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【漫画4巻6/5発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第四部/裏 其は、森羅にして万象故に。

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アロンナの和解【後編】


 ーーー奥様。


 あの人は、そう、自らの『父母』を王太子妃殿下の為に断罪したのである。


 そこに、何一つ後悔がなかった……筈がない。


 あの断罪劇の当時でも、彼女は19歳だったのだ。

 その為の計画を、成人前から考えて、何年もかけて実行したのだ。


 自らの破滅すら厭わず。

 あるいは、自らが破滅するからこそ実行出来たのかもしれない。


 彼女の口から、義理の父親のことを聞いた記憶はなかった。

 けれど『母からは愛されていた』と。


 自分を育て、愛してくれた相手を……裏切ったのだとしても、本当に抱いていたのは恨みだけだったのだろうか。

 

 ーーー奥様は。


 だから、アロンナに。

 きっと、エサノヴァに自分を重ねて。


 主人と定めた方の為に、大義の為に、自分の気持ちを殺したエサノヴァを、受け入れてあげて欲しい、と。


 一緒にいられるのなら、それは、良いことだと。

 だったら、後に残るものは……アロンナの小さなわだかまりだけで。


 なら、自分のすべきことは、一つしかなかった。

 娘の為、なら。


「……良いでしょう、許しましょう」


 と、アロンナは口にした。


 たったそれだけで良いのなら。

 愛した我が子の為であるというのなら、その程度を飲み下す程度は、落ちこぼれのアロンナでも出来るのだから。


 エサノヴァが、目を見開く。


「奥様の側でお仕え出来るよう、姉に要望を出しておきます。……お帰りなさい、エサノヴァ」


 アロンナはぎこちなく、娘に微笑む。


「奥様の為に、よく頑張りました」

「お母様……!」


 エサノヴァは涙を浮かべて、アロンナに手を伸ばしてくる。

 それを受けて、彼女の体を目一杯抱きしめた。


「……これで、良いのでしょう?」


 眩しそうに目を細めるイズィースに、アロンナが目を向けると、彼は静かに頷いた。


「ああ」

「あなたは、どうなさるのです?」

「大公国に戻る。お館様が残したものを、整理しなければいけないからね」

「その後は?」


 尋ねると、イズィースは首を傾げる。


「どうしようかな。あまり、考えていないよ」


 その返事に、アロンナは深く息を吐く。

 頼りないわけではないけれど、あまり自分の気持ちを語らない元・夫。


 そこに距離を感じたこともあった。

 自分も利用しているのだから、本心を見せていないのは同じだと思っていた。


 けれど、もう、何もないのなら。


「イズ」


 普通の夫婦のように、少しは、ぶつかっても良いのではないかと、アロンナはイズィースを睨みつける。


「エサノヴァは、私たちの娘です」

「そう、だね」

「父親が、役目が終わったからと無責任に放り捨てて、好き勝手していて良いと思っているのですか」

「……?」


 彼は、戸惑ったように首を傾げる。


「終わったら戻ってくると、何故そう言えないのです。……この国を出る時にわたくしを『愛していた』と、そう仰ったのは、ただの慰めですか?」


 そうなじると、イズィースは眉根を寄せてから、額に手を当てて俯く。

 そうして、眉根の皺を指で何度かなぞった後に、少し躊躇ってから、返事を寄越した。


「いいや、本心だとも、アロンナ。私は確かに、君を愛していた」

「過去に、ですか?」

「……いいや、今も、だ」

「エサノヴァは」

「もちろん、私の可愛い娘だ」

「では、もう一度問います。……あなたは、どうなさるのです」


 すると、イズィースは苦笑してから、両手を上げる。

 

「分かった、降参だ。片付けたら、きちんと君とエサノヴァのところに帰ってくるとも」

「その言い方は卑怯です。全部わたくしに言わせるのは、無責任ではありませんか。自分が決めたのではないとでも言いますか」

「いや、本当に参ったな。君がそんなに気が強いことを言うとは思わなかったよ」

「母ですから」


 イズィースは、可愛いエサノヴァの父親である。

 そして、アロンナが愛した元・夫なのだ。


 家族よりも優先するものがなくなったのなら、そのケジメはきちんとつけて貰わなければいけない。


 裏切っていた分の愚痴くらい、言っても良いと思った。

 だって、彼はアロンナの子どもではないのだから。


 イズィースは真剣な目になり、静かに口にする。


「分かった。全て片付いたら、改めて君にプロポーズを。返事を聞かせてくれるかい?」

「良いでしょう。……お帰りなさい、イズ」

「ああ、ただいま、アロンナ。必ず帰ってくるよ」


 その後、イズィースは大公国に旅立ち……約束通りに、帰ってきた。


 表向きは『イズィース』という名前の平民として。

 裏向きには、〝土〟の公爵家の者として、国際協定の契約書にサインを記して。


 アロンナが再婚すると、姉はイズィースとエサノヴァを正式に『デスターム』として迎え入れ、その後に分家の手続きをしてくれた。


「お前はもう、デスタームでなくて良くなりましたねぇ」


 と、珍しく嬉しそうな顔で、姉ヌーアにそう言われて……何故かアロンナは、その時に涙が溢れた。


「ありがとうございます、姉さん。わたくしは、幸せです」

「それは、良いことだねぇ。もう、手放さなくて良いからねぇ」

「はい」


 そんなやり取りをして。

 けれどアロンナは、数年後に本当の・・・人生最大の事件が待っていることを、まだ知らない。


 エサノヴァが、ヒルデントライ様の結婚式に参列なさっていた、ティグ・ライオネル第三王子殿下に見初められて。


 彼の熱烈なアプローチと策謀の末……エサノヴァがキルレイン侯爵家の養子になって、最終的に第三王子妃になることを、この時はまだ、知るよしもなかった。

 

ここでどうぞ『遥かな日に、北へ。』を読み返していただけると幸いです。


イザベラのお話は、本来ここの挿話となります。


次回更新をお楽しみに、です!

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