ゼインの策略
「どうした、よそ見とは!!」
カルミラの鋭い怒号と共に、メアリーたちの方へ一瞬だけ目をやったゼインの胸を目掛け、容赦のない神速の槍が突き出される。
しかしゼインは寸前で大剣を振るい、金属音を爆発させながらその必殺の刃を強引に弾き返した。
二人が激しく交錯するたびに凄まじい衝撃波が吹き荒れ、砂埃が舞い上がって視界を白く染める。だが、その視界が開ける前に次の攻撃が始まり、火花が闇を裂く。その、終わりのない凄まじい攻防の繰り返しだった。
カルミラは狂気的な笑みを浮かべながら、再び槍を構え直した。ゼインの頭から足の先までゆっくりと這わせるように槍の矛先を向け、次はどこの肉を突き刺そうかと、純粋に楽しんで狙いを定めている。
「ゼイン、お前が助けに行かなかったせいで一人死んだぞ。お前は、あの姫以外の命は、やはりどうでもいいのだな」
残酷な挑発に対し、ゼインは動じることなく、ただ静かに口角を上げた。
「なるほど……。お前の目にはそう見えるのだな。
だが、まだ何も終わっていない」
ゼインの鋭い瞳が、不敵な光を帯びる。
「これは、俺があいつらを信頼した結果だ。
そして――手は、ちゃんと打ってある」
ゼインが遠くの地平へと視線を向けた。釣られるように、カルミラも自然とそちらに目を向ける。
すると、遥か後方から白銀の甲冑に身を包んだ兵士たちが、こちらに向かって猛然と進軍してくる姿があった。地響きと共に、一糸乱れぬ重々しい鎧の音が、どんどん大きく強く戦場へと響き渡ってくる。
「そうか……魔法製薬の国の連中か……」
カルミラはすべてを察し、苦々しげに顔をしかめた。彼らが来れば、消えかけた騎士の命を救うことなど容易い。
ゼインは再びカルミラの方へと大剣の刃を向け、漆黒のマントを激しく翻した。
「さあ、再開しよう。あいつらは一旦、終幕だ」
――――――
私はトニーの横に座り込み、ただ呆然と血の気の引いていく彼の顔を見つめていた。
――と、どこからともなく、じゃらじゃらと地を鳴らすような重々しい甲冑の重なり合う音が聞こえてくる。涙で霞む視線を音の方へと向けると、白銀の甲冑に身を包んだ兵士たちが、こちらへ向かって一直線に駆け寄ってくるところだった。
その中の一人が、一刻を争う戦況を理解しているかのようにトニーの元へ素早く駆け寄り、私に頭を下げて話しかけてきた。
「メアリー様! ゼイン様より命じられておりました、重症を癒やす我が国の秘薬です。これでトニー様の負傷は治せるでしょう!」
彼は言い終わるよりも早く、懐から取り出した小瓶から、キラキラと幻想的な光を放つ青い粉をトニーの傷口へと振りかけ始めた。
不思議なことに、その粉が触れた瞬間、焼け焦げていた皮膚が柔らかな光に包まれ、シュウシュウと音を立てて急速に再生し始める。
それに合わせるように、トニーの呼吸がフッと楽になるのがわかった。
その光景に、フランが驚きと不思議そうな顔を向けた。
「……お前たちは、カルミラたちの兵士に捕まっていたんじゃなかったのか!?」
白銀の兵士はトニーから目を離さず、慎重に作業を続けながら答える。
「ええ、一度は捕縛されました。ですが、それは敵を油断させるためのゼイン様の策だったのです。一部の隠密部隊を逃がして国へ薬を取りに行かせるため、敢えてゼイン様は、私たちを囮として捕まるように仕向けられたのです」
あまりにも計算され尽くした王の策略に、フランは悔しそうに前髪をくしゃりと掻きむしり、忌々しそうな顔を見せた。
「なんだよアイツ……どこまでも完璧にしやがって……ほんとムカつく奴だな……」
他の白銀の兵士たちがそれぞれ私たちに近付いてきた。
「あなた方も相当ひどい傷ですよ、さあ、これを」
トニーに施した物と同じような粉を差し出してくる。フランやカイト、アーサーもそれを掛けられている。
その粉を振りかけられた瞬間、フランの痛々しく裂けていた衣服の奥から、淡い光が湧き上がった。じくじくと血がにじんでいた傷口が、まるで時間を巻き戻すかのようにみるみる塞がっていく。
カイトの不自然に折れ曲がっていた羽の骨がきしむ音を立てて真っ直ぐに戻り、アーサーの小刻みに震えていた四肢には、瑞々しい野獣の活力が一瞬で満ちていく。
目に見えて回復していくのがわかるのだ。
「こんな……凄い魔力を持っているなんて、あなた方は本当に素晴らしい……」
私のすぐ横にいた兵士がフッと笑みを浮かべた。
「これが、戦いに魔力を使う者と比べると、か弱い魔力しか持たない我々が、無敵と呼ばれる所以。
そしてこの力のお陰でカルミラ一族から国を守ってくることができたのです」
「くっ……」
トニーの声が聞こえたので、慌てて膝をついて顔を覗き込む。
薄っすらと瞼を開ける、トニーの青い瞳と視線がぶつかった。
「トニー!! わかる!?」




