世界最強へ
2人は互いに別次元へと飛び、己のダンジョンの中へと引き込んでいく。
真ん中に境界ができ、片方が青宮、もう片方が桐澤の固有ダンジョンとなった。
青宮は白と黒の空間だ。現代を舞台としていて、白いビルや信号、道路が広がっている。
そして白い人形のような、のっぺらぼうの巨人50人が軍を成していた。首にはネクタイのような黒い布が垂れさがっており、服装もどことなくスーツっぽかった。
全長は3メートルほど。そしてとりわけ大きい、7メートルほどの巨人の肩に、青宮は乗っていた。
「……。普通、こういうのはドラゴンとか、そういうデザインじゃないのか」
少し不服そうにつぶやく。
対する桐澤は、まるで白の中であった。
白い天井に白い床、白い柱がいくつも立っている。
巨人と同じぐらいの大きさ、中身がない白い鎧が歩いており、一番大きい鎧の上に桐澤は立っている。
巨人と鎧は、境界へ向かって進んでいく。
そうして前線と前線がぶつかり合い――地響きを鳴らしながら、大きな体同士で戦闘を開始する。
鎧は右手に持った剣を、巨人は拳を振るった。
ズドン! ドゴォん! ドォォォん!!!
戦場のあちこちで爆音が響き渡り、化け物同士がぶつかり合う。
鎧も巨人も、その1体だけであのトリニティ・ワイバーンに相当するような強さを持っている。
やがて青宮は炎を使い、上空へ。
桐澤も背中に光の翼を広げ、上空へ飛んだ。
互いのダメージは大きい。
長くは戦闘ができない。
次の一撃で決まる――そう思っている。
「はっ、もうフィニッシュなのが悲しいなぁ。お前となら、何回戦でも楽しめる気がするぜぇ」
桐澤は言いながら、大剣に聖なる魔力溜めていく。
まばゆいばかりの光。
全てを浄化する、破壊の光だ。
「……俺は二度と、お前と戦いたくないけどな」
青宮も斧へダークブルーの炎を灯していく。
2対の斧両方へ――必殺の一撃を叩きこむ。
「――カオス・クレイブ!」
「――セイクリッド・ブレイド!」
魔力による大爆発が、空中で発生する。
地上すらも巻き込んで、巨人と鎧を容易に吹き飛ばしていく。
2人が形成したダンジョンの中央に、巨大なクレーターが発生した。
世界がこのまま終わるのではないか。
そう思えるほどの、激しい震動と衝撃を伴う爆発であった。
巻き込まれた巨人と鎧は、姿すらも無くしていく。
塵も残さないとは、まさにこのことだ。
そしてその真ん中で――どすん、と音がした。
桐澤が落下した音だ。
「がはっ……! オレがイっちまったかぁ。ははっ、こんなことは初めてだぜ……!」
「……それは、良かったな」
青宮は静かに、地上へ着地する。
しかしその体はボロボロで、あちこちから血が流れていた。
世界最強の冒険者に勝利し――新たな“最強”が誕生した瞬間だ。
☆
大いなる力同士の戦いのため、加減することも難しかった。
そもそも青宮にそんな余裕もない。
勝負には勝ったが、それは桐澤が彼の力を引き出すために、最初から本気を出さなかったからだ。
「オレはつえーヤツとヤりあえれば、それでよかったんだよ。命が消えかけるような、生を感じる戦いをな。おめーには感謝してるよ」
「……正直、全く理解できないけどな」
同等の存在に辿り着いたが、思想の分では最後まで理解が出来なかった。
「たしかに、テメーは少しちげーかもな。四之宮はオレに期待してなかった。なにせオレは、ダンジョンマスターに近い考えの持ち主だったからな。まあ連中と違って、オレはもっと単純だけどよ。別に、勇者による死なんざ求めちゃいねぇ。結果そうなったがな」
桐澤は笑う。
その体はほとんど魔力となって消えてほり、右半身しか残っていない。
しかしなぜか、その状態で喋ることが出来ていた。
「お、そうだ。お前、次は四之宮を満足させてーんだろ?」
「言い方に語弊があるが、そうなるだろうな」
「なら、オレの力をやるよ」
「なに?」
「オレの勇者の証は、引き継ぎ可能でよ。ま、劣化版にはなるが、役には立つだろ。ほらよ」
桐澤の指先から、光の玉がゆらゆらと揺れた。
そして桐澤の体は霧散し、消えていく。
