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異世界の仕様書を拾った元廃ゲーマー、世界のバグを攻略する  作者: Naoya


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第21話 文明は滅びたのか?

カチッ。


 また一つ、奥の光が灯った。


 俺たちは誰も動いていない。


 触れてもいない。


 それなのに。


《不明領域から応答を検出》


 《ログ》には確かにそう表示されている。


「……応答って何だよ」


 思わず呟く。


「何か見えてるの?」


 エリスが聞く。


「ログに出てる。『不明領域から応答を検出』って」


「応答?」


 今度はエルヴィンが反応した。


「こちらから何か働きかけたのでしょうか」


「それが分からないんです。何もしてない」


 俺は周囲を見る。


 俺たちがしたことといえば。


 ここまで歩いてきた。


 壁を見た。


 古代文字を読んだ。


 それくらい。


「何もしていないのに“応答”するというのは妙ですね」


 エルヴィンの目が少しだけ輝く。


「嬉しそうにしないでください」


 エリスがすぐに釘を刺した。


「そう見えますか?」


「見えます」


「俺もそう思います」


「……気をつけます」


 絶対気をつける気ないだろ。


 俺と同じだ。


 気になるものを目の前にして、調べるなと言われた方が無理なのだ。


 とはいえ。


 今まで以上に慎重になる必要はある。


「奥、行きます?」


 俺が聞く。


「行きます」


 エルヴィンの返事は早かった。


「即答」


「ただし」


 そう言って俺を見る。


「勝手に触らない」


「分かってます」


「単独行動しない」


「分かってますって」


「本当に?」


 エリスまで乗ってくる。


「二人とも俺を何だと思ってるんだ」


「気になるものがあったら触る人」


「……否定しづらい」


 でも今回は本当に触らない。


 たぶん。


 光は一定間隔で奥へ続いている。


 案内されている。


 そんなふうにも見える。


 でも。


「こっちに来いって言われてるみたいですね」


 口にすると、エリスが嫌そうな顔をした。


「そういうこと言わないでよ」


「俺もそう見えますが」


「エルヴィンさんまで!」


 あくまで見えているだけ。


 案内されていると決まったわけではない。


 それでも。


 千年以上止まっていたはずの施設が。


 俺たちの侵入後に。


 奥へ向かって順番に光を灯している。


 偶然だと言うには出来すぎていた。


 俺たちは慎重に奥へ進んだ。


 通路の先には、また似たような部屋があった。


「……また同じだ」


 思わず声が出る。


 さっき見た部屋と似ている。


 同じ高さの台。


 壁一面の黒い石板。


 規則正しく並んだ設備。


 しかも一つじゃない。


 その先にも。


 さらにその先にも。


 似たような部屋が続いている。


「何人くらい働いてたんだろうな」


「働いていた、と考えますか?」


 エルヴィンが聞く。


「たぶん」


「なぜ?」


「生活する場所に見えないからです」


 寝台がない。


 食器もない。


 衣服もない。


 人が暮らしていた痕跡が少なすぎる。


 なのに。


 人が使うために作られた設備らしきものは大量にある。


「ここに住んでたんじゃなくて、通って仕事してたんじゃないかな」


 俺は台の一つを見る。


 前世の職場を思い出す。


 朝来る。


 端末を立ち上げる。


 システムを見る。


 異常があれば調べる。


 修正する。


 夜になれば帰る。


「……嫌なこと思い出した」


「何がです?」


「何でもないです」


 さすがに過労死した職場を思い出していましたとは言えない。


 エルヴィンが壁面の文字を調べる。


「こちらも保存状態がいい」


「読めます?」


「一部なら」


 指先で文字を追う。


「『第七区画』」


 また区画。


「そして……こちらは『監視』」


 前の部屋にもあった。


「こっちは?」


「『記録』ですね」


 俺の中で違和感が強くなる。


 監視。


 記録。


 似た言葉が何度も出てくる。


「本当に管理施設だったんじゃないか……」


「可能性は高くなりましたね」


 エルヴィンは否定しない。


「ですが、何を管理していたかが分かりません」


「そこですよね」


 都市?


