106 ワテクシ達はファミリー
ワテクシが日向の変わりにやってやれば良い。簡単な話だったな。
ワテクシは頭にクエスチョンの浮いた優の手を取り病室へと戻る。
「小夜。吉報だ。お前と日向の望み、ワテクシと優で叶えてやる。喜べ」
「……うんよろこぶ。でもおやびんと優が叶えるの? どういうこと?」
「そうですよおやびんさん。僕にもきちんと説明してくれなきゃわかりませんよ」
「ああすまんすまん、そうだったな。小夜、ログインアドレスは普通に携帯のメアドだろ?」
「……うん」
「だな、んで前にログインパスワードは誕生日だとか言ってたな? 変えろって注意したが変えたか?」
「……うん。でもヒナちゃんはめんどうだって変えてないみたい」
「がさつなアイツらしいが、今回はそれに助けられたな。ならポチポチと。ホレ、軍板見てみろ」
小夜達に軍板を見るように促すと、
「おい小夜、アタシが死んだからっていつまでもメソメソしてんなよ。化けて出るぞw」
「え!? ヒナちゃん!? なんで!?」
「おやびんさん、これって」
「ああそうだ。ワテクシが書いた。正確には日向のアカウントを乗っ取って書いた。日向とワテクシのハイブリッド、ヒナびんだ」
「……びっくりした」
「ハハハ、驚かせてすまんな。でも、もうわかるな? このヒナびんで1位を取る」
「そっか! じゃあ僕は小夜さんのアカウントで2位を狙えば」
「……小夜と優でサユかな?」
「朝イチに意識高いひとが飲みそうなハンネだな。とにかくこれで日向、小夜のワンツーフィニッシュは狙えるぞ! 後は優、お前とワテクシ、死にものぐるいでポチるだけだ」
「了解です! 大学もギリギリまで休んでポチります!」
「……優、そんなには頑張らないでだいじぶ」
「いや、やらせて下さい! やりたいんです! 僕、小夜さんと日向さんに、こんな僕でも仲良くしてくれた恩返ししたいんです!」
意気込みや良し。確かに現状の群雄割拠のゲームユーザー達を抑えてワンツーフィニッシュだ。それぐらいの覚悟は必要だろう。ワテクシも有給は使い切ってもやるしかあるまい。
「よーし、日向と小夜のデッキで、ワテクシと優がポチる! ファミリー一丸の大挑戦だ! いっちょやったるかい!」
「……おー」
「やってやりますよー!」
だが言うは易し行うは難し。とにかく時間のある奴が有利なこのイベント。アキヒロみたいなニートが参戦してると厄介なのだ。
が、
何度もいってるが、このゲーム配信のプラットフォームは出会い系サイト。ニート率は他のプラットフォームと比べると極端に少ない。微風程度の追い風にはなってくれるだろう。
イベント開始3日経過
「とりあえず順調な滑り出しだ」
「おやびんさんの指示通りです。どんなに重くても開幕ダッシュは走れ。他のユーザーが諦めてそれなりに軽くなるはずだから。後ガチ寝禁止。寝落ちしても良いように目覚しは1時間毎ならせ。これを3日もすれば3位以下とはかなりポイント差が出る。かなりしんどいですけど、そうそうは追い抜かれ無いかと思います」
「先攻逃げ切りが全てなのは変わりないんだ。ただ、ここまで徹底的にやる奴はワテクシ達が初めてだろうな。これをやる事により、最終ポイントのボーダーが跳ね上がるんだ。それをある程度のユーザーは理解してるから、早々に走り始める。すると他のユーザーも慌てて走りだす。するとどうだろう? そう、サーバーはとんでもなく重くなり、ポイントはむしろ稼げなくなるんだ。ワテクシ達が追い付かれる確率が低くなるんだよ」
このイベントならではのサーバー事情。初イベントの頃からある問題だ。運営が改善をしていないのを逆手に取った、ならではの作戦てある。
「じゃ、今日から目覚しは?」
「ああ、1時間から2時間に変えて良いぞ」
「それでも2時間置きなんですね……」
「ああ、油断は禁物だ。大変だが頑張れ。ここで頑張らないと日向が夢枕に立って1週間パンツ被せて来るぞ」
「ががが頑張りまっす!」
ワテクシ達のイベントは過酷だった。これまでここまで追い込んだプレイはして来なかったし、これはもう遊ぶと言うより修行だ。ポチポチポチポチポチポチポチポチ……虚無との戦いである。
途中、夜中の2時に優が、僕を殺せーって叫びのコメントを入れた時は焦ったが、概ね順調だ。優にはスパ銭とフルーツ牛乳を奢って持ち直して貰った。案外安上がりで助かる。
そして……
「優くん。最終順位をいいたまへ」
「2位であります。おやびんさんは?」
「むろん1位さ」
「…………」
「…………」
「やったぁー!!」
「良くやったぞ優!! これでもう今夜から心置きなく寝れ! 何やったら添い寝してやろう」
「はい! おやびんさん抱き枕にしてたっぷり寝ます! でもその前に!」
「ああ! 小夜と日向に報告だ!」
ワテクシ達は日向の墓前に花を添えて、その足で小夜のもとへと向かった。
「小夜、元気に病んでるか?」
「元気に病むってそんな器用なマネおやびんさんしか出来ませんよ!」
「……あはは。おやびん、優、いらっしゃい」
イベントに全力投球していたため、最近はまったく見舞いに来れてなかった。久しぶりに見た小夜は更にやせ細り、顔色も良いとはとても言え無い。ただ、苦笑するその顔は小夜特有の可愛らしさが損なわれてはいなかった。
「ワテクシ達が駆け付けたのは、もはや言うまでもない」
「じゃじゃ~ん」
優が得意げに携帯を開いて差し出す。
「……じゃじゃ~んて。優もスッカリおやびんの昭和臭が移ったね」
「昭和ディスったのかね小夜ちゃん。君、病床でも容赦しないお? 鼻の下にツバ擦り付けるお?」
「……それ、ぜったいくさいやつ」
「それこそが昭和臭さ」
「もう、そうやっておやびんさんが話し出すとすぐ反れる!」
「悪い悪い。気を取り直して、小夜見てくれ」
ワテクシ達の携帯をマジマジと見る小夜。瞳から涙が溢れ、ありがとう、ありがとうと何度も呟く様に咽び泣いた。
「悲願達成だな。ワテクシ達ファミリー4人の大勝利だ。日向の報酬はあろうことか趙雲様だったぜ」
「……うん、うん。ヒナちゃんもきっと喜んでるよ。みんなでメデジン・カルテル。大好きなファミリーだよって」
「僕だって大好きです」
「ワテクシの方が好きだがな」
「……いーや、わたしのほうがうえ」
いつもの調子で僕だわたしだと始まる。そう、これがメデジン・カルテルだ。
「……さてと、あんしんしたら眠くなってきちゃった。悪いけど少し眠るね」
「ああ、ゆっくり寝て休め。そして身体を直してまた一緒にプレイしようぜ」
「……うん。そーする」
小夜はゆっくり目を閉じると、満足気に眠りについた。
そして、二度と目覚める事は無かった。




