仲間が揃う時
巨大な城門を前にして、ザッ、ザッ、と私たちの背後から一糸乱れぬ足音が近づいてくる。
振り返ると、白銀の精鋭騎士たちが、私たちのために『野獣になった子供たちを元に戻す薬』と『怪我を回復する秘薬』を大量に持って駆けつけてくれたところだった。
「ゼイン様! メアリー様! 野獣に変えられた子供たちの救出は、我々魔法製薬の国の騎士団にお任せください!」
「ああ、よく来てくれた……! それでは、そちらを頼む!! ここからは、二手に分かれるぞ!
お前たちは子供たちを、俺たちはアーシュの元を目指す!」
ゼインの鋭い指示により、騎士団と私たちは綺麗に二手に分かれて陣を敷き始めた。
さらにその時、「メアリー様――っ!!」という懐かしい叫び声と共に、私の祖国から必死に私たちを追いかけてきてくれた、誰より一途なメイドのミアが息を切らせて走ってきた。その手には、大切そうに一つの『卵の殻』が握られている。
「ミア! ルナ……!! 来てくれたのね……っ!!」
無事の再会に声を弾ませた私だったが、駆け寄ってきたミアは、私の顔を見るなり両肩を震わせ、大粒の涙をボロポロと溢れさせた。
「メ、メアリー様……っ! その……髪……っ!!」
ミアは口元を両手で覆い、信じられないものを見るかのように私の頭へと視線を注いでいる。
あ……。そういえば、ここに来るまでの壮絶な戦いの中で、私の髪はバッサリと短く切り落としてしまった。
私は幼い頃から、この金の長い髪を何よりも大切にしていたらしい。亡くなったお母様と同じ色、同じ長さだと、周囲に喜んでもらえたのが嬉しかったそうだ。メイド任せにせず、いつも自分で丁寧に手入れをして、まるで宝物のように扱ってきた、今まで一度だってハサミを入れたことのなかった大切な髪――。
それを、こんなにもバッサリと失うほどの命懸けの死闘があったのだと気づき、ミアは胸を締め付けられるように泣いていた。
「大丈夫よ、ミア。髪はまた伸びるわ。……それよりも、私を追うために無茶をしてくれてありがとう」
その時、小さな羽をパタパタと震わせたフェアリーのルナが飛び出してきた。
「ルナ……!! あなたも来てくれたのね……!!」
驚く私に、ミアが誇らしげに胸を張る。
「ルナもメアリー様の役に立ちたいって、付いてきてくれました!
本来、フェアリーは生まれた国から離れられませんが、この卵の殻に魔力を限界まで込めて持ち運ぶことで、問題なくここまで来ることができました! ルナはメアリー様専属ですから、メアリー様の傷しか治せませんが、きっとお役に立ちます!」
ルナは私の頬にすり寄ってきたが、すぐ近くに立つゼインの姿を見るなり、ヒッと小さく悲鳴を上げて私の髪の影へと隠れてしまった。
以前、彼に手荒く掴まれたことがあって、ゼインのことが怖くて堪らないのだ。
ゼインはそんな怯えるルナを冷徹に見下ろすと――静かに、懐から一つの小さな、しかし美しく輝く宝石を取り出し、ルナの目の前に差し出した。
「……怯えるな。それを持っていけ」
ゼインの平然とした声音に、ルナが恐る恐る顔を出す。
「その卵の殻の魔力では、すぐにお前の魔力が尽きてしまうだろう。それは、魔導具の国のアイリスに特別に作らせた、魔力を増強するための宝石だ。それがあればお前の魔力が尽きることはなく、メアリーのどんな傷もすぐに癒せるようになる」
完璧すぎる王のサポートに、私は言葉を失った。怯えていたルナも、ゼインの不器用な優しさにハッとした顔になり、小さな両手で大切そうに宝石を抱きしめた。
「ただし――その宝石の増幅も、治癒の秘薬も、俺の魔力も、全ては『致命傷になるほどの深手』を負ってしまえば効果はない。そこだけは忘れるなよ」
ゼインの冷酷なまでのタイムリミットの念押しに、私たちはごくりと唾を呑み、改めてこの城の危険さを胸に刻んだ。
「フっ……揃ったな。……行くぞ、お前たち」
ゼインが不敵に笑い、大剣を引き抜いて城門を見据える。アーサーやミア、ルナという最高の仲間が全て揃い、おばあ様の魔剣と、覚悟を胸に宿した私は、もう何も怖くなかった。
私たちはいつもの最高の笑顔と強い絆を胸に、アーシュを救うため、ついに黒き居城の扉へと突入していった。




