隠された真実
大広間に流れる緊迫した沈黙のなか、今まで黙って私たちのやり取りをじっと見ていたカルミラが、その不敵な笑みを深く浮かべながら、愉悦を隠しきれない声音でゆっくりと口を開いた。
「ハッハッハ……! ゼインよ、お前はまるで正義の味方気取りで、随分と偉そうにその小娘の前で物を言うが……。
本当のところ、その女にこの世界の『残酷な真実』を、まだ何一つ伝えていないのだろう?」
カルミラの冷酷な一言が、長い階段の頂点に重く響き渡る。
「……何、を……」
「知っていれば、その剣に大きな迷いや躊躇いが一瞬でも出てくるはずだからな。だが、今のこの女の綺麗な瞳には、それがこれっぽっちも見当たらん。
――つまり、そういうことだ」
カルミラがそう言って嘲笑った瞬間だった。
私を自らの広い背中の後ろに庇い隠して直立していた、あのゼインの大きな背中が、ピクッ……!!! と、見たこともないほどの激しい動揺を伴って過剰に反応したのが、ここからでもハッキリと見えた。
「ゼイン……? 何それ……。私が知らない『真実』って、一体何のこと……?」
ドクン、ドクンと、胸の奥の鼓動が急激に速くなっていくのを肌で感じる。
私がこれまでずっと知らないまま旅を続けてきた、重大な隠し事があるというのか。
私は激しい胸騒ぎに耐えかねて、ゼインの着ている漆黒のマントを後ろからギュッと必死に握りしめた。
だが、ゼインはただ大剣を構えたまま硬直しており、こちらを振り向く様子は微塵もなかった。
私はたまらず背後にいるトニーやフランの二人を大慌てで振り返ったが、二人とも互いの顔をひどく困惑したように見合わせ、不思議そうな顔をしたり、心当たりがないとばかりに必死に首を左右に横に振ったりするだけだった。
トニーたちですら、何一つ知らされていないのだ。 その張り詰めた静寂を引き裂くように、ゼインの、いつも通りの余裕を完全に失った、ぞっとするほど静かで冷淡な口調が聞こえた。
「――メアリー。お前は……、知らなくていいことだ。余計な言葉に惑わされるな」
カルミラが、そのゼインの必死の拒絶を遮るようにして、意気揚々とその会話の真ん中へと滑り込んでくる。
「ハハッ! これまで対等な信頼関係があるフリをして、同じ檻のなかで仲良くおままごとをしていたのか。さすがは隣国の優秀な王、大した演技力だな!
だがな、小娘よ。本当に魂の底から信頼し合っている者同士であるならば、その胸の内にそんな隠し事など絶対にないはずだ!
……フフ、いいだろう。この男が自分の口からどうしても言えぬと言うのなら、この私が今すぐお前にすべてを教えてやろう!!」
「黙れ、カルミラ!!
――メアリー!! 奴の言葉に、絶対に耳を貸すな……!!!」
ゼインが、その理性の防壁を完全に決壊させ、世界の終わりを告げるかのような凄まじい絶叫を大広間全体へと張り上げた。
カルミラはなお面白そうに目を細める。
「メアリー、わかっただろう? この男がこのように動揺するということは、私がこれから話すことは『真実』ということだ。嘘ならば最初から相手にしないからな」
「黙れ黙れカルミラ!! さもないと……!!」
ゼインが珍しく、我を忘れたように声を上げながら剣を構える。
カルミラはそれよりも遥かに強い声を上げた。
「今、世界は狂い始めている。
メアリー、それは全て『お前のせい』だ――」
「私の……、私の、せい……?」
カルミラの口から放たれたそのあまりにも唐突で残酷な言葉に、私は大広間の中心で、一瞬だけ己の息をする方法すら完全に忘れてしまった。
「そうだ。すべてはお前の愛しい双子の弟が、世界の果てで悍しい闇の魔力に堕ちたことから始まった。
まあ、だが……そいつがそこまで無惨に狂って闇に身を投げ出す羽目になったのも、元を正せばお前の中に眠る固有魔力が、一国の王女としてはあまりにも強すぎたせいだったな。
お前のその存在のせいで、お前たちの父親である前国王は精神を病み、無残に壊れていったのだからな」
カルミラは微笑みを浮かべたまま、私の心を内側からえぐり取るように淡々と語る。
「黙れと言っている……っ!!!」
ゼインが理性を失った激昂の声を上げ、その巨大な大剣をカルミラの首元へと強烈に振るう。
だが、カルミラはその神速の一撃をひょい、と紙一重の軽さで避け、私の立つすぐ目の前へとさらにぐっと距離を近づけてきた。
「……闇の魔力が、もう世界に漏れ始めているんだ」
トニーがその様子を唖然とした様子で見ながら、思わず恐怖を孕んだ声をポツリと口にした。
「だ、だが、アーシュのいるあの漆黒の炎に包まれた城の周りには、広大な湖があったはずだ……っ!
あの深い水によって闇のオーラは完全に堰き止められ、それ以上は他国へ影響など出ていなかった……はずだろ……っ」




