第10話 予想外な撃退法
「……見たことあるぞ、この地形と敵……」
口にした瞬間、自分でも何を言っているのか分からなかった。
「何が!?」
当然、エリスにも分からない。
「いや、ちょっと待って。思い出しかけてる」
「今!?」
ガルディオンの大槌が横薙ぎに振るわれる。
「うわっ!」
俺は頭を下げ、間一髪でかわした。
頭上を通過しただけなのに、風圧で身体が持っていかれそうになる。
「考え事するなら安全なところでしなさい!」
「安全なところがないんだよ!」
言い返しながら走る。
巨大な石の騎士。
広間。
この感じ。
どこだった?
ゲーム。
昔やったゲームだ。
『セルダの伝承』じゃない。
『デモンズハート』?
いや――。
「……『ダスクソウルⅡ』」
頭の中で何かが繋がった。
正攻法で戦うと厄介なのに、地形を利用すると妙な倒し方ができた敵。
俺は周囲へ視線を走らせる。
そして、広間外周の崩落部分へ目を止めた。
「エリス!」
「今度は何!?」
「あの穴、どのくらい深い?」
「知らないわよ!」
「落ちたら?」
「は?」
「落ちたら死ぬ?」
エリスが一瞬、言葉を失った。
「……死ぬでしょうね。少なくとも私なら絶対落ちたくないわよ」
「だよな」
俺はガルディオンを見る。
あれだけ硬い。
魔法もまともに通らない。
なら――。
「エリス」
「何?」
「あいつ、落とそう」
「…………」
エリスが瞬きをする。
「何て?」
「崖から落とす」
「発想が雑!!」
怒鳴られた。
「だって攻撃効かないじゃん!」
「だからってボスみたいな魔物を崖から落とそうとは普通考えないでしょう!?」
「でも落ちれば倒せるかもしれない」
「“かもしれない”で命かけるの!?」
「他に良い案ある?」
「…………」
エリスが黙った。
「でしょ?」
「その勝ち誇った顔やめなさい!」
とはいえ、試す価値はある。
まずエリスが《ファイアボール》を撃ち、ガルディオンの注意を引いた。
「こっちよ!」
石の巨人が方向を変える。
エリスは少しずつ外周へ移動。
崖まで十メートル。
五メートル。
「そのまま!」
「分かってる!」
あと少し。
ガルディオンがエリスへ迫る。
「今!」
エリスが横へ飛んだ。
このまま勢い余って――。
ピタッ。
「……え?」
ガルディオンは、崖のほんの手前で止まった。
まるで見えない壁でもあるかのように。
そして何事もなかったようにエリスへ向き直る。
「止まった……?」
視界にログが流れる。
《落下危険判定》
《危険領域への進入を検出》
《移動補正》
《移動停止》
「なるほど……」
「何がなるほどなのよ!」
「こいつ、自分で止まったんじゃない」
「?」
「落ちないように止められたんだ」
《世界仕様書》を開く。
敵は待ってくれない。
攻撃を避けながら、《移動》《落下》を確認する。
通常移動時。
危険領域へ進入しようとした場合、移動補正が働く。
「ちゃんと落下防止処理がある……」
「じゃあ失敗ね!」
「そうみたいだな」
「諦めるの早っ!」
「無理な方法に固執する方が危ないだろ」
別の方法を考える。
そう思って距離を取った時だった。
ガルディオンの動きが止まる。
「……?」
身体を低く構えた。
大槌を抱えるようにして、こちらへ正面を向く。
エリスの顔色が変わる。
「リク、避けて!」
《スキル発動》
《突撃粉砕》
次の瞬間。
ドンッ!
石床が砕けた。
「速っ!?」
ガルディオンが一直線に突っ込んでくる。
俺とエリスは左右へ飛んだ。
ガルディオンは俺たちが避けてもすぐには止まれず、そのまま数メートル先まで走り抜けた。
「…………」
今の。
さっきと違う。
崖際では一歩手前で止まった。
なのに今は、途中で方向転換すらしていない。
ログを見る。
《突撃粉砕》
《強制移動開始》
通常移動。
《落下危険判定》
《移動補正停止》
突進。
《強制移動開始》
「……」
二つのログを交互に見る。
ガルディオン。
そして崖。
もう一度、ログ。
心臓が大きく跳ねた。
「……もしかして」




