↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生した看護師の規格外な冒険物語 ※なお、スキルに頼れたのは最初だけ(悲)〜冒険編〜  作者: VANRI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/87

最終対決

「……あ、あぁ……。お前、は……だれ、だ……。邪魔を、するな……っ」


 メアリーのことすら分からなくなってしまったアーシュが、真っ黒に染まった瞳の奥で、かすかに【本来の深い緑の光】を明滅させながら、冷酷に黒い剣を振り下ろした。


 ドォォォオオオオン!!!!


 一撃。


 ただアーシュが剣を振るっただけで、大気を引き裂くような凄まじい闇の魔力の波動が、爆撃のように私たちへと一斉に飛来する。


「防げッ!! まともに喰らうな!!」


 トニーやフラン、カイトにアーサーが、それぞれ死に物狂いでその破壊の波動を弾き、吹き飛ばしていくが、その余波の衝撃だけで身体が激しく削られていく。


 ドサリ、と私は鋭い風圧に吹き飛ばされ、床へと激しく打ちつけられた。生傷から血が流れ、激痛が走る。

 けれどその直後、私の髪の影から、小さな羽を必死に羽ばたかせたフェアリーのルナが飛び出してきた。ゼインからもらった宝石を胸に抱きしめ、小さな手から眩い治癒の光を私へと注ぎ込む。熱い波が身体を包み、私の傷が急速に癒えていく。


「……グルゥゥウウウ!!」


 だが、魔王の猛攻は止まらない。飛んでくる波動を避けては傷つき、そのたびにルナが背後から現れて必死に治療を施す。その応酬が何度も繰り返されるうち、私はルナの小さな肩が激しく上下し、その羽の動きが目に見えて鈍くなっていることに気がついた。


 いくらアイリスの宝石で魔力を増強していても、ルナの小さな身体そのものが、このおぞましい闇の空間と連続する治療の負荷に、もう限界を迎えようとしている。元看護師としての私の目が、これ以上の無理はルナの命に関わると告げていた。


「ルナ……ありがとう。後はもういいわ。これからは、私の力で戦うから」


 私はそっとルナを手のひらで包み込むと、後ろに控えていたミアの元へと優しく手渡した。


「ミア、ルナを頼むね。下がっていて」

「メアリー様……っ!!」


 ミアが涙を浮かべながらルナを大切に胸に抱きかかえ、後方へと下がる。


 サポートの翼を失い、完全に生身の状態で魔王の前に立つことになった私だったが、その胸の奥には、恐怖を遥かに超える炎のような闘志が燃え盛っていた。


 左手で、おばあ様が命を込めて遺してくれた新しい魔剣を強く握り直す。カルミラの遺した手枷が、左手首で熱く脈打った。

 アストラ兄さんの2本の剣を迎え撃つための、私の、救済の二刀流チート。


「待っていて、アーシュ。今、アストラ兄さんと一緒に、あなたを光の国へ連れて帰るわ……っ!」


 私は燃えるような深紅の瞳を持つゼインと力強く視線を交わすと、最強の魔王へと向かって、真っ直ぐに大剣を構え直したのだった。



 激しさを増していく、魔王アーシュとの極限の死闘。 飛来する黒い炎の波動を前に、トニーもフランも、カイトもアーサーも、死に物狂いで武器を振るっていた。けれど――勝負は、あまりにも無残だった。


 みんな、アーシュを傷つけることができないのだ。 共に笑い、共に泥をすすり、同じ釜の飯を食って旅をしてきた、大切な、大切な私たちのアーシュ。その情があるからこそ、みんなの一撃にはどうしても迷いが生じ、本気で刃を叩き込むことができない。


 対するアーシュは、闇の魔力に完全に呑まれ、容赦なく殺戮の刃を振るってくる。


「ぐ、あぁぁあッ!!」


 ガギィィンと鈍い音が響き、トニーの大盾が砕け散って彼はその場に激しく倒れた。カイトは翼を焼かれて床に転がり、フランも、アーサーも、満身創痍の身体で血に伏せていく。 無残にも、一人、また一人と倒れていく大切な仲間たち。


 ――もう、迷っている時間なんてない。


 私は、おばあ様が命を込めてくれた左手の魔剣を逆手に握り直し、右手で激しい炎の魔力を練り上げた。 アーシュの懐へと一気に飛び込むため、私は弾かれたように地を蹴り、猛然と駆け出す。


「――待て、メアリー!!」


 背後から、引き裂くような悲痛な叫びが響き渡った。 振り返らなくても分かった。ゼインの声だ。


 いつも完璧で、どんな絶望をも平然と見下ろしていたあの無敵の王が、今まで聞いたこともないほどの激しい悲しみを顔に浮かべ、必死に私を呼び止めていた。


「命と引き換えにするな!! お前が死んだら……お前が逝ってしまったら、俺は……っ!!」


 王としての威厳も、強者としての余裕もすべて剥ぎ取られた、一人のただの青年としての、魂からの拒絶と叫び。


 私は走りながら、一瞬だけ振り返った。


 そして、彼今まで一度も見せてないような、心の底からのどこまでも優しい笑顔をゼインへと向けた。


「死なないわよ、ゼイン」


 風を切り裂き、私は彼に、そしてみんなに届くようにハッキリと言い放つ。


「私は、あなたたちみんなと、これから先も一緒に生きるために戦っているんだから!!」


 その言葉を大空へと残し、私は黒い炎の嵐を突き破って、アーシュの目の前へと肉薄した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。