幕章1「飢えた獣の狂喜」
ホセのドラゴンが獅子山を連れ、全員が集まっている地点へ運んだ。
ギルドメンバーが獅子山の手当をする中、青宮と巨大ナメクジの激闘の音がここまで聞こえてくる。
そして敵を撃破した後は、樹がすぐさま青宮の元へと飛んでいった。
その後、遠方にいる解析班から脅威となる魔力が消滅したと報告が上がる。
湧き上がる戦場の中を、樹は走っていった。
「青宮くん!」
樹は倒れた青宮を膝枕しつつ、回復魔法で手当てをした。
しばらくすると、青宮がうめき声と共に意識を戻す。
「うっ、樹か……」
「うん。じっとしてて」
「っ!?」
頭の下の柔らかい感触に気がついて起き上がろうとするも、樹に抑えられ、青宮は大人しくなった。
「あ、ありがとう」
「大丈夫?」
「ああ……なんとかな」
樹の胸中は、ひどくモヤモヤしていた。
思い出されるのは、巨大ナメクジと激闘を繰り広げる青宮。
そして大ダメージを与えた獅子山。
そんな次元の戦いに、自分は足元にすら及んでいない。
いつも青宮に助けられてばかり。
起こる事件や困難は、全て彼の力によって解決している。
(青宮くんの側に立てる、ふさわしい力がほしい)
青宮の力になりたい。
共に戦いたい。その一心であった。
だけど真っ当な手段で届かないほど、差がついていることも痛感している。
レベル10や20上げた程度では、役に立てない。
(どんな手段を使ってでも――強くなりたい)
★
迅速な避難の成果もあり、日本で起きたダンジョンブレイクは、死者93名にまで抑えることができた。
建物などの物的損害は大きなものとなり、10兆円以上になる見込みだ。
ダンジョンブレイクは人類全体にも影響を及ぼす、自然災害のため日本の映像は冒険者協会を限定に海外へ送られた。
その中で――アメリカのギルドマスター会議で、今回のダンジョンブレイクの映像が公開される。
軍の重鎮も参加する中、巨大ナメクジが映った途端、会議室にどよめきと動揺が走った。
「これは……」
「なんということだ」
「こんなバケモノを、ミス・アゲハなしで倒したというのか? あの日本が?」
チラチラ、と日本のナンバー1、桐澤 揚羽に視線が送られるも、揚羽は退屈そうに欠伸をする。両足を机の上に乗せ、極めて態度が悪い。
そして、はっ、と鼻で笑った。
「んなビビるほどの敵じゃねーだろが、ザコども。この程度、ダンジョンの中にふつーにいるぜ? あー、っとだな」
英語はあまり得意じゃないので、なんとか伝えようと片言で伝える。
「This level. Monster. Usually in dungeon.(このレベル。モンスター。普段のダンジョンにいる。)」
屈強なアメリカの冒険者達が勢ぞろいする中、揚羽が不遜な態度でそう言い放つ。
片言なおかげで多少迫力がそがれているものの、アメリカの探索者達は彼女を恐れている様子であった。
「ま、まあ、言っていることは間違っていないが……映像や解析データを見るに、LV80以上の冒険者を10人集めて、ギリギリ倒せる見込みが立つ。そんなバケモノ級の強さだぞ」
イマイチ英語を聞き取れなかったので首をかしげると、日本語を少し喋れるギルドマスターが翻訳してくれた。
「レベル80イジョウ、10ニンデ、ギリギリタオセル」
「はっ。オレなら1人でヤれる。I can kill. Alone.」
意味は伝わったようで、アメリカのギルドマスター達は肩をすくめた。
「ミス・アゲハはな……俺達は無理だぜ。少しでもミスったら、あの光線でミディアムに焼かれるぜ」
映像はやがて、獅子山が巨大ナメクジに大きなダメージを与える場面へと切り替わる。
ふむ、と冒険者たちが声を上げる。
「素晴らしいな……」
「だが、苦しそうだな。コントロールできていない」
「加齢なのだろう。多分だが、彼はもうこの力を使えないんじゃないか?」
「落ち目の冒険者が最前線か……よほどの人材不足に見える」
「日本の冒険者のレベルは、低いままなのか」
「これじゃあ、他国に舐められるぜ? なんなら、仲良くしてるアメリカまで、弱く見られちまう」
「ミス四之宮の改革をもってしても、まだその程度か。ガッカリだ」
言いたい放題の連中に、腕を組んで桐澤は黙っていた。
英語でも、なんとなく過小評価されているのが伝わっている。
愛国心なんてガラじゃないので、日本をバカにされても、なにも思うところがない。
むしろ、妥当な評価だと賛同していた。
(くたびれた獅子山のじーさんが前出て、どーすんだよお前らは。つーか、どうやってこいつを討伐したんだ? 今の獅子山じゃあのモンスターをイかせられねぇ)
ナンバー1、桐澤の予想通り獅子山はホセのドラゴンに回収される。
すると見たこともない若き青年が、青い炎をまとって斧を持ち、飛び込んでいく映像に切り替わった。
桐澤は気が付いたら、立ち上がって映像を見入っていた。
映像越しでもすぐに伝わったのだ。
彼の身にまとう、大きな力が。
……ちなみに。アーツファイトの映像は結局、めんどくさくて確認していないので、完全に初見だ。
そして映像は、青宮が巨大ナメクジを撃破するものに切り替わる。
アメリカの探索者達はざわめいた。
「ほう……」
「こ、これは」
「何者なんだ? 彼は……」
「斧使い……アーツファイトで名を上げたという、青宮 翼じゃないか?」
「ミスター獅子山が多少弱らせた後とはいえ……圧倒的な力だ」
「ううむ、こんな素晴らしい人材がいたのか」
「ぜひとも我が国のダンジョンへ、観光に来てほしいものだな」
瞬間――桐澤が、デカい笑い声を上げた。
アメリカのギルドマスター達がぎょっとする。
「な、なんだ!?」
「まさか、機嫌が悪いのか……?」
「殺される!!!」
「おい、お前! すぐに甘いものを持ってこい! 彼女はスイーツが好きなんだ!」
「は、はいいいいいいいいい!!!」
職員数人が慌てて廊下へ出る。
まるで危険な猛獣扱いだ。そしてエサは甘い物ならしい。
桐澤はにやりと歯を剥き出しにした獰猛な笑みで、映像の青宮を見つめた。
体の奥が熱くなり、鳥肌が立っている。
全身が、本能が、映像の男を求めていた。
「青宮 翼……! 最高だ、最高じゃんかよ、お前ぇぇぇぇぇ!」
くくくくくくくくく、と心の底から面白いとばかりに、笑みを浮かべる。
「おもしれぇ。おもしれぇ! もう覚えたぜぇ! ヤラせろ、オレとヤリあえよ、青宮 翼ぁ!!!」




