ポイント7、敗走
普段からダンジョンで命のやりとりをする冒険者といえど、仲間を目の前で殺されれば動揺する。
さらに状況は悪化。
近くの空を飛んでいるワイバーンは、合計10体。
やつらは口を開き、赤い魔力の炎をこちらへ目がけて吐き出してきた。
遠距離でも放てる高火力魔法に、自衛隊の隊員は左腕につけた魔道具を起動。
それを複数に起動させ、5,6名で固まった各小隊の上にドーム状のバリアを形成するも――いくつかの小隊のバリアは破け、たった数秒で30名以上の隊員が火だるまになる。
「ぐわあああああああっ!?」
「ちくしょう……! おい、早くポーションを使え!」
「陣形を崩すな!」
「まずい、前衛モンスターが近づいて……があああああああっ!?」
弾幕が薄れた自衛隊は黒い狼の接近を許し、噛みつかれ、体当たりをくらい、さらなる犠牲者を出す。
樹達は乾が盾で、広範囲に魔力のシールドを放つことにより、なんとかワイバーンの攻撃に耐えていた。
青宮は高い俊敏を活かし回避していく。
そして移動しながら魔力を集約し――左腕をかざし、上級魔法を天へ向けて放った。
「――フレイム・ストーム!」
空気が一瞬で赤熱し、視界がゆらぐ。
風そのものが燃えているかのような熱量が、ワイバーンの翼を焼き裂き、悲鳴を引き出した。
地面へ皮膚を焦がしながら、ぼとぼと落下していく。
自衛隊の隊員はまたしても度肝を抜くことになる。
「な、なんだあれは……」
「だが、このままでは……!」
ワイバーンを倒したところで、地上の狼達がエリア7メンバーに襲いかかる。
対してこちらは、陣形を崩した自衛隊と、士気が下がったバズり☆シーカーズ。
戦況はかなり悪い。
このままでは全滅もありえると判断した艦長が、戦艦から通信とスピーカーで音声を飛ばした。
『ポイント7メンバーへ告ぐ! 撤退をしろ! 退避を確認次第、ハッチを閉じ他の部隊と合流する!』
「撤退だ! 下がれ、下がれー!」
自衛隊の大声での指令を聞きながら、攻撃をしつつ下がっていく。
負傷兵を抱えた隊員は優先的に、格納庫へ向かわせていった。
しかし突っ込んでくる魔物が多い。
さらに奥には、サイクロプスのような巨大な魔物の姿まで見えてきた。
数で負けているのはそうだが、質でも負けている。
青宮は全員が自分より後ろに下がっているの確認し、再び上級魔法を放つ。
「――ウェーブ・ストライク!」
魔法陣が震え、青宮の足元から“水の壁”が立ち上がる。
轟音とともに押し寄せた奔流は、狼の群れを丸ごと呑み込み、骨ごと砕きながら前進した。
モンスター達は流されていき、奥にいるサイクロプスごと巻き込んでいく。
範囲にいなかった、近くにいる魔物へ向かって素早く移動し、斧を一閃しつつ青宮も下がっていく。
他のメンバー達も敵が減ったことにより、格納庫へ向けて続々と入っていった。
「ぐっ……! 体が……!」
前に出すぎていた自衛隊隊員が、逃げ遅れている上、膝をつく。
右足ワイバーンに焼かれていたようで、上手く歩けなくなっていた。
その隊員は青宮へ噛みついた男であったが、仕方なく左手で樽のように持ち、抱えた。
「おわっ!?」
「国を守るんじゃないのかよ」
「っ……! ちくしょう、ちくしょう!」
隊員を抱えながら、最後に青宮達が格納庫へ入る。
ハッチが上から下へ降り始めた瞬間――声が聞こえた。
「――まって! たすけて、たすけて!」
幼い女の子の声。
格納庫の中で、樹は息を飲んだ。
「嘘でしょ……! なんで避難してないの!?」
一本道の奥。そこに柴犬を抱きかかえた女の子が声を上げ、こちらへ向かって走ってくる。
動き出すハッチ。
真っ先に飛び出したのは、青宮であった。
「いってくる!」
「待って、青宮くん!」
樹が心配そうな声を上げるが、押し問答をしている暇はない。
女の子の後ろに、サイクロプスが近づく。
大きな地響きが女の子を襲った。
「だめ、タロー、暴れないで!」
大きな衝撃と音にパニックとなるタローが、女の子の腕の中で暴れる。
青宮の向かう速度は目で追えぬ、弾丸のような速さであった。
しかしそれでも間に合わない。
全力で前へ飛びながら、左手をかざした。
「――フレイム・ランス!」
中級魔法の炎の槍は、サイクロプスの頭を貫く。
巨大が倒れ、どしんっ!!! と重々しい音が鳴り響いた。
青宮が女の子の元へ到着する。
「おにいさん……!」
「舌を噛むなよ。全力で走る!」
柴犬を抱きかかえる女の子を左腕でぐっと抱え、前へ駆け出す。
「っ!」
女の子がぎゅっと両腕に力を込めながら、身を縮めた。
圧倒的なスピードによる移動で、小柄な体に大きなGがかかる。
「青宮 翼! 急げ!」
自衛隊の隊員が大声を上げる。
閉じていくハッチへ向かって、モンスター達が向かっている。
中から魔法や遠距離攻撃を放ち、侵入を防いでいた。
「っ、おおおおおおおおおお!」
青宮が叫ぶ。
空からワイバーンの炎も飛んでくる。
ビュン! ドゴオオオ! ゴオオオオ!
様々な轟音が交差する。
女の子と犬を抱えているので、絶対に当たるわけにはいかない。
飛んで、駆けて、攻撃をかい潜り、避けながら――最後はスライディングで、格納庫の中へとギリギリ入った。
『――準備完了! これより発進する!』
艦内へ告げられたアナウンスと共に、飛空艇は空へと上昇。
こうして、ポイント7の戦闘結果は敗走に終わった。




