第4話 世界仕様書
遺跡の内部は暗かった。
崩れた柱。
苔むした石壁。
床には亀裂。
ゲームなら宝箱を探して歩き回りたくなる場所だ。
「罠までゲームみたいにあったら笑えないけどな」
一歩ずつ慎重に進む。
触れた壁。
《未登録》
床。
《対象情報を取得できません》
柱。
《定義情報なし》
「全部おかしい……」
森の石や木は普通に認識されていた。
なのに、この遺跡だけ違う。
壁には文字らしきものも刻まれている。
「読めないな」
異世界転移したら言葉も文字も自動翻訳。
そんな便利仕様ではないらしい。
「まあ、そりゃそうか」
進んだ先は崩落していた。
「行き止まり?」
壁の隙間から微かに風が入ってくる。
「向こうに空間あるな」
瓦礫を調べる。
その中に、一つだけ周囲とは材質の違うものが挟まっていた。
「なんだこれ」
引っ張り出す。
古びた本。
「……本?」
表紙に文字はない。
触れた瞬間。
《未登録オブジェクトを検出》
「また未登録」
《識別処理を開始》
数秒。
《識別完了》
《世界仕様書》
「…………世界?」
もう一度見る。
「仕様書?」
エンジニアにとって、あまりにも馴染み深い単語だった。
だからこそ異様だった。
「なんで世界に仕様書があるんだよ」
本を開く。
白紙。
「……何も――」
指がページへ触れた。
瞬間。
文字が浮かんだ。
見たことのない文字。
なのに意味が分かる。
最初のページ。
WORLD SPECIFICATION
ACCESS LEVEL:0
「アクセスレベル……」
さらに項目。
《オブジェクト認識》
《接触判定》
《収納》
《移動》
《落下》
《領域》
「俺のレベルじゃないな」
アクセス。
つまり閲覧権限。
《オブジェクト認識》を開く。
内容は難しくない。
対象が独立しているか。
他の物体と接続されているか。
その状態をもとに個別の物として認識する。
「……」
枝。
草。
石。
泥。
今までの検証結果が頭に浮かぶ。
「だから木についた枝は入らなかった……」
《収納》を見る。
独立した対象を収納領域へ移す。
「合ってる」
偶然じゃない。
俺が検証していた現象が、ここには“仕様”として書かれている。
「攻略法じゃない……」
敵の倒し方もない。
宝の位置もない。
未来も分からない。
ただ、
「世界がどう動くかが書いてある……」
思わず笑った。
「これ、攻略本じゃない」
もっと面白い。
「世界そのものの仕様書だ」
ページをめくる。
《魔法》
ACCESS DENIED
《スキル》
ACCESS DENIED
《生命》
ACCESS DENIED
《死亡》
ACCESS DENIED
《世界外》
ACCESS DENIED
「世界外?」
そして。
《管理者情報》
ACCESS DENIED
指が止まった。
「…………管理者?」
仕様書。
アクセス権限。
管理者。
システムに仕様書があるなら、それを書いた誰かがいる。
だったら。
「この世界……誰かが作ったのか?」
答えはない。
ただ、古びた本だけが手の中に残った。




