いざ、目的地へ
「最悪、最低。最悪、最低……」
フランが草を掻き分け歩きながら、お経のようにブツブツと呟いている。
すっかり日が昇り、青空や白い雲が広がっているが、上を向かない二人にはどんな美しい空がそこにあっても関係ない。
「うっせえな!! わかってるよ!!」
フランを追いながら、トニーが大声でそれに答える。
大声を上げても、風の音で減らされるのでフランに届くのは半分も満たないだろう。
「わかってない、わかってない」
フランはトニーのことなど気にする素振りもなく、
振り向かず森の中を勢いよく足早に歩き続ける。
トニーは喚き散らして足を早める。
「あーーー! もう本っ当うるせえな!!
出発してからそれしか言わないじゃねえか!!」
フランが突然足を止めた。
だが振り向かない。トニーもそれに合わせて足を止める。
「……それ以外に何を言えばいいんですか?」
周りは草が生い茂り、腰まで長い葉が伸びている。
二人の間を強い風が吹き抜けていく。
フランは前を向いたまま続ける。
「メアリーちゃんは、わかってる。
トニーさんが何処にもぶつけれない怒りをメアリーちゃんにぶつけてること。
だからトニーさんがどんな酷い態度しても何も言わないんですよ!!」
フランは怒りを込めた表情でトニーを振り返り、声を大きくしてまくし立てる。
「なんであの場で、僕がトニーさんに何も言わなかったかわかりますか!?
トニーさんの味方をすればメアリーちゃんは益々追い詰められるし、逆にメアリーちゃんの味方をすれば、貴方が孤立してメアリーちゃんは自分を責めて心を痛める!!
貴方なんかどうでもいい!!
僕が大切なのはメアリーちゃんなのに!!
兄も弟も目の前から消えて、一番辛いのは彼女でしょう!? そんな事もわからないんですか!?」
トニーがゆっくり頭をうなだれる。長い髪が風になびいて顔の周りをお構いなしにゆらゆら揺れる。
「だから悪かったって……次に会った時にはちゃんと話すから……」
フランの目をしっかり見ることが出来ず、目線を下に落とす。声の向きで、フランがまだこちらを向き続けているのがわかった。
「僕に謝られても意味ない!!」
フランの声が森の奥に消えていく。
フランは薄々気付いていた。自分自身もまた、この怒りの矛先を探していることに。それをトニーにぶつけていることに。
だが、それがわかっても、その止め方も、矛先の向け先も見つからないのだ。
またフランは話しながら歩き出した。それに少し離れた位置でトニーが後をついていく。
「あー……! 結局ゼインはメアリーちゃんと旅することになったし!! いつもいいとこばっか持っていきやがって!!
だいたい、トニーさんが次に会った時に優しくしたら、その反動でメアリーちゃんとうまくいくかもしれないじゃないか!!
あーー腹立つ腹立つ!!!」
フランは大きな独り言を言いながら、雑に草を掻き分け先へと進んでいく。
とその時、予兆もなく地響きが起こる。
二人の足元も激しく揺れ始め、立っているのもやっとだ。
トニーは思わず近くの木にしがみついた。
「何なんだよこれ……」
「嫌な予感しかしないですね……」
フランは剣を杖代わりにして、何とか倒れず持ちこたえている。
地響きの音や振動が大きくなり、下から突き上げるような振動に変わり、足元に割れ目が生じてくる。
前方の土に盛り上がりが見えた。いつからそうだったのか、元々そうなのかはわからない。
すると、その一番高い部分が突然、爆発したかのように土が飛び散った。辺りに砂埃と泥の匂いが充満し視界が悪くなる。
岩のような大きな塊が、ズリズリと音を立て近付いてくるのがわかる。風が吹き、視界が開けるとその姿が露わになり二人は息を呑んだ。
巨大なモグラのように見えるその姿は、毛は茶色で短く、両手には大きな爪が生えている。その爪が日の光を反射させギラリと睨むように光っている。背中には硬くて薄そうな羽根も見える。
「モグラとドラゴンが合体してるみたいだな……」
トニーが剣を構えながら呟くと、フランがそれに答えるように続ける。
「モグラ竜……とでも言うんでしょうか……
今まて聞いたこともないですが……」
モグラ竜は、ドスドスと身体の重さを感じる音を立てながらも、真っ直ぐこちらに向かって来る。
トニーは剣に水流を螺旋状に纏わせ、すれ違いざまにその背へ高い位置から振り下ろした。
だが金属の高い音が響き、モグラ竜の硬い身体にトニーの剣は簡単に弾かれた。モグラ竜は、一瞬止まる様子を見せるもすぐに向きを変え、また二人の方へ進んでくる。
「何なんだよあの硬い皮膚は!」
トニーが吐き捨てるように言いながらそれを避ける。
フランは避けながら、注意深くモグラ竜の身体を観察している。
モグラ竜は通り過ぎると、また方向を変えて二人の元へやって来る。数回それを繰り返していたが、次に近付いた時、長い爪の大きな前足を掲げた。
「トニーさん!! 危ない!!」
トニーが剣を構えたが、それを爪で弾かれ、身体ごと飛ばされ放物線を描く。
「トニーさん!!」
フランがトニーの元へ駆け寄るが、それより早くトニーは口に入った泥を吐き捨て、肩で呼吸をしながら泥まみれの身体を無理矢理起こす。
「クソっ……力も強過ぎだろ……」
フランがその美しい顔に、不敵な力強い笑顔を見せる。
「トニーさん、そろそろ反撃の時間です」




