花嫁との再会
漆黒の魔獣アリコーンが、夜闇に浮かぶカルミラ一族の本拠地へとついに到達し、その入り口の前に広がる鬱蒼とした草原の上へと静かに着地した。
背の上に密集して積み上げられていたトニーたちは、カルミラの兵士たちの手によって、次から次へとまるで物でも扱うかのような手荒い扱いで、泥塗れの大地へとドサドサと引きずり降ろされていく。
縄で縛られたまま泥の大地へ足をつけた時、ゼインが隣のトニーへ向けて、酷く重苦しい声を静かに掛けた。
「――トニー。おそらくあの女、カルミラは……俺やアストラと同じ年の生まれだ」
「え……っ!? そ、それって……!!」
泥に足を取られながら歩き、トニーは激しい衝撃に目を見開いた。
ゼインとアストラがこの世界に生を受けたその年は、歴史上【1000年に一度、世界の魔力が極限まで高まる特異な時期】であると古くから言い伝えられていた。その呪われた年に生まれた王族の子は、一人で一国を容易く滅ぼすほどの、デタラメで強大な魔力を宿して産まれてくる――。
当時、その伝説を知った各国の王たちは、競い合ったかのように一斉に世継ぎを産ませようと狂奔した。
だが、結果としてその強烈な魔力の負荷に耐え抜き、無事に産まれ落ちることができたのは……隣国の若き王であるゼインと、メアリーの亡き実の兄、あのアストラのみだった……。
世界ではずっと、そう言われ続けてきたはずだったのだ。
「何で、そんなことがあいつを見ただけで、お前に分かるんだよ……っ」
トニーは、背筋へと走るおどろおどろしい恐怖を必死に抑え込むようにして、声を極限まで低く発して問い詰めた。
ゼインは縛られたまま、カルミラたちが待つ不気味な村の中心部を見据え、その深紅の瞳を妖しくきらめかせながら淡々と呟く。
「分かるのだ。……あの女の全身から、かつて世界を震撼させたあの傲慢な魔力の波長が、今も肌を刺すようにひしひしと伝わってくる。……アストラが確かにこの世界に生きて、俺と笑いながら刃を交えていた、あの懐かしい時と同じようにな」
カルミラの強靭な兵士たちは、白銀の兵士たちの集団はひとまずその場に待機させたまま、ゼインたちの一団だけを、より物々しい警戒態勢で不気味な村の中へと誘導し始めた。
縄で自由を縛られたまま歩かされるなか、カイトがチラッと、すぐ隣を歩かされているアーサーの方へと薄赤の瞳を向けた。
獣の国の王子であるアーサーは、今や太い首に屈辱的な縄をがちがちに巻きつけられ、まるで犬の散歩でもされているかのように、カルミラの兵士にその縄を力任せに引っ張られながら同じように村へと誘導されていた。
カイトと目が合ったその瞬間、アーサーは、その大きなシルバーの瞳を鋭く細め、喉の奥から地響きのような低く冷たい声で、ガルルル……と不気味に唸り声を上げた。
「……そうだな。俺もそう思う……」
カイトが、そう諦めたように力なく呟いたのを、すぐ後ろを歩いていたフランは聞き逃さなかった。
泥塗れの顔の中で、その美しい青い瞳をパッと信じられないほど輝かせながら、カイトの背中へと声をかけた。
「えっ!? 何今の!! カイト、お前……今、アーサーと会話したのかっ!?」
カイトは周囲を警戒しながら歩き続け、背後のフランに視線すら向けずに、どこか怯えるように声を低く潜めて答えた。
「あ、ああ……。あいつ、なんか、この村の中から『嫌な予感』が、野生の鼻を突くようにして押し寄せてくるって、そう言ってるんだ。
……それに、俺自身だってなんだか、さっきから不気味な寒気がどうしても止まらねえんだよ……。
メアリーの身に、俺たちのいない所で取り返しのつかないことが起こってなきゃいいんだけどな……」
カルミラの兵士たちに縄で縛られたまま歩かされていると、やがてその不気味な村の中心に、一際大きく禍々しい存在感を放つ木造の建物が現れた。
その建物の巨大な正面扉が、左右へとギギギ……ギギギ……と、大きく不気味な軋み音を立てながら、屈強な兵士たちの手によってゆっくりと豪快に開け放たれていく。
――そして、開かれた扉の向こう側の光景を目撃した瞬間、ゼインたち一同は、凍りついたように一斉に息を呑んで絶句した。
目の前に広がっていた広大な大広間には、最深部へと向かって、血のように真っ赤な絨毯が一直線に真っ直ぐに敷き詰められていた。その赤絨毯の先には、天井へと届きそうなほどに長い、長い大理石の階段がそびえ立っている。
そしてその階段の最上階の頂点には――これまでの木造の質素な村の景色とはあまりにも場違いな、眩い金や極上の宝石が贅沢に散りばめられた、傲慢で豪華な玉座が一つ、厳かに鎮座していた。
その豪華な椅子に、己の黒く太い槍を携えて堂々と君臨している、一族の首領カルミラ。
そして――そのすぐ真横には、ピンクや赤の可憐な花飾りを髪に挿し、息を呑むほどに真っ白な、あの婚礼のウェディングドレスを身に纏ったメアリーが、お人形のように静かに佇んでいたのだ。




