暗黒の国へ
アイリスの手によって見事に打ち直され、以前よりも温かく輝くようになった杖を胸に抱くナターシャ。
そして、おばあ様が命を込めて打ち直してくれた新しい魔剣を腰に帯び、私たちは巨大なドラゴンの背に乗って大空へと飛び立っていた。
ゴォォオオオ……と、心地よい風の音が耳元を通り抜けていく。
見渡す限りの青空と、眼下に広がる白い雲海。その素晴らしい絶景を、誰よりも嬉しそうに、そして誇らしげに見つめている青年がいた。
「――やっぱり、空は最高だな!!」
カイトがその大きな両翼を力強く羽ばたかせ、ドラゴンの背と並ぶようにして空中を優雅に舞っていた。
「おいカイト、あんまり調子に乗って遠くへ行くなよ! 落とされても拾ってやれねえからな!」
ドラゴンの背の鱗にしがみつきながら、フランが少し顔を青くして叫ぶ。トニーも「まったく、羽のある奴は羨ましいねぇ」と苦笑いしている。
カイトの翼は魔法製薬の国の薬で完全に完治していた。前回、翼を負傷して満足に戦えなかった鬱憤を晴らすかのように、カイトの飛行はいつになくキレキレだった。
まさに、カイトにとっては待ってましたと言わんばかりの、最高の独壇場だった。
――と、その時。
カイトの鋭い鳥人の瞳が、遥か前方の大きな雲の塊を捉えてピクリと細くなった。
「……みんな、気をつけろ! 前方の雲の中に、何かいる……っ!」
カイトが警告の声を上げた次の瞬間、激しい爆音と共に、目の前の巨大な雲が真っ二つに引き裂かれた。 そこから現れたのは、黒い禍々しい帆を掲げ、不気味な大砲をいくつも備えた、空を駆ける巨大な船だった。
「ひゃっはー! 見つけたぞ、若き王と王女の一行だな!」
船の先端に立った下品な男たちが、私たちのドラゴンを見下ろしてゲラゲラと下劣な笑い声を上げる。
――空賊だ。
大空を無法の荒野に変える、凶悪な空の賊たちが、私たちの行く手を阻むように大砲の銃口をこちらへと向けてきた。
「大人しくそのドラゴンから降りて、身ぐるみ置いていきな!」
空賊の頭領らしき、顔に大きな傷のある男が船首から身を乗り出してゲラゲラと笑う。
先頭を飛ぶカイトが、風の魔力を全身に纏わせながら油断なく叫び返した。
「俺たちは暗黒の国へ行く急ぎの旅だ! コソ泥の相手をしている暇はねえ、そこをどけ!」
「暗黒の国だぁ? ハッ、だからこそ、ここで沈んでもらうんだよ!」
頭領は下品に鼻を鳴らし、自慢の大きな大砲をバンバンと叩いた。
「あのガキが闇の魔力をジャンジャン撒き散らしてくれているお陰で、地上の獣どもが勝手に狂暴化して街を襲ってくれるんだ。おかげで俺たちは、荒れ果てた街から金品を奪い放題、火事場泥棒し放題ってわけさぁ!
それをお前らみたいな、正義の味方を気取るおせっかいな野郎どもに、あの国を元に戻されちゃあ、俺たちの最高のお宝ビジネスがあがったりなんだよ!」
「……何ですって……っ!?」
ドラゴンの背の上で、私はあまりの身勝手な言い分に目を見開いた。
人々が獣に襲われ、命を落とし、涙を流しているその裏で、それを『ビジネス』と呼んで私腹を肥やす悪党。アーシュに頼まれたわけでもなく、ただ自分たちの強欲のために、世界が闇に包まれ続けることを望んでいる。
「――どこまでも、醜いな」
ゼインの低く冷徹な声が、風を切り裂いて響いた。彼の深紅の瞳に、ゴミを見るかのような冷たい怒りの光が宿る。
「カイト、フラン、トニー。……あの羽虫どもを、一匹残らず叩き落とせ」
「そんなの簡単さ、兄上!! おい空賊のバカども! 空での戦い方を思う存分見せてやるよ!!」
カイトが待ってましたと言わんばかりに不敵に笑い、完治したその大きな翼を爆発的に羽ばたかせて、大空へと飛び出した。




