野獣の子どもたち
焦る私の声を嘲笑うかのように、野獣の子供たちがさらに凶悪な咆哮を上げた、まさにその絶体絶命の瞬間だった。
ズドォォォオオオオン!!!!
激しい爆音と共に、廊下の頑丈な大理石の壁が文字通り粉々にぶち破られた。もうもうと立ち込める砂煙の向こうから、凄まじい質量の大質量が飛び出してくる。
「我が王ォォオオオ!!! そしてカイト様ァァアアア!!! お待たせいたしましたぞぉぉおッ!!!」
割れんばかりの大声で叫びながら現れたのは、燃えるようなピンク色の髪をなびかせた、筋肉ムキムキの巨漢――ゼインの頼もしすぎる側近、ドレイクだった。
彼の後ろからは、アーサーの国から率いてきた残りの獣人精鋭騎士たちが一斉に雪崩込んでくる。
「ドレイクさん!! 久しぶり、よく来てくれたわ……っ!!」
「ドレイクさんっ!! 相変わらずクソ暑苦しい登場の仕方ですねっ!!」
私やフランが久しぶりの再会に声を弾ませる中、ドレイクは男泣きしながらゼインの前へ、そしてカイトの前へと勢いよく膝をついた。
「我が王ッ!! お怪我はございませぬか!?
……そしてカイト様ァッ!! ご無事でしたか、お労しや……!
アーサー様に置いていかれてしまい、生きた心地がしませんでしたぞぉぉお!」
「お、おいドレイク、そんなに泣くなってば! 兄上も俺もピンピンしてるから!」
カイトが顔を真っ赤にして、熱烈に心配してくる大男を少し照れくさそうになだめる。ゼインは静かに微笑んだ。
「遅い。……だが、ちょうどいいタイミングだ」
「我が王の御前失礼! さあ皆の者、子供たちを護るぞッ!」
ドレイクがフッと気合を入れた瞬間、彼のムキムキの身体が眩い光に包まれた。
アーサーの国出身である彼は、当然、動物の姿に変身できる。あの厳つい大男が一体どんな猛獣に化けるのかと、ナターシャたちがゴクリと唾を呑んだ、その煙の向こうから現れたのは――。
「……ピキュッ?」
それは、私の手のひらにすっぽりと収まってしまうほど小さな、ふわふわとした、ピンク色の愛らしいウサギだった。
「なんでわざわざウサギになるんだよォォオオッッ!!!!」
フランの、この日一番の限界ツッコミが廊下に爆発した。
「お前その筋肉とピンク髪からなんでそんな可愛らしいウサギになんだよ!? ギャップで脳みそバグるわ!!」
けれど、ドレイク率いる獣人騎士たちの実力は本物だった。
「あの魔法の粉でなんとか元に戻れはしたのですが、まだコントロールがうまくいかないんです……。ですが、指揮は出来ますのでっ! ……ピキュッ!」
と凛々しく鳴いたピンクウサギの指揮のもと、騎士たちは野獣の子供たちを傷つけないよう、その強靭な肉体で「ガッチリと優しく拘束」する格闘術を披露したのだ。
大人数で一頭ずつ完璧に動きを止め、暴れる隙を一切与えない。
「メアリー様、今ですぞ!」
ドレイクの鋭い声が私に届く。それを合図に素早く動き出した。
「お願い、元に戻って……!」
青い粉を丁寧に振り撒くと、今度は彼らの肌にしっかりと薬が吸着した。
柔らかな光が子供たちを包み込み、さっきまで牙を剥いていた野獣の動きが止まったかと思うと、幼い子供たちの姿へと、次々に奇跡のように戻っていく。
「やった……! みんな、元に戻ったわ……っ!」
思わず子どもたちに駆け寄り、身体を抱きしめる。子どもたちは何が起こったかわかっておらず、不思議そうな表情を見せ、互いに顔を見合わせていた。
「ドレイクさん……、子どもたちのこと、お願いします」
私が手のひらサイズのドレイクへそう伝えると、可愛らしいウサギが可愛らしく敬礼した。
無事に子供たちの救出が完了し、私たちはドレイクたちに「子供たちの安全な避難」を託し、いよいよ玉座へと続く長い回廊の奥――決戦の場へと、力強く走り出した。