 魔力?


 遺跡?


 人?


 それとも。


 もっと別の何か。


 答えはまだ出ない。


 さらに進む。


 途中には壊れた装置がいくつも残っていた。


 でも不思議なのは。


「やっぱり破壊された感じじゃない」


 俺が言うと、エルヴィンが頷く。


「ええ」


 部屋の一部は崩れている。


 けれど。


 剣で斬られた跡はない。


 大規模な火災跡もない。


 爆発で吹き飛んだような破損も少ない。


 壊れたというより。


 古くなって。


 長い時間の中で、自然に崩れたように見える。


「戦争で滅んだ感じじゃないですね」


「私もそう思います」


 前の部屋で聞いた《断絶期》。


 記録が突然減る。


 文明の痕跡だけが残る。


「本当に“止まった”のかな」


 小さく呟く。


 エルヴィンがこちらを見る。


「そう見えますか?」


「なんというか……」


 目の前の台を見る。


 その上には薄い石板が何枚か残されている。


 綺麗に片づけられていない。


 誰かが途中まで使って、そのまま置いていったみたいだ。


「明日も普通に来るつもりだったみたいに見えるんですよ」


 エルヴィンは何も言わなかった。


「もし避難するなら、もっと持っていくものとかあると思うんです」


「そうですね」


「戦争が来るなら、何か準備する」


「そのはずです」


「なのに」


 俺は周囲を見る。


「ここ、何もしてない」


 それが怖かった。


 生活が途切れた。


 仕事が途切れた。


 記録が途切れた。


 全部同時に。


 まるで。


「電源切ったみたいだ」


「でんげん?」


「……動いてたものが、一気に止まったってこと」


 エリスが少しだけ眉を寄せる。


「何か嫌ね」


「うん」


 何が起きたか分からないから余計に。


 その時。


「リクさん」


 エルヴィンの声が変わった。


「こちらを」


 壁際。


 今までとは少し違う装置。


 中央に薄い石板。


 周囲に細い線。


 俺が近づく。


 何も触れていないのに。


 淡い光が灯った。


《外部対象を検出》


「……外部?」


 思わず声が漏れる。


「何か出ましたか?」


「『外部対象を検出』」


 エルヴィンが装置へ視線を向ける。


 次。


《照合処理開始》


 少し間。


《識別不能》


「識別できない?」


 俺が何者なのか判断できない。


 そういうことか?


「リク、離れた方がいいんじゃない?」


「ちょっと待って」


「その“ちょっと待って”が怖いのよ」


 でも。


 気になる。


 何を照合した?


 どうして俺に反応した?


