ノルマは余裕をもって達成してはいけないもの
17時。4人が合流した時には、ヘヴィゴーレムの魔石は合計30個になっていた。
「まさか……本当にソロで16個も取ってくるなんて。君、何者なんだい?」
乾が素直な驚きを口にする。
彼ら3人で14個。5人パーティー並みの効率だというのに、青宮は1人でそれを上回っていた。
「まあ、無茶なノルマの1つや2つ、慣れたものだしな」
淡々と返す青宮。
その落ち着きに、3人は思わず顔を見合わせる。
ギルドリーダーへの態度といい、どんな人生を送ったら、あんな余裕が出るのだろうか、と。そんな疑問が胸に浮かぶ。
「これからのことだけど――魔石は、もう稼がない方がいい。売るのも少し時間をずらした方がいいな」
「え? ど、どうして?」
白井が首をかしげる。
「余裕があると思われたら、その分「まだこいつらなら稼げるだろ」と思ってノルマを上げるからだ」
社畜時代、無茶なノルマを工夫で乗り越え、成果を出したことがある。
だが返ってきたのは、さらに重いノルマだった。
そして最後に残ったのは、支払われない残業代だけ。
ノルマを達成したことによる昇給、評価のUPなんてものも当然ない。
「必要以上に動けば、損をする。多分、この業界はそういう風に出来ている」
その言葉に、3人は息をのむ。
「そこまでひどいのかな、協会って。これまでこんなこと一度もなかったし……ちゃんと抗議すれば、わかってもらえるんじゃないかな? あのギルドリーダーがおかしいだけで」
乾がおめでたいことを言う。
たしかに可能性としてなくはないが、青宮は無駄だろうと考える。
「上を信じるのは自由だが……厳しいと思うぞ。ネットでも“ギルドはブラック”って評判だ。業界全体がそうなんだろう」
「だとしてもさ。こんな労働を強いたら、冒険者が減るだけじゃないか。現場の状況を、上が把握してない……って可能性は?」
人手不足の業界で、過酷な労働を強いているのは疑問であった。しかしあの先輩の5人を見ているとわかるが、日本人体質の「3年は頑張る」という生真面目なところが、冒険者にも出ている。
一般社会にもはびこるブラック企業、社畜と似たような理屈で、現状が広まっていると考えるのが自然だと青宮は判断した。
「関の話が本当なら、あのノルマを決めたのは協会だ。知らないわけがない」
「……それも、そうだね」
重い沈黙が落ちる。
異能。ダンジョン。冒険者。
ロマンに満ちた世界だと思ったら、待っていたのはブラック労働。
不安にならない方がおかしい。
だからこそ――青宮は決めていた。
(俺が“スマイル・アドベンチャー”のギルドリーダーになって、変えてみせる)
「とりあえず、俺はこれから第三階層に行く。先輩たちは、たぶん無茶なノルマを振られてる。手伝って信頼を得たい」
「あっ……!」
樹が小さく声を上げた。
「あ、青宮くん。私も一緒に行ってもいい?」
「もちろん。二人はどうする?」
乾と白井は、首を横に振る。
「さすがに、ちょっと疲れたかな……」
白井の声は弱々しい。
遅延バリバリのヘヴィゴーレムを狩り続けた疲労は、精神に来てきるのだろう。
「わかった。じゃあ樹、行こう」
「うん」
こうして青宮と樹は合流し、第三階層へ向かうのだった。
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