ありがとう……優秀なんだね……。
第三階層へ降り立ち、青宮は端末を操作してフロア専用のチャットチャンネルを開いた。
作られていない可能性もあったが、幸い“スマイル・アドベンチャー”の名前が表示されている。
(よかった……これで合流できる)
メッセージを送り、五人の先輩達と合流した。
全員、目が完全に死んでいた。
堅い石床に座り込む者、石壁に背を預けて動かない者。
その光景は、前の会社で見慣れた終電間際の社員達と似ていた。
「本当に……自分達のノルマを達成したのか?」
パーティーリーダーの若い男が、信じられないという顔で問いかける。
青宮は静かにうなずいた。
「手伝わせてください」
「それは構わないが……」
「魔石300ですよね。今、いくつですか」
「……160だ」
時刻はもう18時。
タイムリミットは最大6時間。
1時間で30個。かなり厳しい数字だ。
手伝いにこなければ、達成は不可能だっただろう。
「俺と樹で八十個獲ってきます。先輩達は六十個をお願いします」
残業続きで疲れ切っている彼らに、生産性は期待できない。
だからこそ、青宮と樹が動くしかなかった。
「行こう、樹」
「うん!」
短い言葉を交わし、二人は駆け出した。
第三階層の冷たい空気を切り裂きながら、先輩達の姿が遠ざかっていく。
しばらく進むと、フレイムバッド四体が現れた。
「四体か……」
「炎の攻撃に気をつけないとね」
「そうだな」
青宮が∞ウェポンを握った瞬間、空気がわずかに震えた。
そのまま前へ飛び出し、群れの中心へ突っ込む。
牙を向けてきた一体を、一閃。
返す動きで横へなぎ払い、二体目も即座に沈む。
ばたり、と二体のフレイムバッドが地面に落ちた。
残り二体が炎を吐こうとしたが、樹の雷が一体を痺れさせ、召喚されたヴァルキリアがもう一体を押さえ込む。
「助かる!」
雷で怯んだ個体を斧で斬り伏せ、最後の一体はヴァルキリアが仕留めた。
「さて。すぐに次へ行かないとな」
「……」
「どうした?」
「え? な、なんでもないよ。はりきっていこーっ! 目標80!」
「? あ、ああ」
樹は笑って誤魔化したが、青宮にはその一瞬の沈黙が気になった。
樹の胸中には、複雑な感情が渦巻いていた。
ステータス。戦闘の動き。
目の前で見せつけられると、どうしても差を感じてしまう。
(……このままじゃ、青宮くんの隣にふさわしい人になれない)
そんな思いを抱えながら、樹は青宮の背中を追った。
☆
21時を過ぎた頃、ようやく先輩達と合流し、300個のノルマを達成した。
最初は信じられないという顔をしていたリーダーの男も、魔石を渡すと表情が一変した。
「ありがとう……優秀なんだね……今日は、帰れそうだ」
「そ、そうですか」
5人は“帰れる”と分かった瞬間、ここ一番のキビキビした動きでワープポイントへ向かっていった。
その背中を見送りながら、青宮はため息をつく。
「これは、まだギルドリーダー昇格の話どころじゃなさそうだな」
「ね。声は死んでたけど、急に動きが元気になった」
「早く帰りたかったんだろうな」
青宮は腕を組み、考え込む。
「社畜だから、現状打破まで思考が回らない気持ちはわかるが……先送りにすればするほど、戦いは不利になる」
「そうなの?」
「ノルマをクリアし続ければ、ノルマは上がり続ける。そうなったら、俺も元通りになって……ギルドリーダーになろうという気力が奪われるかもしれない」
「私は、そんな青宮くん想像つかないけどね。いつもギラギラしてるよ」
「そうか? まあ、今日は俺達も帰るとするか」
「……うん。じゃあ約束、守ってもらおうかな?」
「約束? ああ、次おごるって言ったやつか?」
「そうそう。覚えててくれたんだね~」
「まあな」
樹は一歩近づき、にこっと笑った。
「デートだよ、デート。えへへ、いこっ」
「お、おう」
明るい笑顔に、青宮は思わず胸を高鳴らせた。




