早めに、23時に帰るか
昨日眠りについたのは、3時過ぎ。
そして朝目覚めたのは、8時前であった。
携帯のアラームを止めながら、ん~、と唸り声を上げつつ、寝間着姿で起き上がる。
「さて、今日もやるか……」
昨日は夜中まで狩りを続けるという、とんでもない労働をした後なのに、テキパキと動いていた。
ダルいな、今日は行きたくないな、という考える暇も前はなかったので、体が勝手に動くのだ。
その社畜、かなり訓練を受けている。
パンを食べて、顔を洗い、着替えて、軽く部屋を掃除して……。
諸々のルーティンを手早く終えて、部屋を出た。
冒険者協会の支部へ到着したのは、9時ちょうどぐらいだ。
いつもの、ほんわかとした受付のお姉さんに、まずは魔石の買い取りをお願いした。
「わかりました! わっ、魔石47個! 昨日頑張ったんですね~」
戦利品――モンスターの死亡後、核から回収できる魔石。人類の新たなエネルギー源や、アイテムや武器、戦闘服の素材になったりする。
全ての冒険者に与えられる収納スキル「アイテムボックス」へ魔石を回収していた。アイテムボックスは色んなものを入れられるが、大きさ・重量に関係なく1項目につき1枠を使用する。
水を持参すれば、そこで1枠消費される、といった感じだ。
拡張アイテムなど特別なことをしない限り、収納の上限は50。
つまり、最大でも魔石は50個までしか持ち帰れない。
そして今、青宮が狩りをしているエリアは1体につき魔石のレートはおよそ300円。状態や品質に個体差でムラがあると、そこからさらに下がる。
売却時、手数料として協会へ20パーセントもっていかれるので、初級エリアの日給はおよそ10000~12000ぐらいがレートだ。
命がけのハードなダンジョン攻略で、バイトレベルの収入。
さらに回復アイテムなどの出費が重なると、手取りが減る。
ちなみに青宮が使用していた回復アイテム、ポーションは1個につき1000円かかる。
リザレクト・ポーションに関しては50000円だ。
この2つのアイテムは常にアイテムボックスへ入れている状態。47個という中途半端な数字になっているのは、そういった事情である。
リュックに入れて、ギリギリまで魔石を確保するという方法はあるが、一個400円ごときの魔石でそこまでする必要性は、青宮には感じなかった。いちいちリュックを降ろすなどの時間を短縮して、戦闘や移動する時間を増やした方がいいように思えたのだ。
それにこの日給なのは、初級エリアだからだ。
次の階層へ行けば、相場は上がる。
「これは……クリムゾンシープの魔石ですか。運が良いですね」
アイテムボックスへの転送をしていると、受付のお姉さんがそんなことを言った。
「運?」
「はい。レッドシープを100体討伐すると、稀に出てくると言われるレアモンスターです。良好な魔石が採取できるので、一個100000円です」
「おおっ」
ゴーストほどではないが、かなりの大金だ。命をかけただけある。
が、受付のお姉さんは首を傾げた。
「あの……これ、お1人で狩ったんですか?」
「はい」
「ええっ? 青宮さんって、昨日レベル3でしたよね……? クリムゾンシープって、たしかレベル14だった気が……?」
「すごく強かったです」
「よくご無事でしたね……」
決算が終わった後、入場手続きへと移ったのだが、そこでも受付のお姉さんは驚いた。
「っ!? 昨日の退出時間が深夜の2時……! あ、青宮さん、こんな無茶な狩りをしているんですか!?」
「え? ああ、まあ」
「し、しかもレベルが3から8……! 普通、1日に1つか、ボスを倒して、2つ上がればかなり上出来、ぐらいのレートなんですよ! それを5って……!」
「良いペースですか」
「ダンジョンの前に、過労で死んじゃいますよ! もう、ダメですよ、青宮さんっ!」
プンプン、と受付のお姉さんが怒る。
「頑張り屋さんなのは、と~~っても素敵なところですけど、無茶はダメですっ。冒険者協会は、原則、冒険者を自由にする方針なので、こういったところにルールは設けていませんが……注意はしますよ。今日は早く帰ってくださいね!」
「わ、わかりました」
ものすごい勢いだったので、頷く。
ただ、1つ疑問が浮かぶ。
(自由にする方針って……一部冒険者へギルド加入を義務づけているのに?)
昨日の職員の意味深なつぶやきといい、なんだか業界の闇を見たような気がした。
だが……。その社畜、社会の闇というのは嫌というほど見てきた。
(まあ、この業界も色々あるということだろう)
並大抵のことでは不安にならず、すぐさま適応する。
ただ一方で、出来ればいつかブラックな生活から抜けたいという思いもある。
なんとか、ホワイトな環境へ身を置きたいところであった。
「入場手続き終わりました。では、今日は無理しないでくださいね」
「はい」
(今日は早めに、23時ぐらいに帰るか)
微妙にバグったことを考えながら、青宮は扉を開けた。




