戦いの幕開け
背後で鋭い火花を散らしながら、ゼインはカルミラから一瞬たりとも視線を外さない。
それどころか、激闘の最中とは思えないほど、驚くほど静かな声でトニーへ語りかけた。
「外に出ろ。ここにいては建物の下敷きになるぞ」
トニーは、アリコーンの巨体を見上げた。ミシミシと悲鳴を上げる天井に気付く。
トニーはハッとした顔になり、すぐさま戦況を理解して短く頷いた。
「ああ、そうだな」
トニーはそう言い終わるや否や、
「外に出るぞ!!!」と叫び、走り出した。
状況を察した三人がそれに続くので私も急いでその場を離れる。
一瞬だけ振り返ると、ゼインの鋭い視線と真っ向からぶつかった。彼は不敵な笑みを浮かべ、小さく顎を引いてみせる。
――守られているのではない、信じられている。
その確信だけで、私の身体の奥から爆発的な力がみなぎってきた
壊れかけた扉を蹴破り、外へと飛び出した私たちの視界が一気に開ける。
そこに広がっていたのは、かつての美影を失った広大な大地だった。すでにアリコーンの力によって、地面の土は爆撃を受けたように激しくめくれ上がり、巨大なクレーターができている。周囲の美しい花々や木々は無残にへし折られていた。
見上げる空は、まるで世界の終わりを告げるかのように禍々しい暗雲に覆われている。
雲の隙間から、まるで神罰のように鋭い光が差し込み、アリコーンの巨体や私たちの武器を不気味に照らし出していた。
吹き荒れる突風が私の髪を激しくなびかせ、砂埃が視界を遮る。
肺に流れ込む冷たい空気、肌を叩く強風、遮るもののない空間に響き渡るアリコーンの咆哮の地鳴り……。
肌を刺すような緊張感が、大気をビリビリと満たしていた。
壊れかけた扉を蹴破り、外へと飛び出した私たちの視界が一気に開ける。
私たちの気配を察知したのか、アリコーンが巨大な質量を震わせて前へと踏み出してきた。その手に握られているのは、おぞましい形をした、まるで処刑台の刃のような巨大な斧だ。
化け物がその凶器を天高く掲げた瞬間、周囲の空気が一変する。無数の禍々しい光の粒子が、凄まじい勢いで斧の刃先へと吸い込まれていく。バチバチと空間をきしませる漆黒の輝きは、一瞬の間に、巨大なエネルギーの塊へと膨れ上がっていった。
「――っ、みんな、来るぞ……!!」
トニーが叫び、皆それぞれ、自身の直感が最大級の警鐘を鳴らす。狙いは、間違いなく私たちだ。次の瞬間、掲げられた斧から極太の閃光が放たれ、大気を引き裂きながら一直線に私たちへと襲いかかってきた。
エネルギーの奔流が、大気をビリビリと震わせる。
「避けろッ……!!」
トニーの怒号が響くと同時に、彼の身体が私の前に滑り込んだ。
次の瞬間、掲げられた斧から極太の黒い閃光が放たれ、大気を引き裂きながら一直線に私たちへと襲いかかってきた。凄まじい轟音と共に、光の奔流が激突する。
私は思わず目を瞑ってしまい、トニーに身体を低く押さえつけられた。
ズズズ……、と凄まじい風圧と衝撃波が吹き荒れ、地響きが身体をビリビリと震わせる。至近距離でトニーが歯を食いしばる、短い呻き声が聞こえた。
背にトニーの体温と、首元に彼の荒い吐息を感じながら、ゆっくりと目を開ける。
舞い上がる砂埃で視界は最悪だったが、その向こうで、みんなが同じように地面へ血に伏せっている姿が辛うじて見えた。
アリコーンは先ほどの場所から微動だにしておらず、巨大な斧を手にしたまま、冷酷にこちらを見下ろしていた。
――危ない!!
このまま二発目を食らえば確実に命はない――
焦りが募る中、フランたちがゆっくり立ち上がるのが視界の端に映った。私もすぐに身体を起こそうとするが、覆い被さるトニーの身体が重く、身動きが取れない。
いや、それ以前に――トニー自身が、ピクリとも起き上がろうとしないことに気がついた。
「トニー……?」
動かせる顔だけを軽く後ろに向ける。しかし、彼の金の長い髪と耳が少し見えるだけで、どんな顔色をしているのかまでは分からなかった。
「くっ……、はぁ、っ……」
首元に触れるトニーの吐息が、痛々しいほどに荒くなっている。
私がトニーの下から這い出すようにしてどうにか這い出てくると、血を流しながらも立ち上がったフラン、カイト、アーサーの3人も異変を察したようで、悲痛な表情でこちらに向かって、駆け寄ってきていた。
フランは痛む脇腹を片手で固く押さえ、カイトは片方の翼を不自然に引きずりながら、アーサーも四肢を激しく震わせ、今にも倒れそうなほど足元をよろめかせながら、必死にこちらへ歩み寄ってくる。
トニーの背中は、アリコーンの黒光の熱波をまともに浴びて無残に焼け焦げていた。




