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じゃあな、社畜共! クソみたいな会社だったよ!

 かつて青宮 翼が在籍していたブラック企業。

 そこで、家にもロクに帰っていない男3人が、パソコンとにらめっこしながら、作業を進めていた。

 忙しいのだが、やることが多すぎて、もはやダラダラしてしまっている。

 上座に座るのが、40代の上司。

 そしてその近くの席に座るのが、青宮とかつて同僚であったメガネと色黒の2人であった。

 3人共目が死んでいて、髪が長くボサボサだ。姿勢も悪く、どこか猫背。

 社畜時代の青宮 翼も同じであった。髪が長いのは、髪を切る時間も気力もないから。姿勢が悪いのはダルいから、目が死んでいるのは疲れているからであった。


「そういや。青宮って、いたじゃないですか」


 メガネがそう言うと、上司がああ、と答えた。


「いたね」


「あいつ、冒険者協会と正式な契約結んだみたいです。ホームページに名前乗ってました」


 ああ、と上司はうなずいた。


「加入条件は1階層突破だから……詳しくは知らないけど、そんな大したことはないと思うよ」


「いや……それが。どうも、色々前例のない快挙を遂げたみたいで。期待の新人らしいです」


「ふーん? ちょっと見てみるか」


 上司がパソコンで検索する。

 期待の新人が何人かピックアップされている中、青宮だけがやたらと長く解説されている。最速の第一階層の突破。かけ出し冒険者の関門(かんもん)、ファイヤーコングのソロ撃破。さらに「職員からの一言」というコーナーまで作られていた。「――いつも遅くまで狩りを続ける努力家です 20代 男性職員」「――とってもがんばり屋で、素敵な方です。影ながら、こっそり応援しています 20代女性職員」。


「あいつが辞めた時のこと、覚えてますか」


 メガネが言うと、色黒が笑った。


「そらそーでしょ。あんな派手な辞め方すれば」


 青宮の最終日は、もはや社内で伝説であった。

 引き継ぎ、最後の業務。そこまでは大人しかった。

 しかしその去り際。退勤前の、最後のあいさつとしてみんなの前でしゃべる時になると、彼は本性を現したのだ。

 今までありがとうございました――なんてことを、一切言わなかったのだ。


「今まで本当に、クソなことばかりだった。今日無事に辞められて、心の底からスッキリした気分だ!」


 は? と、社員一同あぜんとした。


「残業代は出ないし、研修もないし、無駄な会議ばかりだし。文句を上げたらキリがない。俺はここを辞めたら、冒険者になる。それがダメでも、良い所へ転職してやる。こんなクソみたいなとこで、負け組になってたまるかよ! 社会がゴミなら、ゴミにならないところまで這い上がってやるよ!」


 今まで大人しかった青宮とは思えない、狂気をふくんだ行動であった。


「じゃあな、社畜共! クソみたいな会社だったよ! 1ミリも感謝してないんで、よろしく!」


 まともに辞める社員がいない中、やっとまともな感じで辞めそうな社員が出てきたと思ったら、実は一番狂っていたという皮肉な結果に終わった。

 だが……メガネは、その印象を変えていた。


「あいつ、1流の冒険者に……いや、もっとすごい存在になるのかもしれない」


 メガネはあの時行動を、狂気ととらえていた。みんなそうだ。

 だけど……今は、違う。

 狂気であるのと同時に、圧倒的な力を感じたのだ。


「はっ、夢見すぎだ。あんな頭の悪いやつが、冒険者になれるわけないだろ」


 上司がケタケタと笑う。その声は彼の行動をあざ笑い、見下していた。

 そして色黒も、笑ったのであった。


「へへへ、本当そうですよね。あのバカが戻ってきたら、歓迎してやりましょうよ。1年目からの再スタートですし、安い給料で働かせましょ」


「ははっ、そいつはいいな。またコキ使ってやる」


「イジメるの間違いじゃないですか?」


「おいおい、そんな言い方はよしたまえ。可愛がっているんだ。仕事は多い方が幸せだろ?」


 上司と色黒が、大きく下品な声で笑う。

 だが……メガネだけは、最後まで笑わなかった。


(青宮……ここは地獄だ。お前のいる場所は、どうなんだ)


 青宮は会社を辞めた後、髪を短くし、姿勢も治っていった。そしてその目は、生き生きと光っている。

 彼の名を再び、社畜達が思わぬ形で聞くことになるのだが、それはもう少し先の話だ。

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