ベルセルク
開幕早々――クリムゾンシープは魔法を発動させた。
長い角の先端に赤い魔法陣が広がり、そこから炎の弾が飛び出す。
「っ、魔法か!」
炎が飛び出すのと同時に、横っ飛びで回避。
地面へ炎の弾が着地し、ぼおおおっ!!! と草が勢いよく燃え上がる。
「あれには当たりたくないな……!」
距離をとったら、いつかあの魔法にやられる。
今の青宮には遠距離での攻撃手段はない。
前へと飛び出し、距離を一気に詰める。素早い動きで、斧を振り下ろした。レベルが上がったことにより、青宮の動きは早くなっていたが――クリムゾンシープは巨体に似合わない、身軽な動きで青宮の一閃を回避。
さらに1回、もう1回と立て続けに攻撃するも、見事な後退であしらわれる。
そしてクリムゾンシープは踏ん張り、前へ鋭く突進。
長い角が青宮の胸元へ襲いかかった。
「っ、くそ……!」
回避は間に合わないと判断し、その場で伏せようと腰を落とす。角は回避され、クルムゾンシープの顔面に当たり、吹き飛ばされる形となった。
ふわり、とした浮遊感。勢いよく宙を舞いながら、硬い地面に何度も転がされる。
クリムゾンシープは追い打ちをかけるため、炎の魔法を再び発動させた。
炎の弾が青宮の体へ襲いかかる。
「があああああああっ!?」
凄まじい熱と激痛が全身へ迸る。
だが、それに構っている暇すらも、与えてくれない。
クリムゾンシープが凄まじい勢いで、こちらへ向かって突進してくる。
「くっ、そっ……!」
ステータスの魔法抵抗である精神の加護によって、火は少しずつ消えていくも、全身やけどまみれ。神経をまるごと焼かれたかのような、ズキズキとした鋭い痛みが全身をほとばしっている。
よろめいているせいで、回避が間に合わない。
突進に備えて、斧をなんとか構える。
柄の部分で角の根を捉え、両腕で持ちこたえる。ぐぐぐぐ、と互いに真正面から、前へと力を押し込んだ。
「ぐっ、ぐうううっ!」
「めえええええっ!!!」
ギギギギギッ……!!!
力比べ。2人の唸り声が上がる。
青宮もレベルアップによって、攻撃力が上がっている。一瞬、両者の力が拮抗した。
だが――徐々に青宮の足が、後ろへ下がっていく。ずずずず、とパワー負けして押し込まれているのだ。
「さすがに、レッドシープよりパワーがあるのか!」
このまま押し込まれたら、かなり戦いが厳しくなる。
距離をとられたら、火の魔法を打たれて負ける。
といって、正面の戦いも厳しい。
突破方法が見つからない。
それも無理はなかった。
後ほど青宮は調べてわかるのだが、このレアモンスターのレベルは14。レベル6の青宮が、ソロで討伐するのは無茶があった。
「くそ、どうすれば……ん?」
∞ウェポンが青く光っている。
それも今までよりも、強い光。
その瞬間――青宮は感覚的に掴んだ。
今まで不規則に発動していた、効果不明のスキル「ベルセルク」。
その効果が今、わかったのだ。
ベルセルク LV1
消費MP50。自己強化スキル。攻撃力、俊敏を100%上昇。防御、精神力を20%ダウン。効果時間は7分、クールタイム10秒。
「いける、これなら――ベルセルク!」
自己強化スキルを発動。魔力の流れが急激に強くなり、心臓の鼓動が、ドクンといちどだけ大きく跳ねる。一気にパワーが上がった青宮が押し勝ち、クリムゾンシープを吹き飛ばした。
「めえええっ!?」
悲鳴を上げながら、地面を転がるクリムゾンシープ。立ち上がった瞬間には、青宮がもう接近していた。
「もらった!」
一撃で、クリムゾンシープの前右足を切断。
続くもう一振りで、前左足を切断した。
響くクリムゾンシープの悲鳴。
「メぇぇぇぇ!!!」
最後の悪あがきか、角の先に魔法陣が広がる。
だが、発動の暇など与えはしない。
最後の振り下ろしで――その首を、ずどんと斬り落とした。
静かに崩れ落ちる、首なしの四肢。ぼとり、と地面へ落下する首。
クリムゾンシープの絶命と共に、魔法陣が消えていく。
『――青宮 翼のLVが7へ上がりましたHP+68 MP+23 攻撃+19 防御+13 魔力+19 精神+13 俊敏+12』
「よし。レベルアップか。危なかったな」
ふう、とアイテムボックスから回復アイテムを取り出し治療。
一息ついた後――ふと、思った。
「まだベルセルクの効果あるし。もうちょっとやっていくか」
は? と言わんばかりに、∞ウェポンが青く光った。
☆
ベルセルクの効果は凄まじかった。
耐久が下がるので、被ダメが恐ろしくなるが、その分火力とスピードが2倍になるので、かなり攻めが強力になる。
そしてクリムゾンシープの経験値は高かったのか、4体のレッドシープを倒すと、すぐに青宮のレベルが上がった。
『――青宮 翼のLVが8へ上がりましたHP+68 MP+23 攻撃+19 防御+13 魔力+19 精神+13 俊敏+12』
「うし! 今日だけで5レベルアップか。まあまあ良いペースなんじゃないか?」
だが、まだ遅いなと感じた。
ペースを上げられる余地はある。
なにせ、これほどまでに火力の上がるスキルを手に入れたのだ。
無茶もかなりできる、青宮はそう考えた。
「さて。さすがに帰るか」
ワープポイントへと向かい、青宮はその日の狩りを終えた。
時刻は2時。合計17時間の戦いであった。
そして長時間残業したというだけあって、彼の思考はやや鈍っていた。
肝心のステータスを、∞ウェポンの状態を確認しなかったのだ。
☆
無事に協会へ戻る。夜勤の若い男性職員に、退室の手続きをした。
「お疲れさまです。青宮 翼様ですね。えーっと……え?」
驚いたように、手元のモニターと青宮を見比べる。
「なんですか?」
「あ、いえ……入室が、午前9時になっていますが。まさか、午前9時から午前2時まで、ずっとダンジョンへ潜っていたのですか?」
「そうです。体力はあるので」
「そ、そうですか。まだギルドに入っているわけでもないのに、すごいですね……」
ん? と、疑問に思って首をかしげた。
「ギルドに入っていたら、これくらいやるんですか?」
「……まあ、そういうことも、あるかもしれませんね」
「???」
なんだか、意味ありげな言い方である。
(たしか、冒険者協会は一定の実績のある冒険者には、ギルド加入を強制するんだっけか)
冒険者は原則、ギルドへの加入を義務づけられている。発表されている理由としては、冒険者協会と冒険者の連携を強化するため、とのこと。ダンジョンの管理権限は冒険者協会に譲渡されているので、これに逆らうことや、無視して冒険者を続けることはかなり厳しいだろう。
「手続きが終わりました。本日はお疲れ様です」
「はい。ありがとうございました」
疑問を残しながらも、疲労感がすごい。早く眠りたいし、飯も食べたかった。青宮は細かいことは考えず、協会を出て、コンビニへと向かった。