桐澤が展開したダンジョンも消え、青宮の展開したダンジョンに覆いつくされた。
「これは……?」
光の玉が、青宮の右手の上へ乗る。
握りしめると、システム音が告げてきた。
同時に、見た目に変化が生まれる。
体の周囲に青い魔力が浮かび、髪の色も青く変化した。
『――青宮 翼のLVが64へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――青宮 翼のLVが65へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――青宮 翼のLVが66へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――青宮 翼のLVが67へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――青宮 翼のLVが68へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――スキル、勇者の証を獲得しました』
スキル 勇者の証 LVMAX
常設バフ。スキル・ダンジョンによる干渉を無視し、世界を正しく認識することが可能。
さらに力を開放すると、1秒につき、1MP消費することで、全ステータス20%上昇する。
スキルを発動すると、両目が白く光った。
自分の中に、わずかだが桐澤の力が宿ったことを実感する。
「そうだ。ダンジョン・ルーラーの能力で、気になることがあるんだよな」
システムをいじる。
ダンジョンマスターの権限が与えられるダンジョン・ルーラーの力は、自分のダンジョンより格下のダンジョンであれば、自在にワープすることが出来る。
また、これは現代の地球上にも言えることで、あらゆる地点へ瞬時にワープポイントを形成し、そこへ行くことを可能とする。
自分でダンジョンを作る能力もそうだが、このワープ能力も相当な規格外であり、人間離れした気分になる。
(桐澤がおかしくなったのはこんなにも大きい力を、たった1人だけで得たから……なんて理由だったりしてな)
しかし彼女へ同情している暇はない。
あらゆるダンジョンへのコネクションを探る中――見つけた。
彼女の“気配”だ。
☆
「うっ……ヤバいかも」
広大な森の中。ダンジョンでひたすら特訓していた樹は、窮地に立っていた。
杖を地面に立てても、膝をついた状態。
足が言うことを聞かなかった。
召喚魔法も倒され、目の前には赤い恐竜が吠える。
「ギャアアァァァァァ!!!」
「でも、諦めるわけには……!」
全ては青宮の隣に立つため。
その一心だった。
だが……体が追いつかない。
よくはやった。
非合法な手段で、通常ではありえない速度でレベルアップもした。
しかし……それまでだ。
ここまでやっても、青宮の隣に立てるレベルじゃないのは、もうわかっていた。
彼のやり方はそう真似できるものじゃないし、才能だって違う。
(私、死ぬのかな)
でも、それもいいかと思った。
(青宮くんには、姫咲さんがいるし……)
そう思った瞬間だ。
目の前の恐竜が、ぎょっと背後を見た。
「? なに……」
ゴオオオオオオオ、と青い光――ワープポイントが、唐突に現れる。
恐竜は吠えた後、森の中を駆けめぐる。
ワープポイントから、一歩でも遠くに逃げようとしていた。
しかし――その体は、目に見えぬ速度で真っ二つにされる。
恐竜の体は魔力の光となり、消えていった。
「……嘘?」
樹は自身の目を疑った。
恐竜を倒したのは――青い炎をまとい、2つの∞ウェポンを持ち、瞳を広く光らせる青宮であったからだ。
「……オーバーキルか。さすがに」
青宮は自身の力に当惑するように、つぶやいた。
そして地面へ着地し、樹を見る。
「迎えに来たぞ」
「……」
「……」
無言。しばらく、見つめ合う。
お互いに、色々と状況が変わっている。
聞きたいこと、言いたいことがある。
だが――樹が真っ先に出たのは、そんな大真面目な話ではなかった。
「姫咲さんと、え、エッチなこと、したでしょ……?」
「っ!?」




