ウェルミィの激怒。
ーーー【大公選定の儀】。
大公国の頂点を決める非常に重要な催しであり、各国にそれを知らしめる重要な式典でもある。
招きに応じて大公国を訪れた『ライオネル王国代表使節団』の一人であるウェルミィは、その場に集った面々を見回した。
まずは、代表であるレオと、その伴侶であるイオーラお義姉様。
外務卿エイデスと、ウェルミィ自身。
そして、聖教会と大公国両方の願いで使節団に組み込まれた〝桃色の髪と銀の瞳の乙女〟テレサロと〝光の騎士〟ソフォイル卿。
ライオネルの主要な面々はこの六人である。
他には、レオの補佐としてシゾルダ、外務卿補佐としてユラフ卿。
使節団警護の総指揮を任されたツルギスと、近衛の増員護衛として魔術師部隊を指揮するヒルデントライ。
侍女連では、エイデスの護衛兼任であるオルミラージュ侯爵家侍女長のヌーア。
お義姉様の専属侍女であるオレイアとミザリ。
そしてウェルミィの専属侍女である〝傷顔〟ヘーゼル。
さらに、ホリーロ公爵家のヤハンナ様から頼まれ、執事として帯同させたラウドンと、相変わらず『面白そうだから』という理由で、外務卿補佐のくせに〝影〟としてついて来ているズミアーノ。
また、ライオネル王国使節団としてではなく、大公国との大口の輸出入をしている賓客として『ローンダート商会』代表のローンダート子爵とその娘であるカーラ、さらに休暇を利用して彼女に帯同しているセイファルトなどがいる。
またこの場には居ないけれど〝風〟の公爵と交友があるというライオネル南部辺境伯一家も招かれており……その護衛の中に、アーバインの顔もあった。
正直、ライオネルはノーブレン大公国の隣国ということもあり、結構な大所帯……なのだけれど。
「改めて見ても、いつもとあんまり変わらないわよね。顔ぶれが」
ダリステア様や、最近ズミアーノの側でよく見るニニーナ嬢がいないくらいで、普段一緒にいたりお茶をしたり夜会で集まったりする人々ばかりである。
「こうした場に赴く相手を狙い打ちして交友関係を結んだのは、お前だろう」
「まぁ、そうなんだけど」
あまりにも見事に知った顔ばかりなので、言いたくなっただけだ。
この場に集まっているのは、要は『ライオネル王国の次世代』ばかりなのである。
現在においても主要な役割を担っているのは、エイデスとユラフ卿で、ギリギリ、王太子夫妻であるレオとお義姉様くらいだ。
テレサロ達をライオネルの次世代に加えるかも微妙なところだけれど、少なくとも聖教会の総本山に行く意志は今のところなさそうだし、彼女達に干渉する側である聖教会総本山にも、タイグリム殿下が枢機卿として潜り込んでいる。
実質、ライオネルの次世代と呼んで差し支えないだろう。
「他の国の人たちも揃ってるのよね?」
「ああ。帝国からは王太子殿下と帝国宰相夫妻、そして血縁関係にあるシンズ伯爵家。東の大国は皇帝陛下ご本人。南東の島国アトランテの上王陛下がたも残留なさっている」
「豪胆ね」
高位貴族が故に強い魔力を有し、さらに現在最大限警戒していることや、四公家からの願いがあったとはいえ、誰も帰国しようとは思わなかったようだ。
「ーーー大公が殺されたのにね」
すると、エイデスが薄く笑う。
「逆かもしれんぞ。全員、その犯人が誰なのかに興味があるのかもしれん」
「それも含めて、豪胆だと思ったのよ。私なら恐ろしくて残れないわ」
「おや。では、この場にいるお前は何者だ?」
エイデスが首を傾げるのに、ウェルミィは「あら」と冷たく笑みを返す。
「私は残る理由があるもの。……ヒルデを傷つけた連中を赦さないっていう理由が」
シゾルダ様に気遣われているのに、入り口横で立ったまま動こうとしない彼女は、既に職務に復帰している。
毒と怪我により一度倒れたヒルデントライは、ウェルミィを庇って怪我を負った。
レオ以下、全員が名誉の負傷であることから帰国を促したが、彼女は首を縦に振らなかったのだ。
テレサロとオレイアの治癒により、怪我と毒の影響そのものは完治しているからと。
けれど。
「大公を殺した犯人と、ヒルデを傷つけた犯人は同じと見てるわ。公の場に引きずり出して、償わせなきゃ気が済まないのよ」
「苛烈だな」
「嫌い?」
「いいや、それでこそウェルミィだ」
エイデスが、そこで入口に目を向ける。
会場へ、と告げに来た使用人の言葉で、皆が動き出す。
【大公選定の儀】は、滞りなく行われることになった。
延期して大公不在のままの状況を良しとしなかった四公家の采配である。
ーーー見てなさい。
ウェルミィは激怒していた。
ヒルデを傷付けたこともだが、犯人はエイデスを狙ったのだ。
庇おうとしたウェルミィをさらに庇って、ヒルデは怪我を負った。
儀が始まる前に、その場で犯人を暴き出す。
ーーー私の大切な人たちに手を出したこと、後悔させてやるわ。




