最終回 配信終了
日向と小夜が亡くなってから2年程の月日が流れた。
ワテクシも優も以来ゲームにはログインしていない。これまで通り笑顔で楽しく……なんて流石に無理だし、小夜と日向が欠けたメデジン・カルテルで、正直やる気なんて起きないからな。いわゆる放置民てやつだ。
そして今ワテクシは小夜と日向の墓参りに来ている。両宅のご両親が気を利かせて同じ墓に入れてあげたのだ。あの世でも仲良くしてることだろう。
「小夜、日向。あれからもう2年が経つぞ。お前達が仲間に入れてってパンツ見せてきた時から2年だ。早いもんだ。そりゃワテクシもジジイになるわな。ま、こっちはとりあえず元気でやってるわ」
「あれ? おやびんさん?」
と、そこへ背後から声を掛けられた。聞き覚えのあるその声は、
「お? 優か。久しぶりだなって、お前、髪伸ばしたのか」
「はい。似合いますかね?」
「似合う似合う。似合い過ぎておじさんメロメロだ。チ◯コ生えて無けりゃ求婚してるわ」
「え〜、生えてたら求婚してくれないんですか?」
「ん? それもそうだな。よし! 結婚しよう!」
「だが断わる!」
「お前、秒で振るなよ! 気付く年頃なんだぞ」
「アハハ! おやびんさんは相変わらずですね」
「んな簡単に変わってたまるかよ。それよりホレ、お前も2人に挨拶に来たんだろ? 手を合わせてやれ」
「はい!」
2人の墓前に手を合わせる優。長い沈黙の中に時折見せる苦笑は、日向達との楽しい思い出を思い出しての事だろう。
「それじゃ、日向さん小夜さん、また来ますね。おやびんさん、終わりましたよ」
「そっか。よし、どうする? 時間あるなら飯でも食って帰るか?」
「奢られてあげましょう」
「ちゃっかりしてやがるな」
簡単なランチを食べながら、お互いの近況など、とりとめのない談笑をする。
そしてワテクシ達が集えば、やはりあのゲームの話も出て来る。
「そう言えばおやびんさん、知ってました? あのゲーム、いよいよサ終するみたいですよ?」
「おお…… そうかぁ、ま、しゃあないっちゃあしゃあないわな。過疎ってるって話しは噂程度に聞いちゃいたがね。もう時代遅れだしな」
そう、世間は既にガラケからヌマホに移行されていたのだ。当時のカードゲームなど古臭い遺物でしかない。サ終も当然であるだろう。
「そこでですねおやびんさん、最終日、久しぶりに遊びませんか?」
「ん〜、そうだな。最後くらいは見届けてやるか」
「やった! それじゃお願いがあるんですけど……」
そんなわけで最終日は優と久しぶりにゲームをする事になった。
とは言っても、2年もほったらかしにしていたわけで、そんなデッキで何をまともに遊べるのか、いささか問題ではあるが。
そして迎えたサ終の日。
麗らかな春の日差しが差し込む好天に恵まれる中、ワテクシ達はとある場所へ向かっていた。
「よーし優、着いたぞ」
「運転御苦労様です!」
「しかしまたここに来たいとはな」
「皆さんにはいろんな所に連れてって貰いましたけど、ここが一番印象的で」
「確かになぁ、川でコケてずぶ濡れで半泣きなんざ印象深くもなるわな」
「それは言わないで下さいよぉ」
そう、ワテクシが来た場所は以前みんなで訪れた、花見の出来るキャンプ場である。時期的にもまさに見頃で調度良い。
「うっし! さっさとテント設営しちまうぞ!」
「ハイ隊長!」
今回は以前のような巨大テントでもないので、設営には大した手間は掛からない。
筈なのだが。
「優! ペグを打つコツは憶えているな?」
「ハイ隊長! 丑の刻参りで発狂した老婆の如くです! イーーーーッ!!」
「バカ者! それはただの引っこ抜かれたマンドラゴラの絶叫だ! 老婆はこうだ! イイヤェーーーーッ!!」
「隊長! 子供達にメチャクチャ笑われてます!」
「なんだと!? おまいらぁ…… 食べちゃうぞぉー」
「うわぁ~! 逃げろぉ〜」
「待てぇ〜」
――――小一時間経過――――
「え、えらい設営に時間くったな」
「他キャンパーの子供達と遊び出すからですよ!」
「面目ない」
「急いで晩御飯造らないと夜になっちゃいますよ」
「いや、それには及ばん。料理はしないでいい様に、ジャーキー買ってきた」
「え?」
「だからジャーキー買ってきた」
「まさかジャーキーだけですか?」
「だけだな。カップラーメンもあったが、昨晩腹減って食っちまった」
「…………」
「…………」
「痛たたた! やめろ! 無言でポコポコ殴るのはやめろ!」
「あ、あの……」
そんなおかんむりの優に、周りのキャンパーさんが話掛けてきた。
「もし良かったら食べて貰えますか?」
おお! カレーや! キャンプ飯の醍醐味! カレーや!
