み
皆が出世した。加藤君もした。俺はしなかった。後輩に追い越された訳だ。俺は大器晩成だと自分に言い聞かせて笑い飛ばした。しかしそれは乾いた笑いだった。自分を嘲り嗤うかの様な。俺だってこうなる事は前々から想像できていた。そしてそんな事は大した事ではないと思っていた。しかし実際に身に起こってみると想像以上に応えた。俺は自分の気の小ささに落胆した。食っていければ良いじゃないか!正社員でいられるだけ良いじゃないか!こんな慰藉は心中を虚しく空回りしていた。
来年は辰年だ。竜の絵が社内報の表紙に飾られた。横にはこんな文句がでかでかと記されていた。
「竜は一寸にして昇天の気あり」
ああやっぱり大器晩成なんて嘘だったんだね。そう思った。俺は社内報をシュレッダーにかけた。そうしたら間違って経費精算すべきタクシーの領収書も切り刻んでしまった。およそ二千五百円の損害だ。安月給の平社員には痛い。
しかし世の中というのは想像以上に下らないものだ。下らないの一言すら下らないが、それでも何度でも言う。上司や先輩におもねったり、リスクを取らずに面倒な仕事は他に押し付ける様な、矮小で小器用な奴の方が出世するんだなあ。そりゃあ妄信的で主体性のない馬鹿者ほど上にとって使いやすいものはないからな。主体性で飯は食えないわけだ。そう言えば学生時代だって異性に人気のある奴は大概自分の意見をはっきり主張しないくせに弱いものをいじめるのは得意な愚物だった。正義感など欠片も持たない俗物だった。ああ成功者なんて例外無く卑怯者だ。金と女は同根だ…。天下の回りものなんかではありゃしない。
いや、今更負け犬の遠吠えは止めよう。見苦しい。俺は自分が不要である事を素直に認めるべきだ。結局馬鹿は俺だったのだ。どんな理由があるにせよ最終的に上手く生きられなかったのは俺の方なのだから、俺の方が馬鹿なのだ。俺は下らない。
休日コンビニに昼食を買いにいった帰り、自転車をこぎながら何となく、
(死のうかな)と思った。結構本気だった。




