ファイヤーコング
道中でレッドシープをベルセルクなしでもワンパンで狩りつつ、突き進む。例によって昼飯はゼリー飲料だけの軽食で済ませ、徹底した時短をしている。
「やっぱりこの辺りの敵は、大したことがなくなってきたか」
強くなって安全に狩れるようになった証拠だが、それでは経験値の効率が悪い。
青宮の目的は強くなることだ。この初級エリアでの狩りスピード向上ではない。
魔石を回収しつつ、ドンドン先へ進んでいった。
しかしそれでも中々に移動距離が遠く、到着は14時を過ぎた。
草原の中に現れるのは、ゴツゴツとした岩場。
岩の影に隠れて、様子をうかがう。
一際大きい岩の上に乗っているのは、赤い大きなゴリラであった。
「ごおおおおおっ!!!」
ファイヤーコングが大きな咆哮を上げる。
全長4メートル。赤い体毛に、筋肉のついた体格のいい四肢。威圧感のある見た目は、見る者に恐怖を与えるほどの迫力であった。
ファイヤーコングは警戒心が強いのか、すぐさま意識を青宮へ向ける。
気づかれた。
(先手必勝だ!)
青宮は勢いよく飛び出し、斧を振り下ろす。ファイヤーコングは大きな岩から飛び去る。外した斧は岩に当たり、岩は一撃で粉々にくだけていった。
「うほおおおおっ!!!」
ファイヤーコングが右拳に炎の塊を形成し、ストレートを放つ。すると炎の塊が青宮めがけて弾丸のごとく飛び出していった。
後方へ飛ぶ。ぼおおおおおおおっ!!! と砕けた岩に当たると、瞬く間に温度が急上昇。空気がゆらゆらと揺れるほどの、高い熱量であった。
「またくらいたくない魔法だな」
クリムゾンシープを思い出しつつ、∞ウェポンを構える。
相棒は目の前の強敵に立ち向かうべく、青い光を強く放った。
青宮めがけ、ファイヤーコングは左拳で炎の弾丸を放つ。早いスピードで飛び込んでくる炎を、右へ飛んで回避する。
ファイヤーコングはすぐさま、右拳を引いている。炎の弾が、ゆらゆらと揺らめいていた。
「意外と遠距離からチマチマやるタイプか」
炎の弾丸が怒涛の勢いで飛んでくる。
しかし青宮はベルセルクの補正が入った俊敏によって、前へと突き進みながら回避していった。距離を詰めれば詰めるほど、当然、弾丸の到達速度は上がるわけだが、それすらも問題にならない。
「ごおおおおおっ!!!」
接近してきた青宮へ、ファイヤーコングは長い右腕でストレートを放つ。
「っ、あぶね……!」
右へ飛び、ギリギリのところで回避する。
そしてすれ違いざまに、斧を一振りした。右腕に大きな切れ込みを入れる。ファイヤーコングは悲鳴を上げながら、右腕引っ込め、左拳で青宮の腹を殴り飛ばした。
「ぐふっ!?」
拳がめり込み、酸素が強制的に吐き出された。凄まじいパワーによって、青宮が近くの岩へ叩きつけられる。硬く鋭い感触が、背中へ走った。ステータスがなければ骨が粉々になるであろう衝撃だ。
「うほおおおおおぁぁぁぁ!!!」
咆哮と共に、今度はファイヤーコングからこちらへ突進してくる。
空気が揺れるほどの衝撃。
ファイヤーコングは凄まじい威圧感を放ちながら、駆けた勢いと共に右ストレートを放った。
「っ、させるか……!」
回避は間に合わない。
斧を両手で持ち、柄の真ん中で拳をガードする。
全身へどっしりと響くほどの衝撃。震動が大気をゆらし、両腕がきしんだ。
ずずずず、と青宮の両足が土をまくりながら、後ろへと下がる。
しかし途中でふんばり――競り合いに勝って、ファイヤーコングの右腕を振り払った。
「さっきのは良いのをくらったけど。ここからは、そうはいかないぞ!」
素早くファイヤーコングの横へ飛び、斧を一閃。鋭く、重い斬撃はその大きな右足へダメージを与える。赤い鮮血が地面へ飛び散った。ファイヤーコングは悲鳴と共に拳で青宮を殴ろうとするが、距離を詰めた状態を維持したまま、すばやく回避しつつ、斧で足を斬り続けていく。
「いける……!」
外れた拳が、地面に大きな凹みを量産していく。しかしどの攻撃も、青宮には当たらない。慎重に、なおかつ距離を離さない立ち回りで、ファイヤーコングの足にダメージを与えていく。
「ぐおおおおおおお!!!」
やがてファイヤーコングは大きな声を上げ、体中に炎をまとった。凄まじい熱が周辺へと広がっていく。草が燃え、大気が一気に熱くなる。
「っ! ぐああああっ……!」
体が溢れた炎に巻き込まれ、体が焼かれる。
視界が赤く染まるほど、激烈な痛みだ。ステータスの精神力によって緩和されているはずだが、それでも全身に大ダメージが走る。
だが、痛みに悶えている暇はない。回復させてくれる隙もない。追撃の拳が、すぐに迫っていた。青宮は攻撃を止め、一旦、回避へ専念する。
ファイヤーコングの動きが先ほどよりも早くなり、パワーも上がる。当たったら死を予感させる、熱量のこもった火の拳が青宮へ襲いかかった。
その1つ1つを、見定めながら慎重に回避。右拳が、体の前ギリギリをかすめた。
「あっ、ぶねっ!」
ファイヤーコングの左拳が眼前に迫る。
(まずい……!)
回避不能。これまでのダメージが蓄積した体で、パワーアップした拳は致命傷になる。
ここまでか。だが、諦めない。斧を両手で支えるように前へかかげ、再びガードの体勢を作る。
その瞬間であった。足のダメージが蓄積したファイヤーコングが、痛そうにしてバランスを崩す。
スキを見逃さず、青宮は前へ踏み込み、ジャンプして大きく斧を振り上げた。
「さっきの拳の、お返しだ!」
凄まじいパワーの乗った大振りにより、ファイヤーコングの胸を斬る。ずん、と重い衝撃がそこに走り、肉を開き、大量の血が溢れ出た。
「ごおおおおおおっ!?」
ファイヤーコングが絶叫と共にあとずさる。
やがて――どすん、と大きな音を立てながら背中から倒れた。
そして周囲に広がっていた火も、ファイヤーコングがまとっていた火も消える。
『――青宮 翼のLVが9へ上がりましたHP+73 MP+25 攻撃+21 防御+14 魔力+21 精神+14 俊敏+13』
「よし、倒せたか……ギリギリだったな。死ぬかと思った」
ふう、と一息つき岩を背に座る。アイテムボックスから取り出したポーションで回復しつつ、息を整えた。
危ない場面があったものの、第一階層の最強ボスをソロで撃破。
自分が強くなれたことを、実感した瞬間であった。
さらに∞ウェポンが強い青の光を放ち――同時に、システム音が告げてきた。
『――∞ウェポンの新しいスキル「ブラックソウル ???」が追加されました』
『――このスキルはまだ封印されており、使用できません』




