終幕
大きな問題が全て解決し、戦場に穏やかな空気が流れ始める。
私はカルミラの横に腰を下ろしていたナターシャの前に座り込み、その顔を優しく覗き込んだ。
「ナターシャ? あなたはどうする?」
ナターシャはハッとして顔を上げ、後ろめたさからか、一旦私から気まずそうに目を逸らした。
けれど、折れた杖の破片をぎゅっと抱きしめ直すと、決意を秘めた瞳で真っ直ぐに私を見つめ返してきた。
「……また、あなた方と一緒に旅に行きたいです。アーシュさんを取り戻すお手伝いがしたい……。
そして、全てが終わったら、またこの国に戻ってカルミラ様の傍でお仕えしたいです」
彼女の本当の願いを聞き、地に伏せたままのカルミラは、嬉しそうに満足げな笑みを浮かべ、静かに瞳を閉じた。
「ありがとう、ナターシャ。また、これからよろしくね」
私が微笑みながら手を差し伸べると、ナターシャは涙を拭きがら、その手をしっかりと握り返してくれた。
――と、その時だった。
「ゼイン様!! こちらも持ってきました!」
白銀の騎士がゼインの背後に駆け寄る。
ゼインは軽く振り返り、「頼んだ」と頷きながら微笑んだ。
私は何のことかわからなかったが、白銀の騎士を目で追った。すると、真っ白なたてがみをふわふわと風に揺らしているアーサーの元へ行き、上から緑の粉を振りかけ始めたのだ。
次の瞬間、アーサーの巨体がキラキラとした緑の光に包まれる。光の粒子が舞い上がる中で、そのシルエットがどんどん引き締まった人間の姿へと変わっていった。
光が収まったあとに現れたのは、銀の、腰まで続く長い髪を日の光に浴びて輝かせた一人の美青年だった。中性的で端正な顔立ち。ゆっくりと開かれたシルバーの瞳が、はっきりと力強い輝きを取り戻している。
あまりの美しさに、私は思わず目を奪われ、息を呑んだ。
すると、こちらに向けられたアーサーの視線と真っ正面から重なり、私の心臓がドクンと激しく跳ね上がる。
アーサーは、しっかりとした足取りで私の元へ歩み寄ってきた――と思った次の瞬間、彼は足を止めることなく、ガバッと私を力強く抱き締めた。
「どうなることかと思ったが……あなたがご無事で、本当に良かったです」
アーサーの柔らかな銀の髪が目の前でサラサラと揺れ、私の頬に触れてくすぐったい。
「ありがとう、アーサー……あなたも無事で……本当に、人間の姿に戻れて良かったね……」
「はい……! では、この無上の喜びを、さっそく分かち合いましょう」
感動的な再会に胸を熱くさせていた私だったが、アーサーは腕の中で、ペロッと悪戯っぽく舌を出した。
「え!? ちょっ……、アーサー……っ!?」
「てめえなにやってんだよ!!」
私とアーサーの間に、フランの腕がぐいと割って差し込まれる。
引き離されたアーサーは、わざとらしくこれっぽっちも反省していない様子で目を見開いた。
「ああ! 申し訳ない!! ライオンの姿が長かったもので、つい嬉しさのあまりメアリーさんを舐め回そうとしてしまいました!!」
「お前っ!!? マジでステーキにして食ってやるからな!!」
拳を振り上げて激怒するフランの横から、すっかり元気になったトニーが「おいおい、百獣の王のステーキなんて硬くて食えたもんじゃないぞ」とケラケラ笑いながら割り込んでくる。
カイトも呆れたように肩をすくめ、そのやり取りを横で見ていたナターシャも、つられて小さく吹き出していた。
さっきまでの世界の終わりのような絶望が、嘘のように消え去っていく。
照れ隠しに怒るフランと、どこまでもマイペースなアーサーを中心に、私たちの間にいつもの賑やかな笑い声が響き渡った。
傷だらけの身体のまま、私たちのドタバタ劇を少し離れた場所から見守っていたゼインもまた、呆れたように、けれどどこか愛おしそうにフッと口角を上げて笑っていた。




