ようこそ、スマイル・アドベンチャーへ
翌朝。青宮は携帯で地図を確認しながらギルド「スマイル・アドベンチャー」の事務所へ向かった。
「ここか」
ついに今日、ギルドへの初出勤だ。ビルの2階へと上がり、ドアをノックすると目が死んだ男が開けてくれた。
「ああ……新人か。最後の1人かな。どうぞ」
「おはようございます。今日からよろしくお願いします、青宮 翼です」
昨日あれだけ疲れていたというのに、青宮はハキハキと挨拶した。それに目が死んだ男はボソボソと「あぁ……よろしく……」と返事をして、中へ入っていった。
室内には上座に向かって、何故か4人の若き冒険者が一列に並んでいる。
(朝礼か。クソみたいな社訓の暗唱だろうな)
雰囲気と並び方ですぐに、青宮は察した。
事務所の隅。客用なのか、テーブルを真ん中に向かい合うようにして置かれた黒ソファには樹、工藤、白井の3人が座っていた。
「青宮くん! やっほ!」
樹が真っ先に気づいて、手をふってくれる。樹の隣へ、青宮もソファ座った。
「昨日ぶりだね」
「どうも」
工藤の言葉に、青宮が軽く手をふる。樹があ、と声をかける。
「聞いたよ。1人でセイバーゴーレムのところへ行ったって。もう、あいかわらず無茶苦茶なんだから! ムチャしちゃダメだよ!」
ずいいい、と樹が身を乗り出して来る。青宮は少し引きつつ、顔を赤くして目を逸らした。
「ま、まあ、なんとかなったんだから、いいだろ」
「む~」
そんなやりとりをしていると、扉が開いた。
辺りの空気感が変わる。
ポケットに両手を突っ込み、歩きたばこをしながら――ギルドリーダー、関 京也が入ってきた。
「はーい、おはよう。今日もがんばろうねぇ」
いかにも偉そうな感じでドカドカ歩き、ギルドマスター関 京也は上座へ座る。灰皿にタバコを突っ込んだ。
樹が小声で「……なにあれ」と呟く。
工藤に関しては「ホームページの感じとは、別人だね……」と呟く。
(めちゃくちゃ似ているな……前の上司に、こういうのいたぞ。まあ、さすがに歩きタバコはしてなかったけど)
やっぱりな、と青宮はため息をつく。
そして並んだ5人は、いつも通り社訓を唱和する。
「「「「「1、ギルドに惚れ、ギルドのために仕事をせよ! 2、強いやる気を持ち、返事は「はい、できます!」の一択である! 3、ギルドマスターの命令は絶対である!」」」」」
「「「っ!?!?!?」」」
樹、工藤、白井が驚いて、びくっと肩を震わす。
いきなりデカい声で唱和なんかすれば、そんな反応にもなるだろう。
白井に関しては、気がちょっと弱いタイプなのか「な、なんか怖い……」とビクビクしていた。
ギルドマスター関は背もたれに重心を預け、両手を頭の後ろへ回した。
「さて、昨日のノルマを達成できなかったわけだけど。各々、反省点はわかっているよなぁ。今日は成長したという結果を残すため、昨日と同じノルマを達成すること。はい、いってらっしゃい」
男が1人、え、と声を上げた。
「昨日と同じ……第三層モンスターの魔石を300個納品ですか!?」
「うん。みんなの反省文見たけど、是正案をアウトプットできればいけると思うよ」
(ムリに決まってんだろ! あんなの、ただの文字数稼ぎだ!)
5人はしかし、涙を飲んで返事をした。
「「「「「はい、できます!」」」」」
「じゃあ、よろしく」
5人が事務所を出ていく。
樹達はあぜんとしていた。
青宮は1人、ソファから立ち上がり5人と同じように、上座へ向けて立った。
関が声を上げる。
「はい、君達新人もそこに立って。仕事するよ」
樹が困惑する。
「え? で、でも、あいさつとか、説明とか、なにも」
ふん、と関は鼻を鳴らした。
「ウチのポリシーは見て仕事を覚えること、だからね。イチイチ次やることを説明してあげるほど、優しいギルドじゃないんで。そこんとこよろしく」
「なっ……」
3人が息を飲む。
だが、青宮は1人立ちながら、慣れた様子であった。
(研修・説明ナシは社畜の定番だからな)
先ほど5人が言っていた社訓を思い出しながら、見よう見真似で大きな声を上げる。
「1、ギルドに惚れ、ギルドのために仕事をせよ! 2、強いやる気を持ち、返事は「はい、できます!」の一択である! 3、ギルドマスターの命令は絶対である!」
「……おお、すごいすごい」
パチパチ、とギルドマスター関は拍手する。
「偉いねぇ。言われなくてもやる、それが大人の常識だからねぇ」
しかしそう言いながらも――その目は笑わず。青宮を品定めするように見ていた。
(コイツ、例の最短記録の青宮 翼だよな……気に入らねぇ。「こうすればいいんでしょ?」っていう顔をしていやがる。ダントツで反抗的だな)
青宮と関の間で、バチバチと視線と視線がぶつかり合う。
なんとなく異質な空気を感じ、3人は増々困惑した。こっそり横一列で並ぶも、色々と理解が追いつかない。
「青宮 翼、だっけ? なにやら、色々すごいみたいだけど。がんばってくれる感じかな?」
「はい。やる気が取り柄なので。それと俺には、このギルドでやり遂げたい目標があります」
「目標? なんだ、それは」
一瞬、空気が止まった。青宮が黙ったからだ。
樹は見逃さなかった。彼の口角が好戦的に――少しだけ、笑ったのだ。
青宮は関を真っ直ぐに見据え、口を開いた。
「スマイル・アドベンチャーのギルドマスター、関 京也を引きずり降ろし――俺が、ここのギルドマスターになることです!」




