孵化
(え……レベルが上がった? おいおい、死んでないよな)
そんなことを思いつつも、他人を手当するほどの余裕はない。
7連戦によるボス戦。そしてギルドマスターとの戦闘。
疲労困憊だ。今日一日が、異常に長く感じる。
「青宮くん!」
「……樹」
スマイル・アドベンチャーの面々が、駆けつけてくる。
自衛隊や他のギルドメンバーも、こちらへ向かっていた。
「みんな無事で良かった」
「青宮くんも……すぐに手当てするね」
樹の回復魔法を受ける。少しずつ傷と、毒が治癒されていった。
現場の混乱を自衛隊の隊員達へ説明すると、貞雄は拘束された状態で治療を受ける形となった。
もう1人、ボスフロアを戦い抜いた猪塚も帰還しており、手当を受けている。
「荒木さんもここにいたんだね」
乾の言葉に、青宮はうなずく。
「あの感じは、兄のところへ向かっていたんだろうな」
「獅子山さんを刺した上、青宮くんまで殺そうだなんて……どうしてなんだろう」
「後半の方は、正気ではない感じだったな」
猪塚も他のポイントから無事に脱出したようで、手当てを受けている。
ダンジョンブレイクによって発生した結界が、徐々に晴れていった。
エリア内のモンスター達は倒され、エリアボスも撃破されている。
今回の戦いは終息へ向かっていた。
しかし問題はこれだけではない。後継者だ。今回大きな貢献をしたのは、誰なのかという話になってくる。
(結果的に、エリアボスに挑んだのは俺と猪塚さんだけだしな……このままじゃ、少しまずいかもしれない)
そんなことを考えていた時であった。
ズゴゴゴゴゴ! と、大きな地震が発生する。
そして1人の隊員が、大声を上げた。
「お、おい! なんだよ、あれは!」
隊員が指をさした先には、大きな次元の裂け目が発生していた。
紫色の、混沌とした魔力だ。
そこから、まるで生み出されるようにグロテスクな黒い卵が湧き出てくる。
ドクン、ドクンと心臓のように脈打ちながら、全長50メートルはある物が地上へ降りた。
「なに、あれ……?」
樹が驚愕の声を上げる。青宮も言葉を失った。
ダンジョンブレイクは終わったはず。
それなのに……正体不明の“なにか”が出てきた。
と、ここで戻って来たホセが声を上げる。
「マニアワナカッタ」
「なんだと?」
青宮が振り返って言うと、ホセは首を横に振った。
「アレガ、ダンジョンブレイクノ、ボス。ジカンギレノ、ペナルティ」
「……あの速度で? 冗談だろ!」
青宮と猪塚はたった2人という条件で、データなしのボス7連戦で連勝した時点でかなりの偉業だ。
さらに言えば、モタついた戦いはなかった。
しいて言うなら、自分のコピーとの戦いに苦戦したくらいだ。
「見ろ! なにか出てくるぞ!」
ビキビキビキビキ! という音と共に、卵に亀裂が走る。
中から現れたのは――どす黒い、ナメクジであった。
ヌメヌメとした、液体っぽい体。その体を這わせて、地上のビルや電柱をなぎ倒しながら、前へとのっそり進んでいく。
全長は約50メートル越え。
正真正銘の、バケモノだ。
そしてそのバケモノが降り立った瞬間――その場にいた全員が、膝をついた。
「「「うわあああああああああ!!!」」」
訓練を受けている自衛隊の隊員の、何人かがパニックとなり、その場から逃げるように走り出した。
一歩でも遠く、あのバケモノから遠ざかろうとするかのようだ。
「あ、青宮くん」
「……さすがにヤバそうだな、あれは」
腕にしがみついてくる樹の肩を抱きながら、青宮は巨大ナメクジを見る。
こうして視界に入れるだけで感じ取れる。
目の前のバケモノは、人類をも滅ぼせるほどの強大な力をもっている、ということに。




