む
無謀だと知りながら、近くのホームセンターで一メートルのロープを買った。白く美しい、頑丈なロープだ。税込百二十六円也。自分がバスルームのドアノブにそれを引っ掛けて首をくくるところを想像していた。そして折角死ぬ気になったのだから、そういう人の心理を細かく分析してみようと思った。けれどもそれは決して潔いものでも、また美しいものでもなかった。そこにあったのはこの世への未練だった。死ぬ事でこの世の中の人々に抗議の念を表したい、それから一寸だけ可哀想だと思ってもらいたい。そういうナルシシズムと自己憐憫で心の中は一杯だった。とは言え
「死ぬ気で生きれば何だって出来るじゃないか!」
なんていう阿呆な甘言に耳を貸す気にもなれなかった。俺はもう死ぬ気で生きた。どうせ死ねないんだろうけど、まあ死ねたら死のうと思った。
ホームセンターの帰りに、お好み焼き屋に入ってニラ焼きを食った。ポン酢とラー油で食うのは如何にも餃子のような感覚だが、個人的には餃子よりもさっぱりしていて好きだ。ビールをついつい二杯飲んだ。酔うと、死ななくても良いかと思い始めてきた。やっぱりなと思った。
家に帰ってからインターネットで、風呂場で首を吊って死んだ人の遺体写真を見た。想像していたより醜かった。首の辺りが真っ赤に腫れて、口から白い舌が飛び出していた。死後数日たっているらしく、体は腐乱し、朽ち果てていた。口の中や鼻の穴から大量の蛆がわいていた。目には白い膜が張って濁っていた。死ぬのはそう簡単ではないと思った。死んでは駄目だと思った。
何故だかビビの事が思い出された。もう何億年経っても、ビビが地上に戻ってくる事はないんだなと思った。ビビのいた頃の暮らしがありありと蘇ってきた。戻ってきて欲しいとも思ったが、それも残酷だなと思い直した。




