花嫁のお披露目
「――っ、メ、メアリーちゃん……っ!!!」
その瞬間、床の上を引きずられていたフランが、我を忘れたように驚愕の叫び声を張り上げた。
そのまま階段の下までカルミラの兵士たちに乱暴に誘導されるが、フランはその間も、限界突破した興奮を全く抑えきれない様子で激しく声を放ち続けている。
「えええええええーーーっ!? メ、メアリーちゃん、めちゃくちゃ綺麗だよっ!! 可愛いし美しいし、信じられないくらいお似合いだよっ!!
あーーー! もうっ!! トニーさんっ!! こういう感動的な時って、一体なんて言葉で表現したらいいんだろうっ!!」
フランは横を縛られたまま歩いているトニーに向かって、顔を真っ赤にして興奮のまままくし立てた。
一方のトニーは、階段の上の眩いドレス姿のメアリーから片時も目を離せず、まるで魂を奪われてしまったかのように、ぼーっとした放心状態でぽつりと呟いた。
「……『言葉にならない』、かな……」
「あああっ!! それだそれっ!! あーーーっ、本当に言葉にならないよっ!! ねえ、あのドレスって絶対に僕のためだよね!? 僕のために着てくれたんだよね!? あんな可愛い格好をしちゃってさぁ!!
メアリーちゃん、やっと僕と本気で結婚してくれる気になってくれたんだよねっ!!」
完全に状況を見失って一人で大ハッスルしているフランの横で、ゼインだけは深紅の瞳を細めて相変わらず不敵な笑みを浮かべていたが、カイトとアーサーの二人は、同時にその眉を不快そうに強くしかめた。
「ガルルルル……」という、アーサーの地を這うような低い威嚇の声に反応し、カイトが静かに声を潜めて言葉を返す。
「……ああ。そうだな、アーサー。ここに入った途端、あの悍ましい『嫌な匂い』が、さっきの何倍もぐんと強くなりやがった。
この鼻を突くおどろおどろしい匂い、もしかして……」
カイトが重大な真実に気づき、言葉を紡ごうとした――まさにその瞬間だった。
彼らは長い大理石の階段のちょうど真下へと到達し、背後にいたカルミラの屈強な兵士たちによって、衣服の胸元を力任せに掴まれて、冷たい床の上へと強引にガバッ!! と激しく跪かされた。
「いってぇなあっ!!! もっと捕虜を丁寧に扱えよ、この無能どもがっ!!」
大広間の冷たい大理石へと強引に跪かされたフランは、激しい苛立ちを隠そうともせず、背後に立つカルミラの兵士を般若のような顔で睨み上げた。
そして、自分のすぐ隣で相変わらず優雅に余裕の表情を浮かべているゼインへと、意地悪そうな声を低くかける。
「おい、ゼイン。一国の偉そうな国王ともあろうお方が、他国の更地で随分と無様な格好をさせられてるじゃんか。
……お前ほどのデタラメな魔力があるなら、こんな安っぽい縄くらい、力任せにブチッ! と引きちぎることくらい出来ないのかよ」
「――は?」
長い階段の上のメアリーの姿をじっと見つめていたゼインの、深紅の鋭い瞳がゆっくりとフランへと落とされた。その眼差しに宿っていたのは、フランの挑発に対する怒りなどではなく、心底呆れ果てたような純粋な疑問だった。
「お前は、一体さっきから何を言っているのだ? ……こんなただの麻の縄など、『最初からすべて綺麗にほどいている』に決まっておるだろう」
「はっ!? いつの間に……っ!? じゃ、じゃあちょっと、ついでに俺の縄も今すぐほどいて――」
フランが驚愕に目を見開き、ちゃっかり便乗しようと言葉を紡ぎかけた、まさにその瞬間だった。
彼らの遥か頭上――絢爛豪華な玉座の頂点から、カルミラの傲慢で美しい声音が、大広間全体へと容赦なく降り注いできた。
「さあ! 夜が明けたぞ! 今から我が一族の歴史に刻まれる、最も素晴らしい婚儀を執り行おうではないか!! こうして床の上には、婚儀を祝うための新鮮な『生贄の食糧』も完璧に揃った。
……他国の哀れな騎士どもよ、この国まで我が美しいメアリーを無事に連れてきてくれた礼だ。せめて最期は、その愛しい花嫁の目の前で、鮮やかに血を噴き出して散らせてやろう」
そのカルミラの、人間を豚や牛と同列に扱う悍ましい人食いの宣言を聞いた瞬間、フランの脳内の理性のリミッターが完全に消し飛んだ。
フランは床の上で激しく暴れながら、怒号の声を張り上げる。
「ふっざけんなよ、テメェ……ッ!!! お前なんかとメアリーちゃんが結婚するわけないだろ!!
メアリーちゃんはな、俺と子供の頃からずっと将来の『結婚の約束』をしてるんだよっ!! その汚い手を今すぐそこから離しやがれっ……!!」
「落ち着け、フラン!!」
大騒ぎするフランの言葉を、トニーがそれを力ずくで制するような、酷く重苦しい声を出して遮った。
トニーの深い青い瞳は、激しい怒りに血走りながらも、長い階段の上のメアリーの姿を痛いほどに凝視していた。
「……静かにしろ、フラン。なんか……メアリーの様子が、明らかに変だ」
トニーのその切迫した一言に、フランはピタリと口を閉じ、弾かれたようにメアリーの方へと視線を跳ね上げた。
階段の頂点、純白のウェディングドレスを身に纏って佇む、彼らの最愛の少女。
だが、トニーたちの目から見たメアリーのその表情は……本物の深い「恐怖」と、どうしようもない絶望に、その華奢な身体を小さく震わせているように見えたのだった――。




