↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ノベル8巻10/7発売!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第四部/裏 其は、森羅にして万象故に。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
142/231

帰国の船で。【後編】

 

「ごめんなさい、ウェルミィ。お誘いは嬉しいけれど、この状態のレオを放っておけないわ」


 イオーラが少し困りながらそう告げると、可愛い義妹はぷくぅ、と幼い子どものように頬を膨らませた。


「起きてても役に立たないんだから、オレイアにでも命じて眠らせておけば良いじゃない!」

「デカイ声、出すな……おぇ……頭に響くだろ……だけど、良い案だな……」


 ベッドに座り込んだレオが、今にも死にそうな様子でえづくのに、イオーラは優しく背中を擦る。


「今眠ったら、夜眠れなくなるでしょう」

「ぐ……」


 魔術は万能ではないのである。

 深く催眠を掛けると、3日3晩寝たきりになってしまったりすると、オレイアは自分の力の危険性を口にしていた。


「あーあ。お義姉様が二人いれば良いのに!」


 つまらなそうなウェルミィが、また突拍子もないことを口にするけれど、イオーラは否定しない。


「そうね、ウェルミィが居たみたいに、二人いれ、ば……」


 と、不意に何かを思い出した気がして、ふと言葉を途切れさせた。

 こんなやり取りを、凄く幼い頃にした気がする。


 ーーーいつだったかしら。


 そう、あれは。


「『私が二人居れば、お義姉様も旦那様も』……」

「……『ずっと一緒に居て助けられるのに』」


 そう言葉を引き継いだのは、ウェルミィだった。

 思わず顔を見ると、彼女も何か思い出したような、呆然とした様子を見せている。


 イオーラは、ウェルミィと見つめ合う内に、徐々に記憶が鮮明になってきた。


「私がそう言った時……お義姉様も……居た?」

「そうね。確か、婆やが……あれは、何の話だったかしら?」


 イオーラが問いかけると、ウェルミィは額を押さえて、まるで目眩を感じているようにふらつく。


「ウェルミィ? どうした?」


 その体をエイデス様が支えると、ウェルミィは真剣な目をオレイアに向けた。


「……ねぇ。貴女、『もう一人の私』を判断した時に、何て言ったのか、もう一度教えてくれるかしら?」


 するとオレイアは、少し首を傾げる。


「『私とのやり取りをそこまで細かく覚えているのは、ウェルミィ様だけです』と、そのようなことを伝えしたかと」


※※※


 ウェルミィは、脳内に響いた幼い自分の声に、打ちひしがれていた。


『私が二人居れば、お義姉様も旦那様も、ずっと一緒に居て助けられるのに!』


 ーーー思い出せる筈よ。あの時、私は……婆やと何を。


 記憶力には自信がある。

 オレイアの話を前に聞いた時には『私にだって覚えていないことくらいあるわよ』と言ったけれど。


 違う。

 忘れているだけ。


 覚えている。

 覚えているなら、思い出せる筈だ。


 婆やとのやり取りを。

 まだ、お義姉様と仲良くしていた頃の記憶を。


「あの日は……」


 お義姉様も、何処か遠くを見つめるようにして、記憶を探っておられる様子だった。


「確か……ウェルミィがエルネスト邸に来たばかりで……お作法を、婆やに」

「それだわ!」


 お義姉様のお陰で、記憶が甦ってくる。


『ウェルミィお嬢様は、大変賢くあられますねぇ』

『そう?』

『ええ。物覚えも良くて。いかにして振る舞うべきか、大変理解が早うございますよ。演者の才がございますねぇ』


 と。


「そうよ、婆やは……だって、〝水〟の」


 元々は工作員を率いていた人で。

 〝変貌〟の魔術に長けていて。

 

