⑤
彼が手前から奥に向かって指を差す。
「ここに貝殻で出来た曲線がありますよね」
海岸に合わせて貝殻が並んでいる。
「波に運ばれた貝殻です。その中にシーグラスは混ざっています」
彼は貝殻の並ぶところでしゃがんだ。その隣にしゃがみ込む。彼の手が砂に向かう。
「この中で透明なものを見つけるんです。あ、これは貝殻だった」
彼が砂の色に似た貝を拾った。
「これ、ですか?」
白っぽい透明で小さな欠片を拾い上げる。
「お、そうです、そうです。それがシーグラス」
彼は顔の前に拳を作った。
シーグラスは淡い光を放っている。
「もとはと言えば、誰かが捨てた瓶のかけらとかですけどね」
彼はシーグラスを見つめていた。
「まあ、なんですかね。加工されたガラスもいいんですけど、傷だらけになったものも味があるというか」
シーグラスは夕焼けの光をうけて、淡い黄色にも見えた。握りしめたシーグラスを差し出すと、彼が手のひらを向けた。
「あ、それは持ってていいですよ」
伸ばした手を止めた。
「せっかくですし、初めて見つけたシーグラスは記念にしてください」
「うわぁ、いいんですか?」
彼は目じりを下げ、顎を小さく引いた。
「ありがとうございます」
ポケットティッシュを一枚取り出し、シーグラスを真ん中に置いて折りたたんだ。
「こんなのも面白いですよ」
彼が、短い木の枝を二本拾い上げた。
「見方によっては鹿の角に見えたり、稲光にも見えたり。これ、何に見えます?」
細い枝にはいくつかの節があり、枝分かれしていた。
「怪物の、長い指、とか?」
「いいですね。じゃあ、この指の続きをこんな風に」
彼はその枝を砂に置くと手を滑らかに動かした。
「そんで、最後の仕上げに」
描かれた怪物の手に、赤みがかった石が置かれた。
「怪物、蚊に刺される」
「本当だ。面白いですね」
怪物の手は風によって流され、石だけが残った。
「じゃじゃん。アートに正解はないけど、自分なりの正解を見つけよう」
彼は人差し指を一本出す。
「ここ大事。テストに出ます」
彼の笑い声が風に乗った。彼が投げた枝の着地点に光るものを見つけた。
「あ、これは?」
「あ、それは陶器ですね。茶碗か何かです。ほら、そこに文字の一部があるでしょう?」
「本当ですね。残念、シーグラスじゃないのか」
「いやいや、それも入れましょう。授業のテーマはそうですね、『地球からの贈り物』。名案だ」
「うわぁ、ありがとうございます」
彼に渡した陶器のかけらが、ポリ袋のシーグラスと混ざる。袋の音と波の音が重なった。
「僕もこんなのを見つけました」
彼は少し離れたところから掲げた。
「きれいな巻貝。これも入れちゃいます」
「地球からの贈り物ですね」
彼は大きく頷き、ポリ袋を開いて巻貝をしまっていた。
相変わらず波は大きい音を繰り返し、周囲の音を消していた。
突然、彼は笑い出し、肩を揺らした。
「あ、ごめんなさい。この光景、何かの怪しいサークルみたいだなって」
彼のTシャツのクラゲも揺れている。
「本当ですね。『クラゲ愛好会』は、いかがでしょう?」
「お、それいいですね」
彼は足元を見ていた。
「クラゲ愛好会」
繰り返した言葉は砂に当たって消えた。




