リオールの覚醒
「……う、うわぁぁあああ! リオール、お前すごすぎるだろっ!!」
空賊船が完全に消え去ったのを見届けるや否や、フランがドラゴンの背の上で大興奮しながらリオールへと飛びついた。小さな身体をガシガシと豪快に撫で回す。
「痛いよフラン! くすぐったいってば!」
「痛くても我慢しろ! なんだよあのバラバラにする魔法! めちゃくちゃ格好よかったじゃねえか!」
「本当にな。俺たち大人の立場が形無しだよ。……よく頑張ったな、リオール」
トニーもいつもよりずっと優しい、父親のような眼差しでリオールの肩を叩いた。空中から舞い戻ってきたカイトも、大きな翼をパタパタと揺らしながら「あのタイミングで敵の主砲を潰してくれるなんて、最高の相棒だぜ!」と親指を立ててみせる。
私は、倒れていたナターシャの肩を支えて身体を起こしながら、リオールの元へと歩み寄った。
「リオール。おばあ様もお母様も……今のアナタを見て、きっとすごく誇らしく思っているわ。みんなを護ってくれて、本当にありがとう」
私が微笑みかけると、リオールは照れくさそうに「うん!」と大きく頷いた。
ナターシャも「リオール、立派です……」と涙を浮かべて拍手を送っている。
ただ守られるだけだった小さな男の子が、自らの努力で私たちの『盾』となり、そして『矛』となってくれた。その確かな成長が、何よりも愛おしく、誇らしかった。
「おい、前を見ろ。虫ケラどもの煙が晴れるぞ」
ドラゴンの先頭で腕を組んだゼインが、低く冷徹な、けれどどこか引き締まった声で全員に告げた。
その言葉に導かれるように、私たちは一斉に前方の空へと視線を向ける。
空賊船が爆発したことによって生じていた黒い煙が、大空を吹き抜ける風によってゆっくりと、しかし確実に押し流されていく。
その煙のカーテンの向こう側が見えた瞬間、私たちの笑顔がピタリと止まり、歓声が静まり返った。
そこから広がっていたのは、今まで旅してきた国々とは全く違う、異様な世界だった。
私たちが飛んでいるこの場所には、まだ温かい太陽の光が燦々(さんさん)と降り注いでいる。しかし、ある一定の境界線を境にして、まるで世界の終わりを示すかのように、不気味で重苦しい『漆黒の暗雲』が大地を丸ごと包み込んでいた。
日の光が一切届かないその領域は、昼間であるはずなのにまるで深い夜の底のようで、見ているだけで肌がビリビリと痺れるような、禍々しい闇の魔力が大気全体を満たしているのが遠目からでも分かった。
――暗黒の国。 私たちの真の目的地であり、大切な仲間であるアーシュが囚われている、呪われた闇の牙城。
「……いよいよ、ね」
私は腰に帯びた、おばあ様が命を込めて遺してくれた新しい魔剣の柄を、強く、強く握り締めた。左手首の不思議な手枷が、まるでその決意に共鳴するかのように、ほんの少しだけトクンと温かくなった気がした。
「フっ……怯むなよ、メアリー。ここからが本番だ」
ゼインが漆黒のマントを激しく翻し、不敵な、王としての絶対的な笑みを浮かべて大剣を構え直す。
私たちはリオールの覚醒という新たな希望を胸に、太陽の光を背に受けて、牙を剥く不気味な暗黒の国へと向かって、まっすぐにドラゴンを突き進めた。




