どうせこの国は終わりだよ!
樹が好きなカレーのお店は今日閉まっているようで、定食を扱うチェーン店へと入った。
21時という時間帯もあり、そんなに人は多くない。
カウンター席へ座って青宮は牛肉の定食を頼み、樹はカレーの定食を注文していた。
「本当にカレー好きなんだな」
「まーね~。この間行ったところ以外にも通っているところがあるんだ」
「グルメだな……そういえば、せっかく社畜辞めたし。俺も趣味持とうかな」
「お~。いいじゃん、いいじゃん」
(だが転職したら、冒険者業界もブラックだった件について。どうしたもんかな)
乾、白井、樹は協力してくれそうだが、あの5人はどうか。
そもそも、まだ会ったばかりなので信頼もされていないだろう。
「5人のこと考えている?」
「ああ。でも……あと2日だな。それ以上は伸ばしたくない」
「いいと思う。今日合わせて3回もノルマ達成させたら、青宮くんのすごさに気づくよ」
「別にすごくないけどな」
ごはんを食べ進める。樹は、顔を赤くして話題を変えた。
「あ、あのさ。1つ、聞いていい?」
「なんだ?」
「前の人とは、別れている? それとも……続いている、の?」
ドキリとさせられる。
本来なら、泉 玲奈のことは触れられたくない。
だが、樹とならば話は変わる。
これではまるで、青宮がフリーかどうかを、探っているかのようだ。
「いや、別れているよ……」
「そっか。えへへ、そうなんだ~」
ニコニコされてしまう。
が、次の瞬間。その表情がさっと青くなった。
そして小声で、青宮の袖を軽く引っ張りながら告げてくる。
「あああ、青宮くん、あそこ、あの人!」
「ん? おっ。すごい偶然だ」
「わわわ、やだやだ、絶対気づかれたくない!」
「大丈夫じゃないか? 背中向けているし」
樹が警戒する男は、カウンターではなくオープン席。
壁を向いている方の椅子に座ったので、青宮達へ背を向ける形だ。
そしてその男は――ギルドマスター、関であった。
彼は携帯を耳に当て、ものすごい大声で会話している。
☆
適当にキャバクラとガールズバーで飲み歩き、締めに定食屋のメシでも食べようと思った時である。
冒険者協会の会長が、わざわざ電話してきた。
最初は無視したが、ずっとかかってくる。
うっとおしいと思いながら、外を歩きながら電話に出た。
「んだよ、こっちは忙しーんだよ」
「あら、それは失礼いたしました。冒険者協会会長、四之宮 京子です」
15年前に会長へ就任した女性で、メディア受けが良かった。黒髪ロングの、人間とは思えぬほど妖艶な色白美女なため「美しすぎる新会長」なんてチヤホヤされていたのだ。年齢は非公開だが美魔女としてファンが多くいる。独身というのも、人気に拍車をかけているらしい。しかも2回、写真集を出している。
「知ってるっての、アホか」
が、関は彼女が好みではないので、特に態度を和らげることはしない。
腕を大きく振るう、オラオラ歩き。夜で人通りがそこそこ多く、歩行者通路にて、気の弱そうなサラリーマンと、どかっ!!! とぶつかった。明らかに関の方からぶつかったのだが、サラリーマンの方が小声ですいません、と言った。
「なんの用だぁ」
「速報ですよ。青宮 翼さんが、ノルマを達成しました、第三階層のノルマと共に」
「……ほう。そいつはやるじゃねーか」
定食屋へ入る。携帯を片手に、券売を購入。
席に足をかっぴらいて座り、テーブルの上に食券を置いた。大声で通話する席に、店員は迷惑そうな表情を浮かべながら食券を回収する。
「ええ、とっても素晴らしいです」
「青宮 翼さん、ねぇ。相変わらず若い男が好きか。良い年して、きもちわりー」
「あら。あなたも、若い女性が好きなのでは?」
「男は若い女が一生好きなもんだ。だが、女が若い男を求めるのはきもちわりー」
「ふふふ、あなたらしいですね」
「で、用はそれだけか?」
「いいえ。改めて、伝えようと思いまして」
「あ?」
「――青宮 翼さんを、どうか大切にしてくださいね。彼は業界の希望になります。きっと、きっと」
ちっ、と関が舌打ちをする。
「断る。死ね、行き遅れ女」
電話を切る。そして彼は酔っているのか、怒りを出して独り言を大きく呟いた。
「どうせこの国は終わりだよ! チヤホヤされてーテメーの欲望のせいで終わるんだ。国民の怒りを買って、せいぜいヌード写真でも売って男共に媚びて、許しをこえってんだ! ひゃははははははは!」
酔っ払いの大きな声に、店員と周囲の客は迷惑そうな顔を向けた。
……樹は帰りたそうにしたが、青宮が席を立たなかったので、仕方なく一緒にいる形だ。青宮はうむ、と頷いた。
(……誰と話していたんだ? この国が終わるって?)
酔っ払いの言葉とはいえ、関は確実になにかを知っている。
やはりギルドマスターにはなるべきだと、青宮は改めて判断した。
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