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異世界の仕様書を拾った元廃ゲーマー、世界のバグを攻略する  作者: Naoya


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14/21

第14話 冒険者になろう

 翌朝。


 俺は昨日に続いて、冒険者ギルドの前に立っていた。


「……本当に俺が冒険者になるのか」


「昨日決めたでしょ」


 隣でエリスが呆れた顔をする。


「いや、決めたけどさ」


 建物を見上げる。


 冒険者ギルド。


 名前だけなら、ゲームでも漫画でも何度見たか分からない。


 依頼を受ける。


 魔物を倒す。


 遺跡を探索する。


 金を稼いで装備を整える。


 そういうものだ。


 ただし今回は、画面の向こう側ではない。


 死んでもロードはできない。


「急に嫌になった?」


「いや」


 俺は首を振る。


「むしろちょっと楽しみ」


「でしょうね」


「なんで分かった?」


「顔」


 即答された。


 そんなに分かりやすいだろうか。


 受付で事情を説明すると、登録自体は思ったより簡単だった。


 名前。


 年齢。


 出身地。


 使用できる武器。


 扱える魔法。


 特殊技能。


 困ったのは、やはり出身地だった。


「ご出身は?」


 受付嬢に聞かれ、俺は一瞬だけ止まる。


「……かなり遠いところです」


「国名は分かりますか?」


「それが、ちょっと事情があって」


 嘘はついていない。


 本当に遠い。


 たぶん、この世界の地図をどれだけ探しても載っていない程度には。


 受付嬢がエリスを見る。


「森で保護した時から、こんな感じよ」


「保護って言い方やめない?」


「事実でしょう」


 受付嬢は少し考えたあと、書類の一部へ何かを書き込んだ。


「では、出身地不詳として登録します。犯罪歴などの照会ができませんので、一定期間は都市間移動の際に確認を受ける可能性がありますが」


「登録できるんですね」


「冒険者には色々な事情の方がいますから」


 便利な組織だ。


 詮索されすぎないのは助かる。


「次に、適性確認を行います」


「適性?」


「簡単なものです。魔力量と、申告された技能の確認ですね」


 ゲームのように、


 筋力十二。


 敏捷十五。


 知力十八。


 みたいな数字を全部測られるのかと思ったが、そうではないらしい。


 奥の小部屋へ移動すると、机の上に透明な石が置かれていた。


「こちらへ手を」


 言われた通り触れる。


 石の中に淡い光が広がった。


 受付嬢が確認する。


「魔力量は……平均的ですね」


「平均」


 俺は思わず聞き返した。


「はい。魔術師として特別多いというほどではありません」


「……なるほど」


 少しくらい、


 異世界転生特典!


 魔力測ったら測定不能!


