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 詩織の髪が風でわずかになびく。詩織の細めた視線の先には道の先に続く海があった。

「この前の砂浜に寄りますか? ここからなら、すぐですけど」

 詩織は頷いた。

 材木座海岸に近づくに連れ、磯の香りが強くなった。波の音に混ざり数人の若者が遠くではしゃぐ声が届いた。

「私は」

 詩織の服が海風に揺られていた。

「私は、ずっと商品として見られてきました。モデルは私の外側で、中身なんて空っぽなんです」

 足を載せると砂は沈み込んだ。

「だからせっかくモデルであることを褒めていただいたのに、ごめんなさい」

 波の音は、遠くなったり近くなったりを繰り返している。

「僕が短絡的すぎました」

「いえ、照彦さんは悪くないんです」

 風が磯の香りを運ぶ。波の音が近くに聞こえた。

 詩織はオレンジ色の水平線に目を向けていたまま、息を深くすった。

「お腹空きましたね」

 詩織の声には笑みが含まれ、振り向いた顔を追いかけて髪の毛が回った。

 強く頷いた。

「そうだ、僕の行きつけの居酒屋、さっき降りたバス停の目の前ですが、どうでしょう」

「居酒屋? 行ってみたいです」

 詩織の横顔は明るく照らされていた。


 家々の窓に電気が灯り始め、光の道を作っていた。

「そういえば、これから向かうのは居酒屋ですが、お酒飲めます? ジュースも置いてありますけど」

「あー、今度こそ子ども扱いですね。私、お酒も好きですよ」

 詩織は両腕を腰に当て胸を張った。ブラウスのボタンがわずかに引っ張られた。

 赤い車がゆっくりと通り過ぎる。

「実際、おいくつですか? あ、年齢を聞くのは失礼ですかね」

 詩織の眉が僅かに上がった。

「いえ、大丈夫です。二十五歳です」

「あ、そうなんですね。お若い」

「照彦さんは?」

「僕は三十五歳です。大丈夫ですか? こんなおじさんと一緒で」

 詩織は口を横に結び、少し上を見た。

「照彦さんは、こんな若い女の隣は嫌ですか?」

 細かく何度も首を横に振る。

「いやいやいや、とんでもない。全く」

 詩織は目を細めて口角を上げる。

「私も、同じです」

 街灯が詩織を照らしていた。

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