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【ノベル7巻発売中!】悪役令嬢の矜持〜婚約者を奪い取って義姉を追い出した私は、どうやら今から破滅するようです。〜  作者: メアリー=ドゥ
第四部・表 導くは双玉。

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羊の皮を被った狼。


「今回の件においては、皆様、事情をご存知のことと思います。また諸国の王族並びに貴族の皆様におかれましては、こちらの請願を聞き入れて我が国に留まって下さったことに、深く感謝申し上げます」


 ブラード様は立ち上がって、諸国の賓客それぞれに深く頭を下げる。


「今回の件について調査を行いましたところ、一つ大変有力な証拠を手に入れることが出来ましたので、皆様にもご共有致します」


 そう言って、コトリとブラード様が置いたのは、水色の宝玉だった。

 水晶のようにも見えるが、少々不透明なものだ。


「そちらは?」


 諸外国の代表としてだろう、この場で最も影響力の強い帝国王太子、レイダック・バルザムが訊ねると。


「これは、【記憶水晶】というものです。〝水〟の血統に伝わる固有魔術の応用で、その場の記憶を映像として呼び起こすものがございます。その映像を記憶させることが可能な水晶です」


 ブラードの言葉に、〝水〟以外の三公家が驚いたような反応を見せる。

 

「……何を驚いているのかしら?」

「血統固有魔術の秘に関することだからだろう。おそらく各家に同様の秘があり、〝水〟がその一つを明かしたことに驚いているのだろうな」

「へぇ……」


 当然のことだけれど、〝水〟の血統は、この件をそれだけ重要視しているということだろう。


 強固な警備を潜り抜けて、〝水〟の大公は自室で殺害されていた。

 捨て置けば、それこそ出し抜かれるような警備体制を敷いていた上に犯人を取り逃したということになり、〝水〟の公爵家の威信は完全に地に落ちる。


「こちらの映像を、望む方には後で魔導陣を敷いた部屋でお見せ致しますが……内容を端的に告げますと」


 と、そこでブラード様が一度、言葉を切る。



「ーーー我が父は死の間際、朱色の瞳の女性を自室にて目撃しております」



 その言葉に、一斉に視線が一点に向く。

 すなわち、ウェルミィの方向に。


 ーーーふぅん?


 中々面白い仕掛けね、と内心で笑みを浮かべながら、扇を広げて口元を隠す。

 そこで口を開いたのは、レオだった。


「なるほど。それは有力な情報ですね」

「ええ」

「それが犯人である、と、ハイドラ公爵令息は考えておられますか?」

「映像の状況から、その可能性は高い、と睨んでおります」


 おそらくレオが訊ねたのは、この場では他に誰も『ウェルミィ・オルミラージュ侯爵夫人を疑っているのか?』とは口に出来ないからだろう。

 諸外国の来賓や四公家がそれを口にした瞬間、エイデスの不興を買うことが分かっているからだ。


 実際、ブラード様も慎重に名や疑いを明確に口にしないよう努めている。

 同時に、別の下世話な想像をしている者も幾人かはいるのではないだろうか。


 ーーーあれだけご高齢の男性を相手に、(しとね)を共にする趣味はないわよ。


 息子のブラード様ですら、エイデスより年齢は上である。

 というか、エイデス以外とそんなことをする理由もないけれど、ウェルミィの社交界での悪評については、最も交流のある帝国側には知っている人もいるかもしれない。

 

 『アーバインを籠絡し、五人の令息を誑かした』という噂は。

 『それが演技だった』という真実よりも、話の肴にはもってこいだから。


「殺害、というお話が怪しくなって参りましたね。腹上死の可能性も?」


 するとそこで、とんでもない発言を落として場を凍り付かせた人物がいた。

 誰を隠そう、エサノヴァだ。


 彼女の薄い笑みに、ウェルミィはミシッ、と扇を鳴らす。

 けれど、誰が反論するよりも先に、ブラード様が口を開いた。


「謹んでいただきたい、サンセマ公爵。ハイドラの名に誓い、毒と刃物による殺害であることをお伝えさせていただく」

「なるほど、これは失礼を」


 声音も容姿も、ウェルミィから見ると完全にエサノヴァなのだけれど、どうやらブラード様にはフェリーテ・サンセマ公爵に見えているようだ。

 