「エリスも近づいてみて」


「え?」


「俺だけに反応するのか確認したい」


「そういうことなら……」


 エリスが警戒しながら前へ。


 装置の前に立つ。


 何も起きない。


「……反応なし」


 次にエルヴィン。


 同じ。


 反応しない。


「俺だけ?」


 もう一度近づく。


 淡い光。


《外部対象を検出》


「……やっぱり」


 胸の奥がざわつく。


 外部。


 俺はこの世界の人間じゃない。


 偶然かもしれない。


 でも。


 気になるには十分すぎる。


「こちらに文字があります」


 エルヴィンが装置の側面を見ていた。


「読めるんですか?」


「かなり欠けていますが」


 指でなぞる。


「これは……『接続』」


「接続?」


「おそらく」


 続けて別の部分。


「こちらは……『権限』でしょうか」


 俺の思考が止まった。


 権限。


 頭に浮かぶ。


 《世界仕様書》。


 ACCESS LEVEL:0。


 読める項目。


 読めない項目。


 ACCESS DENIED。


「……権限」


 エリスが俺を見る。


「何か思い当たる?」


「少し」


 本当に少しどころではない。


 でもまだ。


 確信がない。


 装置の正面。


 光が広がる。


 その中央に。


 幾何学模様が浮かび上がった。


「……え?」


 息が止まる。


 見覚えがある。


 完全に同じじゃない。


 細部は違う。


 でも。


 線の組み方。


 円。


 その中を走る細い模様。


 どこかで見た。


「リク?」


 俺は鞄へ手を入れた。


 取り出す。


 《世界仕様書》。


「その本……」


 エルヴィンが初めて、はっきり興味を示した。


「前の遺跡で拾ったものです」


 表紙を装置の紋様と並べる。


「……似てる」


 エリスも気づく。


 エルヴィンが近づいた。


 表紙。


 装置。


 何度も見比べる。


「同じ意匠体系に見えます」


「やっぱり?」


「完全一致ではありません。ただ、偶然とは考えにくい」


 俺の心臓が少し速くなる。


 この本は。


 この遺跡と関係がある。


 少なくとも。


 無関係ではない。


「リクさん」


 エルヴィンが本を見る。


「それを、少し見せていただいても?」


 俺は一瞬迷った。


 でも。


 ここまで来た。


 エルヴィンを信用できないとは思っていない。


「どうぞ」


 《世界仕様書》を渡す。


 エルヴィンが受け取る。


 表紙を見る。


 開く。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 そして。


「……白紙ですね」


「やっぱり」


「やっぱり?」


 エリスが横から言う。


「私にも何も見えないの」


 エルヴィンが顔を上げる。


「では」


 視線が俺へ向く。


「リクさんには、何が見えているのですか?」


 来た。


 いつかは説明しなければならないと思っていた。


 でも。


 どこまで話す?


 異世界人であること。


 転生。


 《ログ》。


 管理者。


 世界外。


 全部はまだ早い。


「この本には」


 俺は慎重に言葉を選ぶ。


「世界の基本的な決まりみたいなものが書いてあります」


「決まり?」


「物をどう認識するか。移動。落下。領域。そういうものです」


「……世界そのものの規則?」


「俺はそう思ってます」


 エルヴィンの表情が変わる。


 さすがに驚いている。


「本の名前は?」


「《世界仕様書》」


「世界……仕様書」


「そう表示されてます」


 さらに。


「でも全部読めるわけじゃない」


「と言いますと?」


「閲覧できる範囲が決まってるんです」


 俺はページを開く。


 もちろん二人には見えない。


「今の俺は、ACCESS LEVEL 0」


「アクセス……」


「権限みたいなものです」


 その言葉を口にした瞬間。


 三人とも。


 同時に装置を見る。


 さっきエルヴィンが読んだ古代文字。


 《権限》


「…………」


「…………」


「…………」


 誰もすぐには喋らなかった。


 俺は《世界仕様書》を見る。


 次に装置。


 古代文明。


 接続。


 権限。


 同じ意匠。


 ここまで重なれば。


 さすがに偶然では片づけられない。


 その時。


 装置がもう一度光った。


《照合処理再開》


「……まただ」


《権限情報を検出》


 俺は息を止める。


 次の表示。


《ACCESS LEVEL:0》


「…………!」


「どうしたの?」


 エリスが聞く。


 俺は装置を見る。


 手元の《世界仕様書》を見る。


 もう一度。


 装置。


 同じだ。


 表記まで。


「……同じだ」


「何がです?」


 エルヴィンが聞く。


 俺は答える。


「この遺跡と、この本」


 手にした《世界仕様書》を強く握る。


「同じ仕組みを使ってる」


 今まで。


 《世界仕様書》はただ、古代遺跡で拾った謎の本だった。


 でも。


 違う。


 この本は。


 古代文明と何かで繋がっている。


 そして。


 もしかしたら。


 古代文明そのものも。


 俺が思っていたよりずっと深く。


 この世界の“仕組み”に触れていたのかもしれない。


**第21話 了**

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