幕章「スマイル・アドベンチャー」
スマイル・アドベンチャーの本社は、支部の近くのビルだ。その中のテナントに2階へ設置されている。
ギルドマスターへの朝礼が毎朝行われるため、5人のメンバーが一室で横1列に並ぶ。3人が男性で、2人が女性だ。しかし5人共死んだ魚のような目をしており、表情は疲れはてていた。
男2人が、軽く会話を交わす。
「昨日は早く帰れたな。なにせ夜22時だ……定時みたいなもんだな」
「ああ……クソが。絶対に転職してやる。3年我慢したら、冒険者なんて辞めてやる」
「そうだな。3年。経歴に傷がつかない、3年の我慢だ……!」
社畜のような会話を交わしていると、扉が開かれ、ギルドリーダーである関 京也が入ってきた。40代前半。身長はやや低めで、160前半。前髪は黒のオールバックで、指やら首からシルバーアクセサリーをゴテゴテと身に着けている。
「はい、君達。おはよう」
「「「「「おはようございます!」」」」」
「声が小さいなぁ。元気ないの? やる気ないの?」
「「「「「おはようございますっ!!!」」」」」
「おう、いいじゃん。やればできる」
パチパチ、と拍手をしながら窓際の上座にどすん、と関は座る。
瞬間、5人は一斉に社訓を暗唱した。
「「「「「1、ギルドに惚れ、ギルドのために仕事をせよ! 2、強いやる気を持ち、返事は「はい、できます!」の一択である! 3、ギルドマスターの命令は絶対である!」」」」」
「んっ、じゃあ今日もよろしくね。昨日、緊急でクエストを受注したから。すんごい報酬が弾む仕事でね。冒険者連盟は我々を信頼して、任せてくれたよ」
「そ、そのクエストの内容は……?」
恐る恐る、1人の男が聞く。
ギルドマスターはにやりと笑い、答えた。
「今日中に、第3層モンスターの魔石を300個納品。よろしくね」
「さ、300!? 明日ではなく、今日までですか!」
「うん」
「そ、それは」
メンバーの戦力と第3層のモンスターの強さから、早く見積もっても今日の23時にギリギリ終わるか、終わらないかぐらいの要求であった。
「あれ? 社訓を忘れたのかな?」
「「「「「はい、できます!」」」」」
「よろしい。やります、じゃなくてできます、がミソだからね。もしも失敗したら各員は反省文、原因、是正案を書いて明日の朝まで提出ね」
(その書類考えて書く時間がもったいないないだろ!!!)
どう考えてもおかしいギルドマスターで、社訓も絵に描いたようなブラック企業なのだが、5人はなにか環境を変えるための行動は起こさなかった。
社畜あるある。もはやそんな気力がないのだ。とりあえず、この場から逃げたいと考えている。
重い腰を上げて、どこかに相談しようとか、戦おうとか、そんなことも考えれないほどに、思考が止まっているのだ。
3年。とりあえずそこまで我慢して、転職しよう。
5人の頭には、もうそれしかないのである。
☆
5人が無謀なクエストに出るため、事務所を出る。
瞬間、関が笑い声を上げた。
「いい気味だ! あいつらの実力で、今日中に300なんて無理に決まってんだろ、バカがよ」
パソコンを操作し、近い内にこのギルドの新メンバーとなる名簿と、データをぼーっと眺めた。
1人目。21歳、青宮 翼。ユニークスキル「∞ウェポン」持ちで、最短記録で第1層をクリア。そしてファイヤーコングをソロ撃破という実績を持つ。さらにそこへ、死神による殺人事件を解決したというものまで、加わった。
まさにスーパールーキー。協会も期待の新人として、明らかにプッシュしていた。
「青宮 翼、か。イカれている実績だぜ。これでまだ冒険者はじめて一か月未満だろ? 化け物じゃねーか。こんな小さなギルドに配属させるだなんて、協会もバカばっかりだな。けけけけっ」
笑いながら、2人目を確認。21歳、樹 小春。レアスキル「召喚」を持ち、青宮 翼と繋がりがあるのか、同じく死神による殺人事件解決に貢献しているとのことだった。
「ま、この女には酒でもついでもらうかねぇ。華がある」
3人、4人目も有能そうな冒険者であった。
だからこそ……笑う。
おかしくて、おかしくてたまらないと、関は笑った。
「どいつもこいつも、イジめてつぶしてやるよ。どうせこの業界のことも、なーんもしらねーんだからよぉ。くっくっくっ。はーっ、はっはっはっ!!!」
クソみたいなブラックギルドに、それを放置する冒険者業界。
そんな世界へ社畜魂を燃やす青年、青宮 翼が乗り込んでいく。
目的はギルドリーダーを引きずり降ろし、自身が上へ立つこと。
これは腐りきった冒険者業界をひっくり返す、革命の物語である。




