物言い。
だが、ほんわかお姉さんは真剣な表情を浮かべたままだ。
(どんな人が来るのか、ってとこだよな)
ブラック企業時代。人事部でもないのに、面接だのと新たな人材雇用への対応をしたことがある。
人を見る目は培ったつもりだが、100%を見抜くのは難しい。
これも面倒だなと、正直思っている。
青宮はとにかく、現場へ出たいのだ。
信頼の出来る人間がすぐに来れば、とても助かるのが現状である。
「青宮さん」
「はい」
ほんわかお姉さんは、きりっとした眼差しのまま、青宮の方へ顔を向けた。
「このお仕事、私が引き受けてもいいですか?」




