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105 日向逝去

 それは通過中の特急列車だった。

 日向は即死だったらしい。


 日向が死んだ報告を受けたワテクシ達は、急ぎ搬送先の病院へと向かったのだ。出迎えてくれたのは先程小夜に連絡をくれた日向の母だった。日向はなぜか携帯を守るかの様に握り締めていたらしく、壊れていなかったらしい。ふと見てみれば小夜から何度も連絡があったのに気付き、そのまま日向の携帯から連絡をつけたのだとか。気丈に振舞ってはいるが、かなり憔悴している。


 日向の遺体は損傷が激しく、とても人様に見せられる状態ではないとのことで、ワテクシ達はお別れの言葉すら扉越しに行うしか無かった。


 昼間あんなに元気に楽しくツッコミ続けてくれた日向はもうこの世にはいない。病院に駆け付けるまでは嘘であって欲しい…… いや、何かの間違いだと思っていた。 

 しかし現実は常に残酷だ。もう、天真爛漫なあの娘はいない。軽快なツッコミも、美味しい手料理をこさえてくれる事は無いのだ。

 胸に去来する様々が思い出が、今まさに悲しみとなって膨れ上がる。

 そんなワテクシなどより、問題は小夜だ。

 最高の友人であり、何より最愛の恋人が亡くなったのだ。その乱れぶりは、普段の物静かな小夜からは考えられもしない程だった。悲鳴の様な絶叫をあげて泣きじゃくり、泣きつかれて気を失うまで、手の付けようが無い程だったのだ。


 結局、ワテクシ達がここに居ても何が出来るわけでもないし、日向のご家族にとっても迷惑だろうと、一旦小夜を自宅へ運んでから解散と相成った。


 後日に日向がなぜそんな事になったのかの全容がおしえられた。

 あの日、日向は兄弟のバーに向かう為にホームで電車を待っていた。

 そこにまだ日も陰りきっていない時分から、こじっかりと酩酊した男が千鳥足であらわれた。

 運が無さ過ぎたんだ。ホームの防犯カメラに捉えられたその男は確かに日向を狙ったわけではない。だが確実にもつれた足を止める事が出来ずに、日向を線路へと突き落としたのだ。

 そこへ通過中の特急列車がやって来てしまった。


 明くる日、男は自宅近くの雑木林で首を吊って死んでいるのを発見された。足元の遺書には書き殴った様に申しわけ無いと、銀行通帳とハンコと一緒に置いてあった。


「俺があの日祝賀会をやろうなんて言わなければな」


「おやびんさんのせいではありません。そういう言い方は良くないですよ」


 日向が亡くなって以来、さすがにゲームを楽しもうと言う気分にもなれず、ワテクシ達の足は遠のいている。そんな中、優から連絡があったのだ。元気づけなきゃならん立場のワテクシが説教されてれば、ざまは無い。

 優からの連絡の内容は小夜の事だった。小夜はアレから、やはりと言うか憔悴は激しく、入院せざるを得なくなったのだ。

 そもそも心臓に難のあった娘だ。日向の死は心身ともに蝕んでいったのだろう。

 今、小夜の病室で話しをしている。


「だから、小夜さん。今は身体を第一に考えて下さい。そんな身体でイベントで1位取るとか無理ですって!」


 小夜が何故かイベントで1位を目指すときかないのだ。


「小夜、なぜ今なんだ? なぜ1位を取る事にこだわる? もう以前、お前が1位を取れた頃とは違う、争いはより熾烈、より過酷なのが理解出来ないお前では無いだろう? ましてやその身体でなんてやる前から結果は出てるようなもんだ」


「……うん。そんなのわかるよ。でもね、ヒナちゃんとやくそくしたんだ。また一緒に1位と2位になろうねって。こんどはヒナちゃんが1位でわたしが2位。桃集めイベントやろうねって。だから、わたしがヒナちゃんの分まで頑張って1位になるんだよ」


「しかしだな…… ハッキリ言う。無理だ」


「……わかってるよ! でも…… でもやらなくちゃ……わたし…… わたし……」


 無理でもなんでもやらなきゃ……か。現実的に考えるとあのイベントはほとんど体力勝負。以前勝てたのは星の屑作戦あってこそだったし、今の小夜のレベルでは使え無い。純粋なポチポチ勝負だ。身体の弱い小夜ではそもそもが不利なんだよな。


 小夜の気持ちは組んでやりたいが、現実的にどうしようも無い。どう返事をしてやったらいいのか言葉に詰まる。


「あの…… おやびんさんでしたか? 少しよろしいでしょうか?」


 その時、病室でワテクシ達の話を聞いていた小夜のお母さんが話掛けてきた。


「ここではアレなので、外に」


 お母さんに言われるがままに病室を出ると、談話室へとやってきた。


「あの、私にはゲームのどんなお話しをしているのか、よくわからないのですが、小夜が無理を言っているのは理解しています。そこでお願いなのですが、小夜の、あの子の思い、叶えてやってくれませんか?」


「あの、いやお母さん。自分達もそれはもちろんそうしてあげられたら、そうしてあげたいのは山々なのですが、現状の小夜さんの事を考えると余りにも難しいのです。小夜さんの身体には厳し過ぎるのです」


 母親として、娘の思いを遂げさせてやりたい気持ちは分かるが、こればかりはな。


「わかってます。その上で、です。あの子は変わりました。幼い頃から病弱で、お友達と外で遊ぶ事もままならず、部屋に籠りがちになる日常の中、日向ちゃんと出会い、優君やおやびんさんと出会った最近は、とても楽しそうに話してくれるんです。今日、あんなことがあった。こんなことがあったって。病は気からなんて言葉が本当にあるのではと思う程、最近は体調も良くて。だから…… あの子から楽しみを取り上げるのだけは……」


 お母さんは無理を言って申しわけありませんと、涙を押し殺して病室へと戻っていった。


「おやびんさん。何とかなりませんか? これじゃ小夜さんが可哀想です」


「そんなこと言ったってなぁ。絶好調の小夜でも……ってか、ワテクシでも現状1位を取るのは至難のわざだぞ」


「でも! でも! いっつもおやびんさんは何とかしてくれてたじゃないですか! 今回だって何とかなりますって! だからおやびんさん!」


 そんな簡単な話じゃ無いんだ。チートでも使わにゃ無理だそんなもん。ああもうおやびんさんおやびんさんうるせえなこの野郎! 


()にどうしろってんだっ!!」


 俺は優の胸ぐらを掴むと、激しく壁に叩き付けてしまった。


「うっ…… 痛い……」


「あ!! しまった! 優、すまん! 悪かった。この通りだ」


「いえ、大丈夫です。コホ、少し息が詰まっただけ。僕もいけなかったんです。なんでもかんでもおやびんさんなら何とかしてくれると思っちゃって」


「すまない。それでも暴力は違う。本当に申し分無い。ただ分かってくれ、ワテクシが小夜の変わりにやってやるでもなきゃ1位なんてどだい……」


 あれ? 変わりにやる? 出来るな。


「まて優! 出来る! コレなら何とかなるぞ!」


「え? 出来るって小夜さんが1位ですか?」


「違う違う! 日向、小夜のワンツーフィニッシュだ!」


「はい?」

 

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