「え、と、良いのですか?」
「はい。張り切って作り過ぎて困ってたところでして。子供達とも遊んで貰いましたしお礼も兼ねて」
「ありがとうございます! いただきます!」
助かった。ポコポコ地獄から脱出出来る。そして他のキャンパーさん達も色々とお裾分けしてくれて、むしろ豪勢なディナーになってしまった。
「おやびんさんの寄り道遊びもたまには役にたつんですね」
「失敬な。計算通りだよ」
「嘘ばっかり」
優の機嫌も治ったところで晩飯と洒落込もう。他キャンパーさんのお恵みに感謝して舌鼓。こういうところで食う飯って、普段より美味く感じるのは何故だろう。
さてさて、腹も満たされれば当座の目的に掛かりますか。
「そんじゃそろそろログインするか」
「はい!」
久方ぶりのマイページ。そこには相変わらず司令官カードの司馬懿が佇んでいる。思えばコイツをガチャで引いたのが始まりだよな…… 感慨深いもんがあるな。
色々調べてみると、レアリティも更に上が出てたりと、様変わりは激しい。もはやワテクシのデッキなど、骨董品だな。
「もしかしておやびんいるの?」
「お? 蘭華か。お前まだやってたんか?」
個人板にコメントしてきたのは蘭華だった。コイツには日向、小夜の件は説明している。
「やってるって言っていいレベルじゃないけどね。花魁道中の人数も今4人しかいないし」
栄枯盛衰か。世の定めだねぇ。
「おやびんがいた頃のめぼしいメンツはみんな引退したかなぁ」
「しゃあないっちゃあしゃあないけど、寂しい話じゃのぉ」
「んで? 今日は最後の思い出造り?」
「そ。優と2人で遊びにきた。軍バトでボコボコにやられにw」
「www それはそれは。じゃ、泣いても笑っても最終日。ウチもリオンと軍バト楽しむから、おやびん達も楽しんで!」
「おう! 色々世話かけたな。またな」
やはりみんな引退してたか。蘭華が残ってただけでも良い収穫だったと思おう。
んで、だ。今日の軍バト対戦相手は…… 鉄の城、ですか。うん、知らんな。とりあえず挨拶しとくか。
「軍バトよろ」
すると速攻で返コメがきた。
「えええ〜!? おやびんさんいるんですか!? マジかぁ~ レジェンドだよ!!」
「レジェンド?」
「あっと、おやびんさんの話はいろんな人から沢山聞いてて、すぐドヤるとか」
間違い無く和尚だな。草の根分けても探し出して煮込んでやる。
「そ、そりゃ光栄だな」
「光栄なのはこっちですよぉ。良かったぁ今日ログインして! 軍バト宜しくお願いしますね」
「ん。歯ごたえ無くてつまらんと思うが、よろしくな」
かくして始まった軍バト。まったく太刀打ち出来ないのはもはや御愛嬌と言うもんだ。
「うひぃ。歯が立つとかそんなレベルでもない」
「アハハ! 2年のブランクすごい!」
優もワンチャンあるんでは? くらいの気持ちだったが、絶望的な負け戦にむしろ笑ってしまう始末だ。
「惨敗!」
「大惨敗でしたね!」
ま、メデジン・カルテルの締めくくりとしてはそれも有りだよな。満足だ。
そして時計が0時ジャスト。ゲームから強制的に追い出されると、
このゲームはサービスを終了致しました。長年の御愛顧、誠にありがとうございました。
と、表示され、もうログインは出来なくなっていた。
「これで本当に終わりだな」
「ですね」
何か込み上げてくるものでも有るかと思ったが、案外サッパリしたもんだ。見上げればライトアップされた夜桜が、ワテクシ達の健闘を讃えてくれているかのようだ。
「ちょっと寒いですね。僕、今日は毛布持ってきましたよ」
「ワテクシも持って来てるぞ。くるまろうぜ」
2人して毛布に包まると、優が何気なしに言ってきた。
「そっちの毛布に入って良いですか?」
「ん? 構わんよ」
モソモソと毛布に入ってきて、ニョッキリと顔を出すと、目が合った。
「フフ、前も1つの毛布にみんなで入りましたね」
「あったなぁ、あんときゃ絞め殺されるかと思ったよ」
「あ! そうだ!」
モソモソ動いたかと思うと、スマホを取り出してイジリ始める優。何やら眺めるとフフフと笑ってワテクシに見せてきた。
「おやびんさん、ほら、見てくださいよ」
それは1枚の写メ画像だった。
1枚の毛布を奪い合う様に潜り込むメデジン・カルテルの4人。
その顔には、夜空を埋め尽くさんとする夜桜にも負けない、満開の笑顔が咲き誇っていた。
これにてこの物語は終了となります。長々とお付き合い、ありがとうございますた。




