戦いの余韻
治療を受けながら、カルミラが傍らに縋るナターシャに静かに声をかける。
「お前はもう、ここにいる必要がない。好きにしろ」「それは……用無しということですか!?」
ナターシャはその瞳に大粒の涙を溜めながら、絶望に顔を歪めた。
カルミラはだらんとした身体のまま、静かに目を閉じ、どこか優しく諭すような声音で言う。
「ある意味……そうかもしれんな」
「そんな……!! 杖をなくして魔力が使えなくなったからですか!? 私は、私はこんなにもあなた様をお慕いしているというのに……っ!」
「ナターシャ……用無しではない。『今は』お前の力を必要としていないというだけのことだ。
お前には、私以上にお前を必要としている者と共になすべきことがあるのだろう?」
カルミラはゆっくりと目を開け、ナターシャを真っ直ぐに見つめた。
「それが終わったら、いつでも戻ってくるといい。
……だがその後に、お前がずっと留まりたいと思う場所が見つかったなら、そこにいてもいい。
アタシはお前を、ここに縛り付けたくはないのだよ」
自分を突き放すのではなく、自立を願うカルミラの本当の愛に触れ、ナターシャはポロポロと涙を溢れさせながら深く頷いた。
涙を拭い、ナターシャが恐る恐るメアリーたちの方へと振り返る。
すると、雲の隙間から差し込む温かい陽光の中で、ゼインを始め、フランもトニーも、カイトもアーサーも――みんなが穏やかな笑顔を見せて、彼女を温かく見つめていた。
ゼインが手元に残ったカルミラの槍を持ち、横たわるカルミラと、寄り添うナターシャの元へと近づいていく。全身の傷から血を滲ませながらも、ゼインは誇り高くその場にひざまずき、槍をカルミラの前に掲げた。
「俺が勝ったから、この槍に埋め込まれている魔導石はいただくぞ」
フッとカルミラが笑う。
「そうだな、仕方ない。国を守るお守りだったが……」
「それならもう必要ないだろう。お前の強さは、十分に他国へ知らしめることができたはずだ。
もし万が一襲ってこられても、お前の強さなら負けることはない。
――それに、どうしても力が必要な時は俺を呼べ。お前の国を守ってやることくらい、造作もない」
若き王の、あまりにも圧倒的で不敵な言葉に、カルミラは観念したように大声を上げて笑った。
「ハハッ! そこまで言われて渡さなければ女が廃るね。勝手に持っていけ」
ナターシャはカルミラの横で、二人の間で交わされる、戦いを経た者同士の不敵な会話を、どこかハラハラと心配そうに、けれど安堵したように見つめていた。
ゼインは続いて、私の元へ歩み寄るなり、ぐいと私の腕を引っ張ってカルミラの前に差し出した。
「それと、この手枷は外してもらおう」
カルミラが私の左手首に目を落とす。言われて自分の手首を見つめると、ただの古びた鉄の手枷だと思っていたそれに、見たこともない複雑な紋様が刻まれているのが見えた。
「その頼みは聞けんな」
「何だと?」
ピクッとゼインの眉が不快げに動く。
「それは、私が認めた女だという証さ。アタシへの攻撃は出来なくなるが……よく見ろゼイン。
それには、使い道があると思わないか?
これからの、お前たちの目的を達するためには、大いに役に立つことだろうよ」
私は二人が何を話しているのか全く意味がわからず、「え? どういうこと?」と二人の顔を交互に見比べていた。
だが、険しい顔から一転、手枷の紋様を凝視していたゼインが、フッと表情を緩める。
「そうだな……。使い方次第か……」