 みたいな展開を期待していなかったと言えば嘘になる。


 エリスが横から俺の顔を覗き込む。


「なんか残念そう」


「別に」


「残念そう」


「ちょっとだけ」


「素直ね」


 まあいい。


 最初から俺の武器は魔力量じゃない。


 むしろ普通である方が、この世界の仕組みを利用して戦う意味がある。


「特殊技能はありますか?」


「一応、収納系が」


「収納?」


 俺は足元に置かれていた小石を一つ拾う。


 意識する。


 次の瞬間、手の中から石が消えた。


 受付嬢が目を丸くする。


「収納技能……」


 もう一度取り出す。


 手のひらに石が戻った。


「珍しいですか?」


「珍しくはありますが、確認例はあります。商人や運搬系の冒険者が持つことがありますね」


「あるんだ」


 そこは少し安心した。


 《インベントリ》そのものの詳細まで話す必要はない。


 この世界にも「物を収納する能力」が存在するなら、隠れ蓑として使える。


「容量は?」


「……まだちゃんと分かってないです」


「分かってない?」


 エリスが横から口を挟む。


「拾った石とか枝とか水とか入れて検証してる途中なの」


「説明の仕方!」


「合ってるでしょう?」


「合ってるけど!」


 受付嬢が笑いを堪えている。


 やめてほしい。


「戦闘に使える技能は?」


「ありません」


「魔法は?」


「使えません」


「武器経験は?」


「ありません」


 受付嬢の筆が止まる。


 視線が上がる。


「……ありません?」


「はい」


 隣からエリスの冷たい視線。


「だから言ったでしょう」


「仕方ないだろ。今まで使う必要なかったんだから」


 前世の日本で片手剣を日常的に使っていたら、その方が問題だ。


「では最低位のF級からとなります」


「F級」


「採取や運搬、街周辺の簡単な依頼が中心です。討伐依頼は原則として上位冒険者の同行が必要になります」


「一番下?」


「一番下です」


「いいじゃない。妥当よ」


「分かってるって」


 受付嬢から渡されたカードを見る。


 名前。


 年齢。


 冒険者ランク。


 そして職業欄。


 そこに書かれていた文字を見て、俺は止まった。


「……無職?」


「職業登録がありませんので」


「冒険者なのに?」


「冒険者は所属区分です」


 なんか世知辛い。


 異世界に来ても無職判定されるとは思わなかった。


「そんな落ち込む?」


「地味に刺さるんだよ」


 俺はカードをしまった。


 何はともあれ。


 これで俺にも身分証ができた。


「じゃあ次」


 ギルドを出たところで、エリスが言った。


「次?」


「武器」


「今日?」


「今日」


「登録したばっかりだけど」


「だからよ」


 半ば引きずられるようにして、武具店へ向かった。


 店内には剣、槍、斧、盾。


 眺めているだけなら楽しい。


 問題は、俺に何が扱えるかだ。


 店主とエリスが相談した結果、選ばれたのは――。


「普通だな」


 安い片手剣。


 そして小型の盾。


「初心者が奇抜な武器持ってどうするのよ」


「それもそうか」


 剣を抜く。


 鉄製。


 装飾もほとんどない。


 特別な魔力も感じない。


 たぶん本当に、どこにでもある初心者向けの剣だ。


「盾も持ちなさい」


「剣だけじゃダメ?」


「ダメ。あなた避けるの下手そうだから」


「まだ見てないだろ」


「森で魔物から逃げてるところは見た」


「……買います」


 反論できなかった。


 問題は金だった。


「……足りない」


「でしょうね」


 エリスが代金を払う。


「借りだからね」


「必ず返します」


「変な遺跡に勝手に入らないのも条件」


「金の話と関係なくない?」


「ある」


 そこは譲らないらしい。


 街の外れにある練習場で、最低限の扱い方を教わることになった。


「まず剣」


 エリスが木剣を持つ。


「振り回さない」


「剣なのに?」


「初心者ほど大振りするの。隙だらけになるから」


 俺も剣を構える。


 思ったより重い。


 ゲームならボタン一つで何百回でも振れるが、現実では一回振るだけで肩と手首へ負担が来る。


「足を止めない。盾も下げない」


「情報量多くない?」


「死にたくないなら覚えて」


 厳しい。


 でも正しい。


 基本の構え。


 小さく踏み込む。


 低い位置から突く。


 盾で受ける時は腕だけで止めず、身体全体で衝撃を逃がす。


 一時間もしないうちに汗だくになった。


「ゲームのチュートリアルって親切だったんだな……」


「何?」


「こっちの話」


 何度目だ、この会話。


 俺は剣を見下ろす。


 ふと気になった。


「なあ、エリス」


「何?」


「剣って、どの瞬間から“攻撃”になるんだ?」


「……何その質問」


「例えば構えてるだけなら攻撃じゃないだろ?」


「まあね」


「じゃあ振り始めた瞬間? 相手に当たる直前? 剣に魔力を込めた時?」


「普通そんなこと考えないわよ」


「気になる」


 試しに《ログ》へ意識を向ける。


 剣を構える。


 軽く振る。


 表示。


 《攻撃動作を検出》


 続けて何か出る。


 しかし。


 《詳細情報:ACCESS DENIED》


「……まだ読めないか」


「また何か見てるの?」


「いや。今はまだいい」


 攻撃。


 判定。


 動作。


 そこにも、この世界なりの規則がある。


 でも今の俺には読めない。


 それだけ覚えておく。


 訓練を終え、ギルドへ戻る。


「今日はもう帰るわよ」


「ちょっとだけ依頼見ていい?」


「見るだけね」


 壁一面の依頼書。


 薬草採取。


 荷物運搬。


 倉庫整理。


 街道警備。


 F級でも受けられる仕事は意外と多い。


「まずはこの辺からだな……」


 そう思いながら眺めていると。


 一枚の紙が目に入った。


 他の依頼より少し古びた紙。


 タイトル。


 **《古代遺跡調査補助》**


 俺の足が止まる。


「…………」


「ダメ」


「まだ何も言ってない」


「顔が言ってる」


「見るだけ」


「その“見るだけ”で遺跡に入った人を知ってるんだけど」


 俺は依頼書へ顔を近づける。


 古代遺跡。


 調査補助。


 護衛。


 発見物の運搬。


 そして依頼人の欄。


 **エルヴィン・アルセリア。**


「……誰だ?」


 呟くと、隣でエリスの表情が少し変わった。


「その人……」


「知ってる?」


「知り合いじゃないけど、有名よ」


 エリスが依頼書を見る。


「B級冒険者。確か――」


 少し間を置いて。


「考古学者だったはず」


 俺はもう一度、依頼書を見る。


 古代遺跡。


 考古学者。


 そして、つい昨日見つけた《世界仕様書》。


 どう考えても。


 気にならないはずがなかった。


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