衰えを嘆くナンバー2
トリニティ・ワイバーンは強者――獅子山を待つように、空を飛んでじっとしていた。
待っていた獲物である獅子山が来た瞬間に、咆哮を上げる。
「ギャオオォォォォォ!!!」
殺意のある大音量は体の芯にまで響く。
対して獅子山は、重いため息をついた。
「やれやれ……やる気満々か。俺は、そうでもないんだけどね。青宮もホセもいないから、仕方なく来たわけ」
フェミ旅団の猪塚、ネクスト・イノベーションの貞雄の2人の名前を上げないのは、彼にとっては順当な評価であった。
今の日本で、トリニティ・ワイバーンの相手をできるのは3人。
青宮、ホセ、そして獅子山だ。
(あーあ。やりたくねぇな)
が、獅子山はモチベーションが上がらない。
というか、これが本来の獅子山だ。
ギルドマスター会議でナンバー2として胸を張っているのは、無理をしている。
彼の素は、例えるならば丸くなったごく普通の中年男。
出来ることなら、目の前のトリニティ・ワイバーンも、他の奴でどうにかしてほしいとすら、思っている。
そんな士気の低い獅子山へ向けて――トリニティ・ワイバーンがブレスを放つ。
三つの首から放たれる、強力な炎の雨が降り注いだ。
「おいおい、街を燃やすなよ」
獅子山が二刀流の剣を振るう。
瞬間――ゴオオオオオオオ! と、竜巻のような音が起こったのと同時に、大規模な炎魔法が吹き飛んだ。
トリニティ・ワイバーンが、驚愕したように声を上げる。
「ホセと同じ、空中戦でやるとするか」
獅子山の周囲に突風が吹き荒れる。
そしてその勢いによって、獅子山の体がふわりと浮き上がり、一瞬にしてトリニティ・ワイバーンと同じ位置まで飛んだ。
「ギャアァァァァァ!!!」
トリニティ・ワイバーンが咆哮と共に、接近してくる。
巨大な体がこちらへやってくるのは、飛行機が突っ込んでくるかのような迫力があった。
それでも獅子山は怯まず、前へと出る。
強力な突風が、獅子山を突き動かした。
「久々に、本気出させてもらうぞ」
空中で目にも止まらぬ速さで飛ぶ獅子山は、すれ違いざまに何度もトリニティ・ワイバーンを斬る。
硬い鱗に何度も、何度も刃で裂いていく。
トリニティ・ワイバーンは空中で尻尾を振ったり、頭を振ったりしたが、どれも獅子山を捉えることはなかった。
一見すると、獅子山の動きにトリニティ・ワイバーンが対応できていない。
だが、本人は決定打がないと分析。
(俺、こんなに非力だったか)
獅子山は己の衰えを改めて感じた。
というか彼は、冒険者としての活動自体に、もう本気を出していない。
最後にボス戦に挑んだのは、10年も昔の話だ。
久々の強敵との戦いで、若い頃から――否。40代と比べても、さらなる劣化を痛感した。
(動きも遅い。魔力も、こんなに質が悪くなったか……もうオジサンかねぇ)
トリニティ・ワイバーンの、右足の蹴りが獅子山に命中。
どすんっ! というトラックに跳ねられたかのような衝撃と共に、鋭い爪が、腹に食い込んだ。
「ぐふっ!? くっ、そ……! こんな鈍い攻撃に……!」
さらに怯んだところへ、トリニティ・ワイバーンの真ん中の頭による、強力な頭突きが獅子山の背中を打つ。
ばごおおおおんっ! と、コンクリートを砕いて、獅子山が道路にたたきつけられた。
「っ、いってぇな……中年には優しくしろっての」
しかしトリニティ・ワイバーンもダメージは蓄積していて、全身傷だらけであった。
咆哮を上げながら、まっすぐに突っ込んでくる。
獅子山は二対の剣へ魔力を込めた。
辺りの空気が乱れ、髪をふわりと揺らす。
「その命、狩らせてもらうぞ――ヂェミナイ・ヴォルテクス!!!」
2つの剣を前へ真っ直ぐ構えた。
瞬間――トリニティ・ワイバーンをも呑み込む、2つの大規模な渦が巻き起こす。
その渦は飛翔するトリニティ・ワイバーンを吹き飛ばし、裂き、全身をズタズタにした。
どごおおおおおんっ!!! とビルに叩きつけられたトリニティ・ワイバーンは、その場でぐったりと力を無くし――消えていく。
獅子山は足と手が震え、その場に膝をついた。
「っ、あぁ……体に響くなぁ。全力ってのは」
獅子山は自身の衰えを嘆き、ため息をついた。




