それぞれの役割と進む道
カイトがその場を離れようとするのでそれを止める。
「カイト……」
「? 何でしょう」
カイトは足を止め振り返り、私の顔を不思議そうに見つめてくる。
「私たちは主従関係を結んだわけじゃない。
友達でしょ」
「え……、あ、はい……」
カイトは恥ずかしそうに目を逸らす。
「じゃあ、そんなよそよそしい態度とらないでよ」
少し拗ねたように言ってみる。
ゼインに接するのと同じように、私を敬う態度に距離を感じて寂しくなってしまったのだ。
「あ、わかり……わかった、メアリー」
カイトは、耳まで真っ赤にし、照れ笑いを浮かべ答えてくれた。ゼインは何も言わず、穏やかな表情でそれを見ている。
カイトは軽く微笑み、アーサーやドレイクの元へ向かって行く。
さて、次は……
「ナターシャは……私と一緒に行かない?」
「え!?」
まさか自分に声がかかると思ってなかったのだろう、木陰に座っていたナターシャは、勢いよく立ち上がった。当たった木の枝が激しく揺れている。
「私!? なんで!?」
「魔道具の国へ行けば、それより強い杖が手に入るかもしれない。そしたら魔力を増大出来ると思う」
ナターシャは驚いた表情のまま、杖に目をやって呟く。
「これより強い杖……」
ナターシャの元へゆっくり近付き、ナターシャの手と杖にそっと触れる。杖は古びており、ところどころ墨で黒くなったり、折れそうな場所も見てとれる。
怯えさせないよう、諭すように話しかける。
「無理強いはしない。もし、自分の国に帰りたいならその手伝いをする。自分で決めていいよ」
「……じゃあ、行こうかな……」
重い口を開き、迷いながら出たその言葉は、他に選択肢がなかったからかもしれない。この現状を見て断りづらかったからかもしれない。
だが、自分の言葉で言ってくれたのは確かだ。
「ありがとう」
皆を利用しているに過ぎないのかもしれない。それを考えると自己嫌悪で吐き気がする。
アーシュを助け出したい一心で動いているが、ここの人たちの殆どがアーシュとは無関係なのだ。アーシュがどうなろうと、ここにいる人々の生活が変わるわけではないのだから。
だが、皆には悪いが、利用出来る物は最大限に利用したい。その為にはどんなに重い罪も背負う覚悟でいる。
どう動いていいかわからずにいるミアにも声をかける。
「ミアには一旦、国に帰ってもらいたい。
国がどうなっているか見てきてほしいの。馬車も待たせてるままだから」
「それと」
ゼインが付け加える。
「フェアリーを連れて来てもらいたい」
「え!?」
「え!?」
ミアもだが、私も驚き声を上げる。
「フェアリーは国から出れないんじゃないの?」
ゼインを見上げながら慌てて口を挟む。
「基本的にはそうだが……、俺の国には来てただろう?」
「確かに……」
ゼインの国へ二回目に行った際に、ルナは来てくれた。あれから色々なことがあって、それをゆっくり考える暇すらなかった。
ゼインは私を見下ろしながら続けた。
「あの時、あのフェアリーは卵の殻を持ってきていた」
「卵の殻? フェアリーの卵?
全然気付かなかった……」
「卵の殻には魔力が宿っている。それも一緒に持ってくれば、ここにフェアリーも来れるかもしれない。
フェアリーの力があれば、傷ついても治癒することが出来るだろう?」
ルナの魔力量を考えれば、回復出来るのはせいぜい一、二回だろう。ただ、何もしないよりはマシかもしれない。
しかし、ルナが来ると言うか……
ゼインに捕まったあの日から、ゼインが訪れた時は会わないように隠れてばっかりで、一度も姿を現さなかった。ゼインの真の目的やその後の出来事を話しても、それは変わらなかった。
「ルナが拒否しなければ、それでいいけど……」
それしか言えなかった。ここで来てほしいと言えば、ミアは強制的にでも連れて来ようとするだろう。
本音は来てほしい。アーシュを助け出す為に出来ることなら何でもしておきたい。
ゼインは私が何も言わなくともそれを理解しているようだった。
「国へ戻って話してみますね」
ああ言っておけば、ミアは無理矢理連れて来ることなどしないだろう。これに関しては適任と言える。
ミアは国王に情報を流していたことで自分を責めているのではないだろうか。態度が一線を引いたように、距離をとられているように感じる。
そして、相変わらずトニーは目を合わせようとはしなかった。
だが、やっとこれで次の目的地が定まった。
皆が一斉に動き出す。
カイトが空高く舞い上がり、 アーサーたちは朝靄の中へ消えて行った。トニーやミアたちもぞれぞれ動き出す。
皆の背を見ながら、私も自分の行くべき所へ覚悟を決める。
「俺たちも行くぞ」
ゼインがリオールを片腕で抱き上げ、静かに歩き出す。ナターシャも、古びた杖をぎゅっと握りしめてその後に続いた。
私は、未だに黒い炎が不気味に揺らめく城を、もう一度だけ振り返る。
待っててね、アーシュ。
必ず戻ってくる。