 ウェルミィが出会う前に婆やと入れ替わっても、そつなく振る舞える人で。


 エイデスのお父様より、10も歳上で。

 なのに、見初められて。


 記憶と今が混乱する。

 思いついたことを頭の中で束ねる間にも、次々と記憶が蘇ってきた。


『凄いわね、ウェルミィ』


 お義姉様も、褒めてくれて。

 あの時は、凄く嬉しくて。


『私、お義姉様に負けないくらいの淑女になるわ!』

『ウェルミィお嬢様なら、なれそうですねぇ』

『そうしたら、お義姉様とずーっと一緒にいるの!』

『ようございますねぇ』


 エイデスのお母様は、一度大公国に渡って。

 その後、エルネストの婆やに。


『ですが、ウェルミィお嬢様も、やがてお嫁に行かれますからねぇ。ずっと一緒は、難しいかもしれませんねぇ』

『そうなの!?』

『ええ。イオーラお嬢様は、エルネストのお家を継がれますから、ずっと居られるかと思いますが』

『だったら、私もずーっとエルネストのお家にいるわ!』


 すると婆やは、そう、確か、微笑んで。


『ですが、ウェルミィお嬢様に、イオーラお嬢様と同じくらい好きになれる旦那様が出来たら、どうなさいます?』

『出来ないわ!』

『もし出来たら、ですよ。そんなお気持ちを演じてみては、如何でしょうねぇ。立派な淑女になる練習ですよ』


 そんな婆やの言葉に、むむむ、とウェルミィは、考えて。


『困るわ! だって、二人に『一緒に居てほしい』って言われたら、どっちと一緒に居て良いか分からなくなるわ! お義姉様もそう思うでしょう!?』

『そうね。……それは、困るわね?』

『確かに、確かに。ではもし、そうなってしまったら、ウェルミィお嬢様はどうなさいます?』


 婆やは、まるでウェルミィを困らせるようにそう言って。

 だから、だから。



『一人じゃどうしようもないわ! 私が二人居れば、お義姉様も旦那様も、ずっと一緒に居て助けられるのに!』



 ウェルミィは、そう口にしたのだ。

 そうしたら、婆やは目を丸くして。


『なるほど。それは妙案ですね(・・・・・・・・)』


 って。


「……エイデス」

「何だ?」

「貴方のお父様は、どんな方だったか、聞いたことがある?」


 ウェルミィの問いかけに、エイデスは目を細める。


「……一度、そう。お前を迎えた後に会った時に義父(ちち)が、『お前達は本当によく似ている』と、何処か呆れたように言っていたな」

「似てる……のね?」

「ああ。だが、父については、私よりおそらくはヌーアの方が詳しいだろう」


 と、彼は船室の前に控えていたヌーアを呼ぶ。


「アルガ様と、ライヴァ様のことにございますか?」

「ええ。分かる限り、教えて欲しいわ。性格や気質なんかを」

「そうですねぇ。あいにく古い記憶にはございますが。アルガ様のご容姿は、瞳の色味以外は御当主様にソックリでしたねぇ。大変ご聡明で、魔術の才も名高く。……ただ、アルガ様より御当主様の方が少々落ち着かれていて、真面目であらせられるでしょうか」

「そうなのか」

「えぇ、えぇ。アルガ様は破天荒な方であらせられました。ライヴァ様は、そうですねぇ……どちらかと言えば、ご出自の関係から、私側(・・)の物の考え方をなさる方でしたねぇ。少なくとも、私よりは遥かにお優しくあられましたが、やはりご聡明でいらっしゃいました」


 ヌーアはどこか懐かしそうに告げて、最後に付け加える。


「多分、御当主様の方が落ち着いておられるのは、ライヴァ様の気質でしょうかねぇ」


 エイデスによく似た二人。

 そんな二人のことを考え、ヌーアの語る『ライヴァ様』と婆やを重ねながら、ウェルミィは次いで再び影に潜んでいる男に問いかける。


「イズィース。『語り部』の……彼の〝夢見〟は一瞬で終わるような万能なもの?」

『そうではございませんね。何度か〝夢〟の中にご招待いただきましたが、そう、普通よりは流れる時間が早い程度でございました』


 影の中から答えたイズィースに、ウェルミィは目を閉じる。


「……『もう一人の私』を連れて来る前くらい、に、長く夢を見ていた?」

『はい。夢の中におられる時間が大半でした。『もう一人のウェルミィ』様を見つけるまでに、数年を要しております』

「その頃の『語り部』は、『私』と会う前より、もっと子どもみたいだったのよね?」

『……左様にございます』


 主人の悪口になるからかイズィースは言い淀んだが、必要なことと判断してくれたのだろう。

 答えを聞いて、ウェルミィは目を開く。


「婆やが、死んだのは?」

『直接の面識が然程ある訳ではありませんが。あの方が最後に過ごされる場所をご用意したのは、私です』

「『語り部』が、『もう一人の私』を連れてくる前ね?」

『はい』


 なら、確定だ。


「そうよ。『語り部』は、幼いのよ……」


 未来を垣間見て正確な判断を下せはしても、その性根は幼な子。


 自他の区別がついていないような。

 そう、きっと。


「人の受け売りであったとしても、それをまるで、自分の考えの(・・・・・・)ように話す(・・・・・)くらい……」

「そうね」


 ウェルミィの呟きにお義姉様は頷いたけれど、エイデスは珍しく話の先が見えていないようだった。


「生母のことと、それに何の関係がある?」

「分からない?」


 ウェルミィは、ちょっと怒りを込めてエイデスを睨みつける。


「本当、やられたわ! まさか、婆やがそんな……貴方達オルミラージュの人間は本当に……もう!」

「何を怒っている?」

「怒るわよ! あなた達は本当に、悪戯が好きなんだから!」

 

 そのまま助ければ良いのに、ウェルミィを披露すると、余計な意図を汲んだ上で断罪劇に仕立てたエイデス。

 薬草畑を預かる庭師に扮して、自分とお義姉様に接触したイングレイお義父様。


 婆やに扮して(・・・・・・)、ウェルミィ達に出会ってみた、ライヴァお義母様。



「『もう一人の私』の前に『語り部』の参謀(ブレーン)だったのは、婆やよ! きっと、『もう一人の私』を連れて来るように唆したのもね!」



「なん……だと?」

「元々は〝水〟の『手足』の長を任せられるくらい冷徹で、有能で! 貴方によく似た自信家のお父様に見初められて! 『語り部』に貴方への伝言を預けられるくらい、未来の話を深く知っていたのよ!?」


 そんな人が、バカである筈がない。

 きっと、全部分かっていて、ウェルミィの顔を……エイデスの未来の妻である自分の顔を見る為に、エルネスト邸に来たのだ。


 立板に水と言葉を吐き出した後、エイデスに指を突き付ける。


「そんな婆やが、私にやり込められる程度の『語り部』に、良いように使われてる筈がないでしょう!」


 何が『妙案』なのか。

 きっとあの時のウェルミィの戯言をわざと真に受けて、こんな仕掛けをしたのだ。


「何でもかんでも、全部私のせいにしようとして! 信じらんないわ!」


 これが真実なら『本当にウェルミィのせいである』とでも、生きていたら種明かしをするに違いない。

 だって、オルミラージュの人達はそういうことをするから。


 ーーーでもこれに関しては、全部、婆やのせいよ! 絶対、私のせいじゃないんだから!


 大体、8歳かそこらの幼な子に問いかけるようなことじゃない。

 ボカしてはいても、『どうしようもない世界の命運を、どうしたら変えられるか』なんて問いかけは。


「天国に行ったら、貴方の横っ面張り倒したみたいに、ひっぱたいてやるんだから! 本当にもう!」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。