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 彼が手前から奥に向かって指を差す。

「ここに貝殻で出来た曲線がありますよね」

 海岸に合わせて貝殻が並んでいる。

「波に運ばれた貝殻です。その中にシーグラスは混ざっています」

 彼は貝殻の並ぶところでしゃがんだ。その隣にしゃがみ込む。彼の手が砂に向かう。

「この中で透明なものを見つけるんです。あ、これは貝殻だった」

 彼が砂の色に似た貝を拾った。

「これ、ですか?」

 白っぽい透明で小さな欠片を拾い上げる。

「お、そうです、そうです。それがシーグラス」

 彼は顔の前に拳を作った。

 シーグラスは淡い光を放っている。

「もとはと言えば、誰かが捨てた瓶のかけらとかですけどね」

 彼はシーグラスを見つめていた。

「まあ、なんですかね。加工されたガラスもいいんですけど、傷だらけになったものも味があるというか」

 シーグラスは夕焼けの光をうけて、淡い黄色にも見えた。握りしめたシーグラスを差し出すと、彼が手のひらを向けた。

「あ、それは持ってていいですよ」

 伸ばした手を止めた。

「せっかくですし、初めて見つけたシーグラスは記念にしてください」

「うわぁ、いいんですか?」

 彼は目じりを下げ、顎を小さく引いた。

「ありがとうございます」

 ポケットティッシュを一枚取り出し、シーグラスを真ん中に置いて折りたたんだ。 

「こんなのも面白いですよ」

 彼が、短い木の枝を二本拾い上げた。

「見方によっては鹿の角に見えたり、稲光にも見えたり。これ、何に見えます?」

 細い枝にはいくつかの節があり、枝分かれしていた。

「怪物の、長い指、とか?」

「いいですね。じゃあ、この指の続きをこんな風に」

 彼はその枝を砂に置くと手を滑らかに動かした。

「そんで、最後の仕上げに」

 描かれた怪物の手に、赤みがかった石が置かれた。

「怪物、蚊に刺される」

「本当だ。面白いですね」

 怪物の手は風によって流され、石だけが残った。

「じゃじゃん。アートに正解はないけど、自分なりの正解を見つけよう」

 彼は人差し指を一本出す。

「ここ大事。テストに出ます」

 彼の笑い声が風に乗った。彼が投げた枝の着地点に光るものを見つけた。

「あ、これは?」

「あ、それは陶器ですね。茶碗か何かです。ほら、そこに文字の一部があるでしょう?」

「本当ですね。残念、シーグラスじゃないのか」

「いやいや、それも入れましょう。授業のテーマはそうですね、『地球からの贈り物』。名案だ」

「うわぁ、ありがとうございます」

 彼に渡した陶器のかけらが、ポリ袋のシーグラスと混ざる。袋の音と波の音が重なった。

「僕もこんなのを見つけました」

 彼は少し離れたところから掲げた。

「きれいな巻貝。これも入れちゃいます」

「地球からの贈り物ですね」

 彼は大きく頷き、ポリ袋を開いて巻貝をしまっていた。

 相変わらず波は大きい音を繰り返し、周囲の音を消していた。

 突然、彼は笑い出し、肩を揺らした。

「あ、ごめんなさい。この光景、何かの怪しいサークルみたいだなって」

 彼のTシャツのクラゲも揺れている。

「本当ですね。『クラゲ愛好会』は、いかがでしょう?」

「お、それいいですね」

 彼は足元を見ていた。

「クラゲ愛好会」

 繰り返した言葉は砂に当たって消えた。

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