 正直、〝水〟の大公殺害よりもそっちの方が気になるのだけれど……ウェルミィは、この場で明かす予定だった情報の順番を少し変えてやることにした。

 疑われたところで、こちらとしては特に問題がないのだ。


 それよりもせっかく発言の機会を与えられたのだから、場を揺さぶって、今から口にする情報を誰が知っているのかを見極める方が重要だと思った。


「私、一つ皆様に面白いお話を提供しようかと思うのですけれど」


 ウェルミィが口を開くと、皆がまた、こちらに目線を向ける。



「ーーー亡くなられたピエトロ・ハイドラ大公閣下が、呪いの魔導具をご使用になる方だった、と、どれ程の方がご存じかしら?」



 その発言に、大広間の空気が凍りつく。

 同時に、ライオネル側で動揺の気配を僅かでも見せたのは、レオとテレサロのみ。


 二人とも表情にこそ出していないようだけれど、肩が僅かに動いた。


 多分、レオはこの時点で予定にないウェルミィの発言に対して反応し、テレサロはこちらの不穏な魔力の気配を察したのだろう。


「その呪いの魔導具によって、かつてのオルミラージュ侯爵夫人と、その長子である女性が殺害(・・)され、私の夫が左腕に深い火傷を負ったことを知る方は?」

「……ウェルミィ」


 続く情報を断定的に告げたことに対して、さすがにエイデスが口を挟むが、止まるつもりはなかった。


 ウェルミィは、怒っているのだ。

 エイデスを狙い、ヒルデントライを傷つけたのみならず、本来エイデスの手で(・・・・・・・・・)裁かれるべき(・・・・・・)悪人を勝手に殺した(・・・・・・・・・)犯人に。

 

「どなたが、彼の命を奪ったかは存じ上げませんけれど……」


 ウェルミィはうっすらと笑みを浮かべて、扇を下ろす。

 こちらに注目している内の数人が、わずかに顔色を悪くし、幾人かは目を見張っており、幾人かは面白がるような笑みを浮かべている。


 そして多くの者は真剣な表情で、厳しい視線をこちらに向けていた。


 その多くの者達を、ウェルミィは『オルミラージュ侯爵家魔導具事件』へ関与していないと判断する。

 元々、疑いが薄い方々でもあり、こちらの演技に騙されて〝水〟の大公殺害の疑惑を濃くする、あるいは不確定な情報で死者を冒涜するかのような発言を不快に思うのなら、情報を握っていないからだ。


 目的の為に悪役を演じるのは、得意中の得意。


 どのような態度や口調で話せば、相手が自分に向ける感情をコントロール出来るか……社交界とは、情報を有し、好意と敵意を掌の上で転がした者が勝つ戦場なのである。


 〝水〟の大公が起こしたオルミラージュ侯爵家の事件を知る可能性が高いのは、厳しい視線を向けた者以外。


「因果応報、人を呪わば穴二つ、という言葉を、私は〝水〟の大公にお贈り致しますわ」


 そう言って、ウェルミィが目を向けた相手は……エサノヴァ。


 大公殺しの犯人が、おそらくは〝土〟の公爵家であろうことを、ウェルミィ達はほぼ確信していた。

 その上で、フェリーテ・サンセマ公爵に成り代わっているエサノヴァがこの場にいるというのなら、これはもう、挑発以外の何者でもない。


 ーーー追い詰めてやるわ。


 エイデスを狙った暗殺者も、おそらくは女性だった。

 顔までは見えなかったけれど、ドレスを身につけていたから。


 さらに、毒と刃物という共通点から、大公を殺した犯人とエイデスを狙った犯人は同じ。


 そして今明かされた犯人像も加えれば、ウェルミィに濡れ衣を着せようとしている。

 侯爵家での、ローレラルとウーヲンに関するヒントもそうだったけれど、エサノヴァは回りくどい。


 その上で、嘲笑うように自分の存在を仄めかすのだ。

 まるで、自分の正体を明かしてみせろとでも言うように。


 視線が交わる。

 エサノヴァが、どこか満足そうに目を細めるのに舌打ちしたい気持ちを押さえつけながら、ウェルミィも笑みを深めた。


「オルミラージュ侯爵夫人。それは……」

「その上で」


 ブラード公爵令息の言葉に、ウェルミィは発言を被せる。


「私は、この事件の犯人……〝無貌の殺人鬼ジェーン・ザ・リッパー〟の正体を、皆様に明かして差し上げましょう」


 ウェルミィは、パチン、と下ろしていた扇を閉じて、その先端を顎先に当てる。



「この私を侮辱したらどうなるか。ーーー犯人が、身の程を知る良い機会でしょう」

 

 

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