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異世界転生した看護師の規格外な冒険物語 ※なお、スキルに頼れたのは最初だけ(悲)〜冒険編〜  作者: VANRI


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花嫁と生贄たち

 ガルシアの血で汚れてしまった私の身体や金の髪は、カルミラの命令によって再び綺麗に洗い流され、あの美しい真っ白なドレスを着させられた。

 そして一族の最深部にある、あの広大な大広間へと連れてこられた。


 そこは普段は滅多に人が立ち入らない神聖な場所なのだろうか、室内にはひんやりとした新しい木造の建物特有の匂いと、敷かれたばかりの分厚い絨毯の独特の匂いが立ち込めていた。


 床に真っ直ぐに敷き詰められた赤い絨毯は、まるで新鮮な血で染め上げられたかのように鮮やかで、大広間の入り口から、天井へと届きそうなほどに長い長い大理石の階段の上まで一直線に続いていた。


 階段の上には、きらびやかな金や宝石を散りばめた豪華な玉座の椅子が、威圧的に一つだけ鎮座している。

 大広間内の壁際、左右の等間隔のロケーションには、剥き出しの刃を持ったカルミラの屈強な兵士たちが、隙間なくずらりと配置されて周囲を威嚇していた。


 その長い階段を、カルミラの手によってゆっくりと上へと誘導されながら、私は胸の中で酷く冷たい独白を零した。


 ――ああ。まるで……処刑台へ連れて行かれる、哀れな死刑囚のようだ――


 階段の頂点へ到達すると、カルミラはいつもその背に背負っていた、あの黒く太い槍を、きらびやかな椅子のすぐ横へと無造作に立て掛けた。そして、自身の豪華な玉座へとどっしりと深く腰掛ける。


 残された私は、その椅子のすぐ横に、ただお人形のようにぽつんと立たされる形になった。


 私には、座るための椅子すらただの一つも用意されていない。『花嫁』などというのはただの聞こえの良い名ばかりで、その実態は、カルミラへの危害を一切禁じられた、ただの都合の良い所有物――『奴隷』なのだ。


 この国の人々にとっては、私のことなど対等な人間としてすら数えていないのだろうと、私は左手首の手枷を強く見つめながら、暗い諦めのなかにいた。


 ――と、その時だった。


 突如として、大広間の外が、にわかに激しく騒がしくなった。


 大勢の人々の怒鳴り合う話し声。激しく鎧が擦れ合ってぶつかる不快な金属音。人々が乱暴に歩き、夜の雨の水分を含んだ泥がペチャペチャと汚く跳ねる音……。静まり返っていた空間に響くそのすべてのノイズが、私の耳条にひどく不気味に障った。


 一体、外で何が起こっているのかと、私が長い階段の上から大広間の正面扉をじっと凝視していた、まさにその刹那だった。


 その巨大な木の扉が、左右へとギィィ……ギィィ……と、大きく嫌な軋み音を立てて豪快に開け放たれた。


 ドクンッ!!!


 衝撃のあまり、私の心臓が本気で口から飛び出るかと思うほどの勢いで跳ね上がった。


 扉の向こう側の、最悪な光景が私の瞳に飛び込んでくる。


 何で……っ!? 何で、みんなが、ここに囚われているの……!?


 私の思考は一瞬にして完全に狼狽し、真っ白にフリーズした。


 激しい騒がしさをいっそう増しながら、縄でグルグル巻きに縛られたゼイン、トニー、血塗れのフラン、カイト、そして白いライオンのアーサーの一団が、カルミラの兵士たちの手によって、私が立つこの長い階段のすぐ真下へと、無残に引きずられるようにして強引に誘導されてきたのだった――。



「さあ! 夜が明けたぞ! 今から我が一族の歴史に刻まれる、最も素晴らしい婚儀を執り行おうではないか!!」 


 私のすぐ隣で、玉座に深く腰掛けたカルミラが、大広間全体へと響き渡るような酷く冷酷な声音で高らかに婚儀の開始を宣言した。


 それに対し、長い階段の真下からは、


「お前なんかと結婚させっかよ! メアリーちゃんは俺と将来を約束してるんだよ!」


 という、フランの我を忘れた激しい叫び声が聞こえてきた。


 けれど、今の私はその声に安堵する余裕すらなく、胸の中の凄まじい動揺をどうしても隠しきれずにいた。


 何故……、何故なの……っ!?


 私が、カルミラの奴隷になるというあの最悪な手枷を大人しく受け入れたのは、万に一つでも魔導石や角を奪うチャンスを狙うため、


 ――そして何より、私がこうして人質として大人しくここに残れば、トニーやフラン、みんなの命だけは絶対に無事でいられると思ったからなのに。

 それなのに、何故みんなが縄で縛られて、ここに囚われてしまっているのだろう。

 それに、私が今、カルミラへの攻撃を一切禁じられる最悪の『奴隷の契約』をハメられてしまっていること。そして、従順なフリをして内側からこの一族をハメようと大博打を仕掛けているこの「真意」を……どうやって、階段の下にいるトニーたちに、カルミラにバレないように伝えたら……。


 パニックに陥る私の視線が、ふと、隣にいるカルミラの『右腕』へと向けられた。


 その瞬間、私の全身の血の気が、一気にスッと引いていくような凄まじい恐怖が背筋を駆け抜けた。


 ――大蛇の、タトゥー。


 さっき、姿見の前でナターシャが涙を流しながら教えてくれた、この一族の婚儀の本当の悍ましき実態。 


 この婚儀の最中、私はカルミラの『花嫁』としての血の契約を結ぶために、自分の右腕に全魔力を限界まで込めさせられながら、あの精神が崩壊するほどの凄まじい激痛を伴う「大蛇の紋様」を、この白い皮膚の奥深くへと強制的に彫り込まれようとしているのだ。 


 ナターシャのあの細い腕に刻まれていたおぞましい蛇の姿が脳裏にフラッシュバックし、私はあまりの恐怖と絶望の痛みに、思わず身体が震えてくるのを感じた。


 


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