ゼインとカルミラ
ギィィィィン!!!
大気を引き裂くような鋭い金属音が、何度も更地に爆発する。
ゼインは大剣を斜めに振り抜き、カルミラの放った神速の突きを辛うじて受け流した。しかし、受け流した風圧だけで地面の土が激しく弾け飛ぶ。
カルミラは体勢を崩すことなく、流れるような動作で槍の石突きをゼインの足元へ叩きつけた。
ゼインはとっさに地を蹴ったが、わずかに足元をすくわれ、無残に地面へと転がされる。間髪入れずに、処刑刃のような槍の先端が、倒れたゼインの脳めがけて容赦なく振り下ろされた。
「ゼインっ……!!」
遠くで見守る私たちも、自分の身体が引き裂かれるかのような恐怖を抱き、固唾を呑んでその光景を凝視していた。
ドォン! と槍が地面を深く抉る直前、ゼインは泥にまみれながら横へと鋭く転がり、間一髪でそれを回避する。すぐさま立ち上がるが、結界を持たない彼の頬や腕には、飛び散った石礫による細かな切り傷が無数に刻まれ、赤い血がじわりと滲み出していた。
対するカルミラも無傷ではない。ゼインの放った大剣の鋭い返し刃が彼女の肩口をかすめており、衣服が引き裂かれ、そこから鮮血が滴っている。
互いに傷だらけになり、息を荒らげ、更地に身を伏せ、泥を這う。
それはいつも私が見てきた、圧倒的な魔力で敵を蹂躙する「無敵の王」の姿ではなかった。一歩間違えれば、即座に命を落としかねない、あまりにも危うい生身の死闘。
ふたたびカルミラの槍が激しくしなり、ゼインの防御を強引に弾き飛ばす。大剣が手からこぼれそうになり、ゼインの体勢が大きく崩れた。完全にゼインが劣勢に立たされた、その瞬間――。
「しまっ……! フラン、行くぞ!!」
トニーがまだ痛む身体に鞭打って、大盾を構え直して前に飛び出そうとした。隣のフランも、鋭い眼光で剣を引き抜き、駆け出そうとする。
「待てっ! 動くな!!」
カイトが剣をトニーの前にかざし引き留めた。
そして、トニーの前に立ちはだかり、その大きな翼を広げて強引に彼らの行く手を阻んだ。
「どけカイト! あのままじゃゼインが死んじまう!!」
フランが焦りで声を荒らげる。だが、カイトの肩を掴んで今にも飛びかかりそうに爪を立てているアーサーも、その強靭な四肢を激しく震わせながら、トニーたちの前に立ち塞がって頑なに道を譲ろうとしなかった。
「ダメだ……! 行ってはならない……っ!!」
カイトの鋭い眼光が二人に向けられる。
「なんでだよ!? お前たちだって、誰よりもアイツを助けたいはずだろ!?」
トニーの叫びに、カイトは拳を血がにじむほど強く握り締め、奥歯を噛み締めながら、戦場から目を逸らさずに言い放った。
「……助けたいさ! 今すぐにでも、あそこに割って入って兄上を護りたい!!
けど……だけど、ダメなんだ! ここで俺たちが手を出したら、兄貴の……あのカルミラ一族への、そして戦士としての『覚悟』を、泥を塗って台無しにすることになる……っ!」
カイトの瞳には、大粒の涙がたまっていた。アーサーの背中の毛も、悔しさと恐怖で逆立っているようだった。誰よりもゼインを慕い、誰よりも彼を助けたいはずの二人が、血を吐くような思いでその衝動を我慢し、トニーたちを必死に止めているのだ。
トニーはカイトの胸ぐらを掴み、怒りを爆発させるように怒鳴り散らした。
「ふざけんなよ!! プライドより命が大事だろうが!!」
トニーの叫びは、一人の騎士として、そして仲間を失いたくない一人の人間として、至極当然の、そしてあまりにも真っ直ぐな本音だった。
だが、カイトはトニーの強い力に怯むことなく、その胸ぐらを掴み返さんばかりの勢いで、血を吐くような声を張り上げた。
「プライドなんて、簡単な言葉じゃ済まない!
兄上にとって王としての誇りは、命より大事なんだ!!」
カイトの悲痛な叫びが、私たちの間に鋭く突き刺さる。その瞳から、堪えきれなくなった涙が一筋、頬を伝って流れ落ちた。カイトの拳は、爪が皮膚に食い込むほど固く握り締められていた。
命よりも重い誇り。それを誰よりも知っている実の弟だからこそ、今すぐにでも飛び込んで兄を護りたい衝動を、胸が張り裂けるような思いで我慢しているのだ。
トニーはハッとしたように目を見開き、カイトの涙に言葉を失った。掴んでいた手の力が、徐々に悔しそうに抜けていく。
傷だらけの身体で立ち尽くすゼインの背中が、遠くに見える。
その背中はひどく脆く見えて――同時に、世界のどんな壁よりも、圧倒的に誇り高く気高いものに見えた。




