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異世界転生した看護師の規格外な冒険物語 ※なお、スキルに頼れたのは最初だけ(悲)〜冒険編〜  作者: VANRI


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ゼインの魔力と魔法製薬の兵士

「なっ……何故だ!? 何故、我が国の痺れ薬が、そこの黒毛の男には全く効かないんだっ……!?」


 トニーたちを取り囲んでいた白銀の兵士たちの間に、一気に激しい動揺とざわめきが巻き起こった。彼らは信じられないものを見るように、口々に驚愕の疑問を口にし始める。


 ゼインは、足元で這いつくばっているトニーの顔からゆっくりと目を離すと、大きな大剣を肩に担ぎ直し、その強靭な体勢を余裕の足取りで兵士たちの正面へと向けた。


「まあ……、そうか。そうだな、お前たちは『魔法製薬の国』の人間なのだから、自慢の薬の効き目など、こんなものだろう。

 ……だがな、そんな痺れ薬などという回りくどい真似をせずに、吸い込んだ者を一瞬で瞬殺出来るような、もっと凶悪な劇薬にすればいいものを」


 ――なんて恐ろしいことを言う男なんだ……!


 泥に顔を伏せたまま、トニーは背筋に冷たい戦慄が走るのを感じていた。

 もしもこいつの言う通りに敵の薬が最初から瞬死の毒であったなら、今頃自分とフランは、この土の上で既に二回は死んでいたはずだ。

 そう本気で思わせるほどの重い威圧感が、ゼインの全身から放たれている。


 ゼインは呆気にとられて硬直している白銀の兵士たちへ向けて、酷く不敵で、邪悪な笑みをその端麗な口元に浮かべながら優雅に語りかけた。


「教えてやろう。俺の秘めたる固有魔力の性質は……『あらゆる毒物の完全なる解毒』、そして『全ての傷の治癒』、極めつけはあらゆる干渉を弾く『結界魔法』だ。

 ……フフッ。つまりお前たち魔法製薬の人間が、それこそ喉から手が出るほど欲してやまない究極の【解毒の力】を、この俺は生まれながらに手の中に保持しているのだ」


 そう言いながら、先ほど降ってきた粉がついていた自分の指を、舌を出しべろっと舐めてみせる。


 その事実を突きつけられた兵士たちは、自分たちの国家のアイデンティティを根底から全否定された恐怖に激しく動揺しながらも、必死の抵抗を試みるようにゼインへと一斉に剣の切っ先を向け直した。


 だが、その張り詰めた戦場の真ん中で、トニーはふと、決定的な違和感に気がつく。


 自分のすぐ目の前で、白いライオンのアーサーと、カイトの二人が、凶悪な痺れ粉を浴びたというのに、何事もなかったかのように平然と立っているのだ。


 トニーは地べたに這いつくばりながら、最後の力を振り絞って言葉を低く絞り出した。


「なん……で、だ……。アーサー……と、カイトは、何故……痺れて、いない……っ」


 ゼインはその掠れた声に反応し、トニーの方を振り返りながら、どこまでも慈愛に満ちた微笑みを向けた。


「何を言うのだ、トニー。我が愛すべき弟たちが、目の前で毒に侵されて無様に苦しむ姿を見るなど、この俺が耐えられるわけがないではないか。

 ……だから、あの二人には、兵士どもが銃を撃つよりも前に、俺の『結界魔法』を完璧に張り巡らせて防いでおいてやったのだよ」


 ……弟、だと? アーサーまで実の弟扱いかよ……!


 トニーが心の中で盛大にツッコミを入れたまさにその時、今度は隣で同じように泥を舐めていたフランが、その美しい青い瞳を般若のように激しく血走らせ、ゼインを呪うように睨みつけながら、なんとか絞り出した言葉を投げつけた。


「なん……で……俺たち、には……張って、くれなかったんだよ……っ!!」


 ゼインは、今度は1ミリの悪気もない、太陽のように眩しい極上の笑顔をフランへと向けて、愉快そうに高らかに笑った。


「ハッハッハ……! そんなもの、お前たちが敵の国の特製の粉を浴びたとき、一体どんな毒で、肉体がどのように麻痺して効いていくのか――その極上の経過を、この目でじっくりと観察してみたかったからに決まっておろう!!」


「テメェ……ッ!!!(※声にならない怨念)」


 フランとトニーの、ゼインへの殺意が完全にMAXに達した瞬間だった。



 ゼインは、泥の中で自分を呪うように睨みつけてくるトニーやフランの様子など、ハナから気にする素振りすらなく、獰猛な笑みを浮かべたまま冷酷に口を開いた。


「さあ、白銀の兵士ども。

……お前たちは、これからどうする?」


 ゼインは背負っていたあの巨大な大剣を滑らかに引き抜くと、その分厚い白刃を、鬱蒼とした木々の隙間から差し込む冷たい月の光でギラリと凶悪に輝かせた。


「このまま俺たちと戦って、今ここで無残に死に絶えるのもよい。

 ……だが、俺個人の意見としてはな、この国が誇る優秀な『製薬技術者』の数が無駄に減ってしまうのは、今後のために少々痛いのだ」


 そのゼインの、命のやり取りすら自らのチェス盤の上の駒のように扱う冷徹な脅迫に、包囲していた兵士たちの間に、言葉を失うほどの強烈な戦慄が走る。


 ゼインのすぐ隣では、巨大な白いライオンのアーサーが、ガルルル……と地響きのような唸り声を上げて獲物を定めるように周囲を冷酷に見回していた。

 カイトもまた、折れた羽根の激痛をその鋭い薄赤の瞳の奥へと押し込め、腰の剣をすらりと抜き放ち、いつでも敵の首を撥ねられる姿勢で静かに構えていた。

 

 圧倒的なゼインの威圧感の前に、包囲していた白銀の兵士たちの隊長が、ガタガタと恐怖に膝を震わせながら、ついにその剣を大地の泥へと落とし始めた――。




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