⑤
詩織の髪が風でわずかになびく。詩織の細めた視線の先には道の先に続く海があった。
「この前の砂浜に寄りますか? ここからなら、すぐですけど」
詩織は頷いた。
材木座海岸に近づくに連れ、磯の香りが強くなった。波の音に混ざり数人の若者が遠くではしゃぐ声が届いた。
「私は」
詩織の服が海風に揺られていた。
「私は、ずっと商品として見られてきました。モデルは私の外側で、中身なんて空っぽなんです」
足を載せると砂は沈み込んだ。
「だからせっかくモデルであることを褒めていただいたのに、ごめんなさい」
波の音は、遠くなったり近くなったりを繰り返している。
「僕が短絡的すぎました」
「いえ、照彦さんは悪くないんです」
風が磯の香りを運ぶ。波の音が近くに聞こえた。
詩織はオレンジ色の水平線に目を向けていたまま、息を深くすった。
「お腹空きましたね」
詩織の声には笑みが含まれ、振り向いた顔を追いかけて髪の毛が回った。
強く頷いた。
「そうだ、僕の行きつけの居酒屋、さっき降りたバス停の目の前ですが、どうでしょう」
「居酒屋? 行ってみたいです」
詩織の横顔は明るく照らされていた。
家々の窓に電気が灯り始め、光の道を作っていた。
「そういえば、これから向かうのは居酒屋ですが、お酒飲めます? ジュースも置いてありますけど」
「あー、今度こそ子ども扱いですね。私、お酒も好きですよ」
詩織は両腕を腰に当て胸を張った。ブラウスのボタンがわずかに引っ張られた。
赤い車がゆっくりと通り過ぎる。
「実際、おいくつですか? あ、年齢を聞くのは失礼ですかね」
詩織の眉が僅かに上がった。
「いえ、大丈夫です。二十五歳です」
「あ、そうなんですね。お若い」
「照彦さんは?」
「僕は三十五歳です。大丈夫ですか? こんなおじさんと一緒で」
詩織は口を横に結び、少し上を見た。
「照彦さんは、こんな若い女の隣は嫌ですか?」
細かく何度も首を横に振る。
「いやいやいや、とんでもない。全く」
詩織は目を細めて口角を上げる。
「私も、同じです」
街灯が詩織を照らしていた。




