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異世界の仕様書を拾った元廃ゲーマー、世界のバグを攻略する  作者: Naoya


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11/21

第11話 仕様の穴

「リク! 何か分かったの!?」


「まだ分からない!」


「じゃあその顔何なのよ!」


「試せそうなことがある!」


「やっぱり嫌な予感しかしない!」


 ガルディオンの攻撃を避けながら距離を取る。


 俺はさっきのログを頭の中で整理した。


 通常移動では《落下危険判定》が入った。


 でも《突撃粉砕》では表示されていない。


「エリス、さっき普通に崖へ誘導した時、あいつ歩いてたよな」


「ええ!」


「でも突進は違う」


「何が?」


「ログだと《強制移動》って扱いになってる」


「だからそれが何なのよ!」


 エリスには《ログ》が見えない。


 できるだけ簡単に説明する。


「普通に歩くのと、技の勢いで身体を動かすのとで、世界側の扱いが違うみたいなんだ」


「……世界側?」


「言い方は後で説明する!」


 《世界仕様書》を開く。


 《移動》。


 《落下》。


 ページをめくる。


 そこには基本的な仕様しかない。


 だが、欲しかった記述はあった。


 通常移動時に適用される移動補正の一部は、強制移動中には適用されない。


「……あった」


「何が!?」


「普通に歩いてる時に働く落下防止が、あの突進中なら働かないかもしれない」


 エリスもそこでようやく意味を理解した。


 ガルディオンを見る。


 崖を見る。


「……あの突進を、崖へ向けて使わせる?」


「そう」


「それ、本当に止まらないの?」


「分からない」


「分からないの!?」


「だから調べる」


 いきなり命を賭ける気はない。


 まず条件。


 いつ《突撃粉砕》を使う?


 どれくらいの距離を走る?


 途中で方向を変える?


 俺たちは広間を使って何度か距離を調整した。


「もう少し離れて!」


「これくらい!?」


 ガルディオンが構える。


《対象距離:条件達成》


《突撃粉砕》


「距離が条件か……!」


 次。


 発動直後、エリスが横へ走る。


 ガルディオンはほとんど方向を変えず直進。


「曲がらない!」


「じゃあ使える!?」


「たぶん!」


「また“たぶん”!」


 しかし、一つ問題がある。


 崖へ向かわせるには、誰かがその正面に立つ必要がある。


 当然、失敗すれば。


「私がやる」


 エリスが即答した。


「いや、俺がやる」


「は?」


「発動した瞬間をログで確認できるのは俺だから」


「でも私は冒険者よ! 避けるなら私の方が――」


「分かってる」


 戦闘経験なら圧倒的にエリスだ。


「だから、避けるタイミングはエリスに見てもらう」


「……」


「一人でやるって言ってるわけじゃない」


 エリスが唇を噛む。


「失敗したら死ぬわよ」


「分かってる」


「本当に?」


「分かってるから怖いんだよ」


 手を見る。


 震えている。


 ゲームじゃない。


 失敗してもリトライはない。


 でも。


「普通に戦い続けるよりは勝ち目がある」


 エリスはしばらく黙ったあと、


「……無茶だと思ったら絶対避けなさい」


「了解」


「絶対よ!」


「分かってるって」


 作戦開始。


「《ファイアボール》!」


 炎がガルディオンへ炸裂。


 向きが変わる。


「今!」


 俺は崖際へ走った。


 足元の先。


 奈落。


「…………」


 実際に立つと、とんでもなく怖い。


「ゲーム画面とは全然違うな……」


「当たり前でしょう!」


 エリスの魔法でガルディオンの向きを微調整。


「もう少し右!」


「こっち!?」


「そう!」


 敵。


 俺。


 崖。


 一直線にする。


 距離が開いた。


 ガルディオンが停止。


 身体を低くする。


《対象距離:条件達成》


《突撃粉砕》


《強制移動開始》


「来た……!」


 地面が砕ける。


 巨大な身体が加速。


「リク!」


 まだ。


 発動後はほとんど方向を変えない。


 でも早く避けすぎれば、何が起こるか分からない。


 十メートル。


 八。


 六。


「もう避けて!」


 まだ。


 五。


 四。


 全身が逃げろと叫んでいる。


 画面越しなら何度も見てきた。


 敵を引きつけて。


 ギリギリで避ける。


 でも。


 自分がその場所に立つ日が来るとは思わなかった。


「リク!!」


 三メートル。


「――今!」


 地面を蹴る。


 横へ飛ぶ。


 直後。


 ガルディオンの巨体が、ほんのすぐ横を通過した。


 風圧に身体を持っていかれ、俺は地面を転がる。


 それでも顔を上げた。


「行け……!」

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