第5話 本物の魔法
《世界仕様書》は《インベントリ》に入った。
「これも収納できるのか」
それ以上の検証は後回し。
まず生きなければならない。
遺跡を出る。
狼の姿はない。
「人里探さないとな」
川沿いを進む。
途中、《世界仕様書》を少し確認した。
《移動》。
《領域》。
どれも基本的な仕様だけ。
「答えは自分で探せってことか」
悪くない。
むしろ、その方が好きだ。
しばらく歩いたところで。
草むらが揺れた。
「……また?」
狼。
しかも三体。
「増えてるじゃん」
走る。
一体が前へ回り込んだ。
「まずい」
逃げ道がない。
狼が姿勢を低くする。
ゲームなら。
初撃を見て。
避け方を覚えて。
死んでも次。
でも――。
「……死んだら終わりなんだよな」
身体が硬くなる。
狼が飛びかかった。
「伏せて!」
女の声。
反射的にしゃがむ。
頭上を赤い光が通った。
「《ファイアボール》!」
炎の球。
狼へ直撃。
爆発。
「…………」
残りの二体が怯む。
少女が俺の前へ出た。
赤みがかった栗色の髪。
細身ながら冒険者らしく引き締まった身体。
軽装の上からでも分かるほど胸元は豊かで、手には杖。
「もう一発!」
炎。
残りの狼も逃げ出した。
少女が振り返る。
「怪我は――」
「…………」
俺は彼女を見ていなかった。
燃えている地面。
「今の……」
「?」
「魔法?」
「そうだけど」
数秒。
「マジで!?」
「え?」
「本物だ!」
「ちょ、何!?」
「手から火出たよね!? あれどうやったの!? 火だけ!? 雷とかある!? 氷は!? 転移とか――」
「ちょっと待ちなさい!」
止められた。
「あなた、魔法見たことないの?」
「ない!」
「……どこの田舎から来たのよ」
危ない。
「まあ……かなり遠いところ」
「どこの国?」
「それは……説明しづらい」
「怪しい」
「自分でもそう思う」
少女は呆れたようにため息をついた。
「私はエリス。エリス・レイフォード」
「時岡凛久。リクでいい」
「リクね」
その後、エリスは言った。
「《ファイアボール》なんて火属性魔法の基本よ」
「基本……」
また興奮する。
「じゃあどうやって出してる?」
「術式を組んで、魔力を流すの」
「術式と魔力投入は別工程?」
「……まあ」
「どっちが先?」
「術式」
「逆にしたら?」
「失敗するわよ」
「やったことある?」
「普通やらないの!」
いい。
魔法までちゃんと仕組みがある。
面白い。
そしてログにも、
《未知現象》
《火属性現象》
記録されている。
「……魔法もログに残るのか」
「ログ?」
「あ、いや」
エリスが目を細める。
「それより」
俺の服。
空の手。
「あなた、本当に何者?」
「それは……」
正直に異世界人だと言う?
いや。
この世界で異世界人がどう扱われるか分からない。
「気づいたらこの森にいた」
「出身は?」
「……かなり遠いところ」
「どのくらい?」
俺は少し考えて答えた。
「たぶん、想像してるよりずっと」
異世界人だということは。
まだ黙っておこう。




