調子に乗るなよ、クソガキ
次の日の朝は当然、とんでもない空気になった。
関がパソコンを立ち上げると、青宮のギルドマスター昇格試験の通知が来ていたからだ。
「調子に乗るなよ、クソガキ」
メンバーがいつも通り並んでいるが、先輩達5人がビクビクしている。
早く話が終わってほしいと、顔に出ていた。
対して、青宮は前に出て涼しい顔だ。
「内容は確認しましたか?」
「いや……あん?」
ノートパソコンを操作してクエスト内容を見た関は、しばらく停止した後。壊れたオモチャのように背中を仰け反らせ、大声で笑った。
「ひゃははははははは! バカめ、こんなクエスト不可能に決まってんだろうが! ひっ、ひっ、ひゃははははは! は、腹いてぇ!」
先輩達5人と、樹達がそれぞれ顔を合わせ困惑する。
にやりとした笑みを浮かべながら、関はノートパソコンの画面をメンバーへ向ける。
「第三階層のボスをソロで撃破、だとよ。お得意のソロ狩りで良かったなぁ」
樹がえ、と声を上げる。
「そ、ソロ? 第三階層のボスも? 協会が、そんな無茶な昇格クエストを送ったんですか!?」
「おうよ。協会は彼にクリアさせる気ないねぇ、うひぃ、うひひひひひ」
関はおかしくてたまらない、と気味の悪い笑みを浮かべてくる。
だが、これには乾が反論した。
「青宮くんは、第二階層のセイバーゴーレムもソロで撃破したんですよ。第三階層だって」
「バカかテメーは。第三階層のボスの推薦レベルは37。セイバーゴーレムより12も高い。ここで発表だ! 青宮くぅん、てめーのレベルはいくつだ?」
青宮はため息をつく。大方、事前にそれくらいは調べているのだろう。だから、嬉しそうに聞いてくる。
「16だ」
「はい、死ぬの確定で~~~す! セイバーゴーレムを楽にソロ撃破したなら、ま、話は別だけどよぉ。どーだったんだぁ、青宮くぅん」
「どうだったかな」
ごまかす。乾は黙り込んだ。しかし乾の暗い表情が答えだ。彼はセイバーゴーレムとの結果を知っている。
相打ち。
つまり、青宮は……推薦レベルとの格差は、10ぐらいが限界なのだ。
それが、今回は21の格差。
関が爆笑しているのも、無理はない無謀なクエストであった。
先輩達にも動揺が走る。「そ、そんな」「でも、ノルマを軽くこなす彼なら」「いやでも、レベル16って……」「30は超えていると思ったのに……」「もしかして、無理なんじゃ……」楽観的であった昨日とは変わり、不安気になっていた。
関は長らくヒーヒー笑っていたが――涼しい表情を浮かべたままの青宮が気に入らなくて、席を立った。
ポケットに手を突っ込み、肩をオラオラさせながら青宮へ顔を近づける。
「スカしてっけどよ……遺書を書く準備でもしたらどうだ、あぁ?」
「アンタこそ、唱和をでっかい声で読み上げる練習でもしたらどうだ?」
「あの世でもスカし続けられるといいな、クソガキ」
余裕があるのか、関はやはりニヤニヤとした表情で席へ戻る。
「はい、朝礼終わり。君達、残念だけどクソガキはギルドマスターにはなれねーよ。というわけで、これからもよろしく」
☆
ビルから出ると、有島は焦ったように青宮へ確認する。
「あ、青宮くん。昇格クエストの期限はいつなんだい?」
「明後日だ」
「明後日……!?」
青宮は肩をすくめた。
「関は第三階層を突破している。だから最低でも第三階層突破になるだろうとは思っていた」
「だけど、ソロだよ……?」
白井の言葉に青宮は頷く。
「それも仕方ない。関はな、ギルドマスター内で弱小クラスの実績なんだ。だから、これは関との比較というよりは、ギルドマスターとしてふさわしい試練ってことで、難易度が増していったんだろう」
「そ、そんな……」
「まあ、俺の予測だけどな。見込みのあるやつじゃないと、協会はギルドマスターとして認めないってことだ」
むんっ、と樹が両手で拳を作る。
「でも、青宮くんは勝算があるんだよね?」
「2日訓練できる猶予がある。第三階層に良い場所があるから、そこでステータスを一気に叩き上げるつもりだ」
「わかった! 青宮くんがそう言うなら、きっと大丈夫。でも、ボスへ挑む時は近くで待機しているね。万が一の時は、回収しに行くから」
「ああ。その時は頼んだ」
とにかく今できることは、ボスのチャレンジまでに少しでも強くなること。
青宮式の地獄の特訓が、再び始まろうとしていた。




